コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2004-12-13

この原稿は、文藝春秋社発行の『本の話』(2001年2月号)に寄稿した読書日記です。2004年の歳末に、4年前の「ミレニアムの歳末」を思い出すのも一興・・・ということで、“蔵出し”します。

ミレニアム歳末読書日記
楽しい世紀末

11月23日
  親父の三回忌で朝六時に起きて京都へ。母と姉夫婦、前日から京都に帰っていた女房と合流して六道珍皇寺へ。この日の読経は、和尚さんと息子さんの二重唱。臨済宗の読経はただでさえ迫力があるのに、美声の親子によるヴェルディの『ドンカルロ』の二重唱のような見事な重唱に感激。
  祇園の料亭「花吉兆」で足洗のあと、毎日放送の『近畿は美しく』に出演するため大阪へ。「年末は関西に十往復以上」というと、今宮ゑびす元ミス福娘の美人アナウンサーである松井愛さんが、「関西に別宅を作らはったら?」「そのほうがラクやな」「いや、別宅のほうが体力を使うのんとちゃいます?」で、スタッフ一同大笑い。

 帰りの新幹線で女房とワインを飲みながら、三波春夫『日本偉人列伝』(集英社インターナショナル)読了。スサノオ、日霊女(ヒミコ)から、平清盛、信長・秀吉、勝海舟、児玉源太郎・・・まで、長編歌謡浪曲のような絶妙な語り口調を楽しんだ。
  最近、網野善彦『日本の歴史<00>「日本」とは何か』(講談社)を読んで感銘を受けたが、後者の現実(リアリズム)よりも前者の虚構(フィクション)のほうが、正直いって面白い。
「関西にマンション借りようかな」と女房にいうと、「新幹線のほうが、本がたくさん読めますえ」確かに、そのとおり・・・。

11月25日
  午後、オペラ・ファンとして、新国立劇場で機関誌の取材を受ける。ヴェルディ、プッチーニ、カラス、モナコの話をするのは楽しい。そのあと池袋サンシャイン文化センターでの「スポーツ・ジャーナリズム入門塾」で教壇に立つ。今回のテーマは、インタビューの仕方。
 「インタビューは話をうかがうのでなく、何を引っぱり出すかの勝負」というと、「そういう姿勢だから中田やイチローがマスコミを嫌うのでは?」との質問。
 「それは、訊こうとする中味とその人物の志が低いから」と答える。

 講座のあと、S紙の記者に、都はるみさんの日生劇場コンサートに関する取材を受ける。「ひばりさんとはるみさんの共通点と相違点は?」と訊かれて呻吟。やっとのことで「共通点は大衆性。相違点は大衆性の解釈の違い」との答えを見出す。インタビューは訊き手のほうが、断然楽しい。
  帰りの東海道線で、J1昇格を決めたコンサドーレ札幌の取材資料として北海道新聞社編『拓銀はなぜ消滅したか』(講談社文庫)を読む。バブルに踊った連中は心の余裕がなかったが、コンサドーレを作った連中には心にゆとりがあったことを確認。

 帰宅したところへラグビー日本代表チームの平尾監督から電話。「監督、やめましたわ。見解の相違ですな」「そうか。しゃあないな。バックアップがないのやから、それが正解やで」そのあとコンサドーレの岡田監督に電話。「平尾を励ましてくださいな」「あいつ、沈んでるの?」「いや、沈むようなヤツやないけど、不愉快な思いしてるみたいやから」「よっしゃ。わかった」平尾のせいで、肝心のコンサドーレの取材に関する岡ちゃんとの打ち合わせを失念してしまった。

11月26日
  KBS京都の特番『どうする京都21 祇園から御茶屋がなくなる』に出演するため新幹線で京都へ。イタリヤード社長の北村陽次郎さんらと2時間にわたって討論。地方さん(楽器を担当する芸妓)の激減は致命的らしい。安藤孝子さんの美しい横顔に見とれながら、祇園町の舞子や芸妓は単なる酌婦でなく、文化的に優れた技芸の持ち主で、保護し保存する価値と必要がある、と力説。「昔の作家の先生方は、そういうことを味善う(あんじょう)書いておくれやした。あんたはんもきばっておくれやす」という安孝(あんたか)さんの柔らかい京言葉が胸にグサッと突き刺さった。

 番組が終わったあと、司会のばんばひろふみさんと祇園の酒肆(バー)「G」へ。ばんばさんは祇園東の御茶屋の息子だが、この店は初めて。小学校の同級生のママを紹介する。と、ママのお母さんが小学校時代の写真を引っぱり出してくる。「ほれ、このオッサンも昔はこんなにスマートやったんやで」「そんな写真、見せんといてえな」という会話に、ばんばさんが耳元で囁く。「京都は怖いとこや」「ほんまや。抜けられへん」

11月27日
  帰鎌。新幹線のなかで、ジャレド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』(倉骨彰訳、草思社)読了。人類1万3千年の壮大な歴史書は、最近読んだ本のなかで最高の面白さ。《歴史は民族によって異なる経路をたどったが、それは居住環境の差異によるものであって、民族間の生物学的差異によるものではない》ブラボー!

