○月○日
最近は本が売れないばかりか、漫画まで売れなくなったという。ファミコンも廃れ、若者たちは、携帯電話のメールで遊んでいるらしい。本が売れないくらいだから、全集はなお売れない。ちくま書房から『稲垣足穂全集』が刊行されていることに狂喜している小生のような人物は、いったい何人くらいいるのだろう?
この博覧強記の作家が残した文章は、どこを拾い読みしても思わずムムムッと唸るくらいに面白い。たとえば・・・
《そもそも現代は、"Notoriety"(醜名)が自ら、「俺はFameだ」と名乗り出たので、本物の「名声」が却って気まり悪くなって物陰に隠れる時勢である》(第四巻『少年愛の美学』より)
この一文を読んだだけでも、「お見事!」と叫びたくなる。
○月○日
本は売れなくても新書だけはまずまずだとか。
かつては、新書といえば岩波・中公が老舗だったが、最近は「新書戦争」とかで、いろんな出版社が様々な新書を月刊誌ペースで出している。
最近読んで面白かったのは、小倉紀蔵の『韓国は一個の哲学である』『韓国人のしくみ』(いずれも講談社現代新書)。
韓国通による韓国理解の本は沢山ある。が、この著者による解説は秀逸。
日本と似ているようで、全然似ていない隣国人の考えが、手にとるようにわかる。
そうなのだ。日本人は「タテマエ」と「本音」を使い分けるが、韓国人は「理」と「気」を使い分ける。というより、「理の世界」と「気の世界」という二つの世界に住んでいるのだ。
こういう本がたくさん売れて読まれるなら、日韓相互理解は進むはずだが・・・。
○月○日
大阪へ。TV出演や講演のため、ひと月に関西を7往復。そのうち日帰りが4回。さすがに疲れた。が、おかげで本がたくさん読めた。新幹線は読書に最適。
なかでも、『銃・病原菌・鉄』が面白かった。アウストラロピテクス以来の人類十万年の歴史を概観。五大陸の文明の「進化」に、なぜ「差」が生じたのか? なぜアメリカ先住民(アステカやインカの文明)のほうがヨーロッパを征服できなかったのか? といった疑問を、タイトルの三つのキイワード「銃(発明)」「病原菌(家畜とウイルス)」「鉄(農耕をきっかけとした定住と工夫)」から読み解いた歴史書。
要するに、大陸の形状(ユーラシアは横長でアフリカと南北アメリカは縦長)と、野生動植物の種類の多寡(ユーラシアは多く他は少ない)ということなのだが、だから、そこに暮らす民族の能力の差ではない、という結論が見事。
○月○日
父の三回忌で女房と京都へ。姉の家族と母と一緒に六道珍皇寺でお経をあげてもらい、墓参り。
珍皇寺は、鎌倉以降は臨済宗建仁寺派の寺になっているが、もとは小野篁ゆかりの古寺。さらに古くから、寺のあったあたりは鳥辺山の入り口で「魔界」とつながっていたという。
和尚のお経を聞きながら、新幹線で読んだ梅原猛著作集『日本の深層』を思い出す。平安の陰陽道も、中国文化だけでなく縄文以前からの「日本の基層文化」とつながっているのだ。
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