――もうプロ野球がイヤになったのでは?
堀江 いいえ、そんなことはないですよ。イヤにはなってません。けど、いろいろ面倒くさいなあというか、ちょっとうんざりはしましたね。
――査定委員会は山ほど理由をあげ、何百ページにも及ぶ資料を示して楽天を選びましたが、選手会がストをした頃からオーナー連中は楽天に決めていたようですね。
堀江 委員会は茶番ですよ。なかには立派な人が一人くらいいるかと期待したんですが、ものの見事にいなかった(苦笑)。
――宮内、堤、ナベツネといったオーナー連中と楽天の「出来レース」だとはわかっていても、少しは期待されてたんですね。
堀江 そりゃ、そうですよ。だって冷静に考えれば、我々が球界に入ったほうが地元の人気も出るし、球界全体も盛りあがるし、企画力でもウチのほうが上ですから、いくら僕を個人的に嫌っていても、そんな私情とは関係なしに、合理的な判断をする人が一人くらいはいると思っていましたよ。
――ところが一人もいなかった。
堀江 まあ、皆さんサラリーマンですからね(苦笑)。要は個人の保身で動いたわけで、それはそれで現状のプロ野球では仕方のない面もあります。プロ野球を良くしようとか、会社を良くしようという考えもないし、良くしたところで自分の収入は増えないという旧来の慣習のなかで社内の力学ができあがっていて、僕みたいな人間が入ってきてゴチャゴチャやり出して球界が変わってきたら、これまで仕事をしてこなかった連中の生きていく場所がなくなるから、自分はお払い箱になってしまうと思ったんでしょう。
――そういう人たちはプロ野球ファンのためにもお払い箱にしてほしいですね。
堀江 組織が変われば当然消えていただくしかない人たちでしょうけどね。だから僕みたいな人間は嫌われたってことなんでしょう(笑)。けど、今回はそれ以外にもいろんな動きがあって、僕もいろいろ裏の情報を得ました。明大の一場クンの問題やなんやかんやの内部情報がリークされたり、次々とオーナーが辞めさせられたり、僕自身も読売の社会部が動いてるから身辺は気をつけたほうがいいといわれたり・・・。まあ、各親会社の社内の反オーナー勢力が動いたり、オーナー勢力が盛り返したり・・・。内部抗争といえばいいのか、チンピラ・ヤクザのシマ争いみたいなもので(笑)、みんないったい何をやろうとしているのか、さっぱりわからない。
――球界のリーダーシップを取ろうとする争いでもない。
堀江 そう。所詮はサラリーマンの保身ですから、1リーグにしようとした展望もわからないし、2リーグに戻してどうしようとしているのかもわからない。でも、これでは、ますますプロ野球の人気が落ちるんじゃないかな。
――楽天の新規参入やソフトバンクのホークス買収は、プラスに働かない?
堀江 あんまり他人を批判したくはないけど、三木谷さんにしても、ソフトバンクの孫さんにしても、企画屋さんじゃないですからね。孫さんはビジネスマンで、カネを引っ張ってくる能力では彼の右に出る人はいないだろうけど、企画力とか企画を実行に移す技術力は弱い。三木谷さんは、そういう力がもっと弱くて、単なる体育会系の営業マンですからね。
――ITビジネスとはいえ、意外と「アナログ人間」という声が高いですね。
堀江 完全にアナログですよ。表向きはITっぽいけれど、楽天市場も基本的にはただの営業モデルですからね。人気の出る新しい商品を作るんじゃなく、人気のある商品を売るだけ。そういう意味では、野球でもカネにモノをいわせて人気選手を引っ張ってくるというやり方しかないでしょう。
――ヴィッセル神戸でもイルハンを引っ張ってきただけでしたね。
堀江 野球でもそれ意外に方法論はないでしょう。ソフトバンクも同じです。松井とイチローを呼び戻すみたいなことを、孫さんは口にしたけれど、大事なことはスター選手を呼び戻すんじゃなく、スター選手を育て、創りあげ、ファンにアピールすることですよ。そういうヴィジョンとテクニックは、彼らにはないでしょう。
――ソフトバンクはホークスを転売すると思いますか?
