ボールゲーム(球戯)は、丸い球(太陽の象徴)を奪い合って世界の支配者を決めた古代メソポタミアが起源のフットボール系の球戯も、丸い球を地上権力の象徴(棒=錫杖)で打ち返して未来の世界(ナイル川の氾濫)を占った古代エジプトが起源のベースボール系の球戯も、人類の歴史と深く関わっている文化である。
そして、それらの球戯が行われる場所であるスタジアムは、近現代の世界の歴史と密接につながっている。そのことを、本書ははっきりと教えてくれた。
19世紀、イギリスでルールを整えたフットボール。同時期、アメリカでルールを整えたベースボール。それらを大勢の観客とともに楽しむ場として、モデルを古代ギリシアの「スタジアム」や古代ローマの「コロシアム」に求め、欧米では次々と巨大スタジアムの建設が始まる。
それらは陸上競技や自転車など、他のスポーツやオリンピックとも合体して様々な形状のスタジアムを生み出し、世界各地へ広がる。
広大な敷地を要する巨大スタジアムは、工場や鉄道の跡地、都市の郊外の荒れ地、河川敷、湿地帯などに建設された。
が、やがて都市は拡大し、その拡大を牽引するかのように、巨大なスタジアムは都市の中心の建造物となる。
そんなパワーに目をつけたヒトラーやムッソリーニなどの独裁者も、巨大スタジアムの建設を推進。やがて世界各地のスタジアムは政治と戦争に巻き込まれ、ナチスの党大会や日本の学徒動員の出陣式に使われ、広い敷地には高射砲が据えられ、多くのスタジアムが戦禍を被る。
そして現在、世界のスタジアムは、以前の「大艦巨砲主義」とも言える「郊外型多目的巨大スタジアム」から、オフィスビル、レストラン、ショッピングセンター等を備えた「都市型専用スタジアム」に変わってきた。
日本でもそんな世界の流れに歩調を合わせたスタジアムが造られるようになってきた。が、はたして新国立競技場は……?
本書は「スタジアムの文化史」を知ると同時に、未だに残る日本の「ハコモノ行政」を、根本から考え直すことのできる好著である。 |