11月23日
親父の三回忌で朝六時に起きて京都へ。母と姉夫婦、前日から京都に帰っていた女房と合流して六道珍皇寺へ。この日の読経は、和尚さんと息子さんの二重唱。臨済宗の読経はただでさえ迫力があるのに、美声の親子によるヴェルディの『ドンカルロ』の二重唱のような見事な重唱に感激。
祇園の料亭「花吉兆」で足洗のあと、毎日放送の『近畿は美しく』に出演するため大阪へ。「年末は関西に十往復以上」というと、今宮ゑびす元ミス福娘の美人アナウンサーである松井愛さんが、「関西に別宅を作らはったら?」「そのほうがラクやな」「いや、別宅のほうが体力を使うのんとちゃいます?」で、スタッフ一同大笑い。
帰りの新幹線で女房とワインを飲みながら、三波春夫『日本偉人列伝』(集英社インターナショナル)読了。スサノオ、日霊女(ヒミコ)から、平清盛、信長・秀吉、勝海舟、児玉源太郎・・・まで、長編歌謡浪曲のような絶妙な語り口調を楽しんだ。
最近、網野善彦『日本の歴史<00>「日本」とは何か』(講談社)を読んで感銘を受けたが、後者の現実(リアリズム)よりも前者の虚構(フィクション)のほうが、正直いって面白い。
「関西にマンション借りようかな」と女房にいうと、「新幹線のほうが、本がたくさん読めますえ」確かに、そのとおり・・・。
11月25日
午後、オペラ・ファンとして、新国立劇場で機関誌の取材を受ける。ヴェルディ、プッチーニ、カラス、モナコの話をするのは楽しい。そのあと池袋サンシャイン文化センターでの「スポーツ・ジャーナリズム入門塾」で教壇に立つ。今回のテーマは、インタビューの仕方。
「インタビューは話をうかがうのでなく、何を引っぱり出すかの勝負」というと、「そういう姿勢だから中田やイチローがマスコミを嫌うのでは?」との質問。
「それは、訊こうとする中味とその人物の志が低いから」と答える。
講座のあと、S紙の記者に、都はるみさんの日生劇場コンサートに関する取材を受ける。「ひばりさんとはるみさんの共通点と相違点は?」と訊かれて呻吟。やっとのことで「共通点は大衆性。相違点は大衆性の解釈の違い」との答えを見出す。インタビューは訊き手のほうが、断然楽しい。
帰りの東海道線で、J1昇格を決めたコンサドーレ札幌の取材資料として北海道新聞社編『拓銀はなぜ消滅したか』(講談社文庫)を読む。バブルに踊った連中は心の余裕がなかったが、コンサドーレを作った連中には心にゆとりがあったことを確認。
帰宅したところへラグビー日本代表チームの平尾監督から電話。「監督、やめましたわ。見解の相違ですな」「そうか。しゃあないな。バックアップがないのやから、それが正解やで」そのあとコンサドーレの岡田監督に電話。「平尾を励ましてくださいな」「あいつ、沈んでるの?」「いや、沈むようなヤツやないけど、不愉快な思いしてるみたいやから」「よっしゃ。わかった」平尾のせいで、肝心のコンサドーレの取材に関する岡ちゃんとの打ち合わせを失念してしまった。
11月26日
KBS京都の特番『どうする京都21 祇園から御茶屋がなくなる』に出演するため新幹線で京都へ。イタリヤード社長の北村陽次郎さんらと2時間にわたって討論。地方さん(楽器を担当する芸妓)の激減は致命的らしい。安藤孝子さんの美しい横顔に見とれながら、祇園町の舞子や芸妓は単なる酌婦でなく、文化的に優れた技芸の持ち主で、保護し保存する価値と必要がある、と力説。「昔の作家の先生方は、そういうことを味善う(あんじょう)書いておくれやした。あんたはんもきばっておくれやす」という安孝(あんたか)さんの柔らかい京言葉が胸にグサッと突き刺さった。
番組が終わったあと、司会のばんばひろふみさんと祇園の酒肆(バー)「G」へ。ばんばさんは祇園東の御茶屋の息子だが、この店は初めて。小学校の同級生のママを紹介する。と、ママのお母さんが小学校時代の写真を引っぱり出してくる。「ほれ、このオッサンも昔はこんなにスマートやったんやで」「そんな写真、見せんといてえな」という会話に、ばんばさんが耳元で囁く。「京都は怖いとこや」「ほんまや。抜けられへん」
11月27日
帰鎌。新幹線のなかで、ジャレド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』(倉骨彰訳、草思社)読了。人類1万3千年の壮大な歴史書は、最近読んだ本のなかで最高の面白さ。《歴史は民族によって異なる経路をたどったが、それは居住環境の差異によるものであって、民族間の生物学的差異によるものではない》ブラボー!
11月29日
大阪市のホームページの取材で、乙武洋匡さんにインタヴュー。彼の書いた『五体不満足』(講談社)は470万部売れたという。思わず頭のなかで印税の計算。「いろんな仕事をしてみたい」という乙武さんに、「それって、贅沢ですね」「ええ。贅沢ですけど、誰にも迷惑はかけませんから、それを利用したいです」さわやかな会話の連続で、豊かな気分に。
乙武さんと別れたあと、アナハイム・エンゼルスの長谷川滋利投手に、すっぽん料理を食べながらインタヴュー。「最近のハリウッド映画は面白くない」という長谷川投手は、DOSモード以来のパソコンの使い手で、最近マルクスの『資本論』を読み始めたとか。「資本主義社会って、僕らの住んでる社会のことでしょ。その社会ことをきちんと書いた本ですから、ちょっとくらいは囓っとかなあかんと思て」「そんなシンドイ本より『ナニワ金融道』でも読んだほうがええのんとちゃう?」「それは、もう、何回も繰り返し読みましたもん」
彼(や野茂)が、清原より年下とは!
11月30日
毎日放送『近畿は美しく』出演のため、また大阪へ。往復の新幹線で長谷川投手の新刊『適者生存』(ぴあ)読了。PL学園からの誘いを《自分には校風が合わない》と蹴った彼は、中学生のときからアメリカ大リーグの「適者」だったのだ!
12月3日
大阪城ホールでの『一万人の第九』を聴くため、またまた大阪へ。1万人で歌うなんて邪道と思っていたが、『第九』は「大勢のおっちゃんやおばちゃんが歌う音楽。フランス革命やもん」という指揮者の佐渡裕さんの言葉に目からウロコ。量が質を圧倒的に凌駕した演奏も素晴らしかった。ゲストの山下洋輔さんとの『ラプソディ・イン・ブルー』も見事。洋輔さんのピアノ伴奏で(なんと贅沢!)1万5千人が声を合わせた『カエルの合唱』も最高!
控え室で元阪神の代打男・川藤幸三さんとバッタリ。顔を真っ赤にして興奮していた彼を洋輔さんと佐渡さんに紹介。「わし、クラシックの演奏会なんて初めてで、ほんまは来とうなかったんやけど、感激してしまいましたわ。凄かった! あんたらは凄い人や」
洋輔さんと佐渡さんの笑った目が、「あんたこそ素敵な聴衆や」と語っていた。
素晴らしい世紀末。楽しいミレニアム。仕事(原稿の締切り)さえなければ・・・。
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4年前も今年と同じような歳末。これで、ええのんやろな。 |