堀江 そう思いますよ。それが良いとか悪いとかいうのじゃなく、それが孫さんのやり方だし、やってきたことですから。
<中略>
でも、ちょっと高すぎる買い物ですから、ほかに買い手がつかないでしょう。
――西武の200億円も高いですか?
堀江 それはもう、話にならない額ですよ。
――西武球団を買わないか、という話はあったんでしょう?
堀江 ええ。でも、値段が違いすぎた。
――100億円以下なら買うと?
堀江 そんなこといってない。新聞記者が勝手に書いただけです。
――いくらなら買います?
堀江 タダなら・・・。
――タダ? 無料?
堀江 そう。タダでも買うかどうか・・・。だって、相手の経営状態がまったくわからなくて、どういう付帯条件が付いてくるかもわからない状態で、買値なんて付けようがないですから。西武ドームは現在年間7千5百万円で借りれますけど、そこは西武鉄道でしか行けない場所でしょう。だったら球場での物品販売収入以外に鉄道料金の半分くらいは球団の収入によこせとか、そういう条件を話し合う必要があります。それをどう交渉できるかわからないけど、ざっと考えても100億円でも高いでしょう。50億円でも、どうかな・・・。
<中略>
――2年後くらいには日本のプロ球界に自分も加わっている、と(TV番組で)いわれましたが・・・。独立リーグの支援から始めるとか?
堀江 それはない。レベルの低いところではやりたくない。
――だったら新しくリーグを創る?
堀江 それも難しいでしょう。選手が動かないんじゃないかな。
――それなら、楽天の三木谷社長がやったように、現在プロ球界を支配している人たちに取り入るか、ファンの後押しを得る以外にないですよね・・・。
堀江 そうでもないでしょう。草の根運動的な活動には限界があって、選手会もこれ以上は大義名分を打ち立てられませんよね。つまり「球団数削減反対」のストは打てたけれど、「球団数増加」という改革を旗印にしたストは打てない。それは草の根運動の根本的な限界でもあって、やっぱり「中」に入らないと変えることはできないわけです。
――だったら、「中」に入る方法は?
堀江 僕の仕事は「最初に野球ありき」というわけじゃないんです。いろんな企業買収をやっているわけです。そんななかで球団を所有している企業があれば、自動的に球団をシェアするようになりますから。別に無理をして頭を下げてNPBに入れていただかなくてもいいはずです。
――なるほど。ある日とつぜん堀江さんが日本テレビの社長になっているとか?(笑)
堀江 それはありえない(笑)。けど、今回いろいろと球界と関わったことでわかったことも多かったですから。城を攻めるには、外側から堀を埋めて石垣を崩して・・・というのじゃなく、空から爆弾を落とす方法だってあるし、パラシュートで降りる方法もあるわけですよ。
<中略>
堀江 結局、現在のプロ野球全体が「読売クラブ」というべき存在ですよね。NPBは読売の子会社みたいなモノで、コミッショナーもリーグ会長も、それらの事務局にも読売の息のかかった人で、読売以外の会社も、球団を持つということは「読売クラブ部」に入れてもらうことになるわけです。
――西武もオリックスも、球団を新しく所有してNPBに加わったときは、その読売の牙城を崩そうと意気込んでましたが・・・。
堀江 でも、結局は「読売クラブ」に取り込まれたわけです。
――読売1千万部の力は強いし、テレビの力も強いですからね。スネに傷のある企業は逆らえないし、少しの傷もない企業なんて存在しないでしょうから。
堀江 でも、それはインターネットのない時代の話ですよね。つい最近も、あるテレビ局で「インターネットの危険性」なんて番組を放送していたけれど(苦笑)、もう、そういう時代じゃないですよ。そんなことで世論は動かせない。だから三木谷さんが、どうして「読売クラブ」に入ったかというと、これはあくまでも僕の推測でしかないですけれど、いずれは僕に負けてしまうと考えたからじゃないですか。ネットのオープンな世界でガチンコで勝負したら、楽天はライブドアに負けてしまうと。だから旧勢力とつるむ方法を選択したんだと思いますよ。時代の流れから考えると、判断ミスだったと思いますが。
<後略>
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はたしてライブドアの次の手は? TBSの株主になる・・・? それとも、オリックスを買う・・・? |