4月12日、阪神の村上投手は対巨人戦で、7回裏まで無安打無四死球の完全試合ペース。しかし8回表、岡田監督が彼に代打を送り、プロ野球史上17人目の完全試合は消えた。
これは岡田監督の職権乱用のパワハラ采配だと、私は断じたい。
昨年ロッテの佐々木朗希投手が、誰の記憶にも新しい「2試合連続完全試合」を達成しそうになったとき、当時のロッテ井口監督は、8回終了時点で彼を降板させた。
私は、そのときその采配を、高く評価した。が、今では「間違った評価だった」と後悔している。
井口監督は佐々木投手自身にも相談し、既に疲れが大きいとの返事を得て交代を決断したという。
が、過去に全試合達成投手はプロ野球で16人、アメリカ・メジャーで23人いるとはいえ、完全試合を2度記録した投手は皆無ということを、私は失念していた。
完全試合2試合とは、人類史上初のとんでもないスーパー大記録だったのだ。それほど奇跡的な出来事の達成に、佐々木投手はあと一歩まで迫っていた。おまけに彼の投球数はまだ102球。残り3人への挑戦は、決して不可能ではなかったのでは? 少なくとも挑戦させたほうが良かったと、今は確信している。
当初私が。井口監督の投手交代を支持したのにも、もちろん理由がないわけではなかった。
日本の野球(特に高校野球)の投手の多くは、投げすぎで酷使を強いられ、肩や肘を壊すことがあまりに多いという事情がある。
今も高校野球では1週間500球以内というプロ野球でもメジャーでも絶対に許さない投球数を許可する無謀なルールで試合を行っている。そのような非科学的な判断から、多くの若い投手が身体を故障する悲劇に対する警鐘になってほしいというのが、佐々木投手の降板を支持した理由だった。
が、それ以上に価値あるスーパー大記録への挑戦だったのだ!
もう一つ例を挙げる。それは07年日本シリーズ第5戦。中日・山井投手が日本ハム相手に8回まで完全試合ペースで進んだのに、落合監督が降板させたケースだ。
そのとき私はテレビを見ていて激怒した。 なぜなら私は、1956年ドジャース相手に史上唯一のワールドシリーズ完全試合を達成したヤンキースのドン・ラーセン投手のことを知っていたからだ。
ラーセン投手は、メジャー14年で8球団を渡り歩き、通算81勝91敗の平凡な中堅投手だが、生涯ヤンキースのヒーローとして評価され、引退後も始球式に招かれたり、メジャーの先輩として大谷選手に激励のメッセージを送ったりもした。
山井投手の降板は、指の豆が潰れ血塗れだったかららしい。が、それでも日本シリーズ史上初の(唯一の)完全試合を達成していたら、彼のその後の人生は、どう変わっていただろう……?
監督の役割はチームを試合に勝たせることだが、選手がヒーローになる権利を奪う権力まで有しているとは思えないし、思いたくない。
村上投手をリリーフした投手は本塁打を打たれた。延長戦で阪神は勝ったが、夢に消えた完全試合とともに、村上投手のプロ初勝利も消えた。いや「プロ初勝利完全試合」というメジャーにも存在しないスーパー大記録も消えた。 選手より監督の采配が目立つ野球は、やっぱりつまらない。
*********************************** 冒頭に書いた、音楽での「指揮者とソリスト、どっちがボスか?」という問いに、バーンスタイン自身は、「時には指揮者、時にはソリスト」という答えを自ら口にし、グールドとのブラームスのピアノ協奏曲第2番の演奏に臨み、演奏終了後、2人は満員の聴衆から大喝采を受けた。小生も、野球で大喝采を贈ることのできる試合が見たいですね。
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