今回のワールドカップ・ドイツ大会は、日本のサッカーにとっての「成人式」である。私は、そう語りつづけてきた。
約20年前の1985年メキシコ大会アジア予選で韓国に勝てばW杯と騒がれ、国立競技場に6万人以上の大観衆が詰めかけた。そのとき初めて「ワールドカップ/W杯」という言葉が、コアなサッカー・ファンだけでなく、一般の人々の耳にも少しは届いた。
が、韓国に敗北。多くの日本人は21年ぶりのタイガースの優勝フィーバーで、W杯のことなど忘れてしまった。もちろんそのときの日本代表チームの監督の名前(森孝慈)を記憶している人は少ない。
それから8年後にJリーグが開幕。W杯とサッカーは、俄然日本人の話題の中心となった。そしてフランス大会に初出場。日韓大会では一次リーグ突破。そして今回の「成人式」では、選手を「大人扱い」するジーコ監督のもとで、どんな成長ぶりを見せてくれるか…と思っていたら、初戦のオーストラリア戦で、まだまだ成長しきれていない、いかにも20歳の若者らしい未熟さを露呈してしまった…。
以上のような感想を口にしたら、ある友人から次のように反論された。32年ぶりにW杯に出場したオーストラリアは、ラグビーやオージーボールが盛んでサッカーの人気は低い。プロのリーグができたのも昨年のことで、しかもJリーグをモデルに活動を開始したばかり。そんな歴史の浅いチームでも堂々と闘っている。日本の「若さ」や「未熟さ」に敗因を求めても仕方ないのでは…?
たしかにその通りだ。
が、オーストラリアにはサッカーに限らずスポーツ全般の発展に力を入れる国の政策が、確固として確立されている。
きっかけは70〜80年代にかけて、オリンピックでの金メダル獲得数が2〜4個と激減したことだった。この数字を何とか向上させようと企図したオーストラリア政府は、2000年のシドニー五輪招致を決定し、エリート・スポーツマンの養成プログラムを実行。
それと同時に、定期的にスポーツをする人口が10%増加するごとに心疾患と腰痛患者が5%減少し、それは社会に6億豪ドルずつの利益をもたらす、というデータをもとに、各都市の市民参加型総合スポーツクラブを充実した。
その結果、スポーツ競技人口の裾野の拡大につながり、オリンピック等でのエリート・スポーツマンのメダル獲得にもつながったのだ。
サッカーのプロ・リーグ誕生はたしかに昨年だが、オーストラリアのサッカーも、そのような「スポーツ立国」という国の政策を背景に強化されてきたものといえる。
それに較べて日本は……。
Jリーグの発足以来、サッカー協会が中心となって裾野の拡大とエリート選手の育成に力を入れてきた。が、国を挙げてスポーツの発展に取り組もうという意識も、それが豊かな社会づくりにつながるという思想も、まだまだ一般的に浸透しているとはいえない状況にある。
オーストラリア戦のあまりにも惜しまれる敗北は、4年に一度の祭典だけを騒ぐのでなく、もっと足もとを見つめろ、というサッカーの神様の御託宣なのかもしれない。
いや、こんな話をするのはまだ早い。次回のクロアチア戦では、「成人式」を迎えた若者ならではの若さを爆発させてほしいものだ。
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