11月29日
  大阪市のホームページの取材で、乙武洋匡さんにインタヴュー。彼の書いた『五体不満足』(講談社)は470万部売れたという。思わず頭のなかで印税の計算。「いろんな仕事をしてみたい」という乙武さんに、「それって、贅沢ですね」「ええ。贅沢ですけど、誰にも迷惑はかけませんから、それを利用したいです」さわやかな会話の連続で、豊かな気分に。

 乙武さんと別れたあと、アナハイム・エンゼルスの長谷川滋利投手に、すっぽん料理を食べながらインタヴュー。「最近のハリウッド映画は面白くない」という長谷川投手は、DOSモード以来のパソコンの使い手で、最近マルクスの『資本論』を読み始めたとか。「資本主義社会って、僕らの住んでる社会のことでしょ。その社会ことをきちんと書いた本ですから、ちょっとくらいは囓っとかなあかんと思て」「そんなシンドイ本より『ナニワ金融道』でも読んだほうがええのんとちゃう?」「それは、もう、何回も繰り返し読みましたもん」
  彼(や野茂)が、清原より年下とは!

11月30日
  毎日放送『近畿は美しく』出演のため、また大阪へ。往復の新幹線で長谷川投手の新刊『適者生存』(ぴあ)読了。PL学園からの誘いを《自分には校風が合わない》と蹴った彼は、中学生のときからアメリカ大リーグの「適者」だったのだ!

12月3日
  大阪城ホールでの『一万人の第九』を聴くため、またまた大阪へ。1万人で歌うなんて邪道と思っていたが、『第九』は「大勢のおっちゃんやおばちゃんが歌う音楽。フランス革命やもん」という指揮者の佐渡裕さんの言葉に目からウロコ。量が質を圧倒的に凌駕した演奏も素晴らしかった。ゲストの山下洋輔さんとの『ラプソディ・イン・ブルー』も見事。洋輔さんのピアノ伴奏で(なんと贅沢!)1万5千人が声を合わせた『カエルの合唱』も最高!

 控え室で元阪神の代打男・川藤幸三さんとバッタリ。顔を真っ赤にして興奮していた彼を洋輔さんと佐渡さんに紹介。「わし、クラシックの演奏会なんて初めてで、ほんまは来とうなかったんやけど、感激してしまいましたわ。凄かった! あんたらは凄い人や」
  洋輔さんと佐渡さんの笑った目が、「あんたこそ素敵な聴衆や」と語っていた。
  素晴らしい世紀末。楽しいミレニアム。仕事(原稿の締切り)さえなければ・・・。

*****

4年前も今年と同じような歳末。これで、ええのんやろな。

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東京オリンピック〜戦後日本のひとつの美しい到達点

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「美」で誘惑した女の一生――ライナー・ローター著『レーニ・リーフェンシュタール 美の誘惑者』(ライナー・ローター/瀬川裕司訳/青土社・2,800円)

プロ野球ビジネスの未来〜球界全体の新戦略を

日本体罰論〜いま改めて考える「スポーツ」と「教育」と「体罰」

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六道珍皇寺・閻魔大王像――幼い頃に恐怖心を刻まれた閻魔様との再会

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京都駅の思い出

スポーツ振興くじ(toto)は「ギャンブル」や「金集め」だけでは語れない!

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五輪のあり方を考える〜ネット中継や交流も…/ロンドン・オリンピックはシェイクスピアに注目!?

「猫もするなり球遊び」スポーツは、世界(オリンピック)と地域社会(クラブ)をつなげる

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二代目市川亀治郎さん(現・四代目市川猿之助)――伝統とは「変える力」

大学の教壇に立って……〜ジャーナリズムとアカデミズム

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読者からの質問への回答

『マーラーの交響曲』発売記念エッセイ〜いつか私の時代が来る、とマーラーは言った。

祇園町の電器屋の初荷

権力志向者がジャーナリストになる危険性――魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』講談社

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日本文化「大相撲」は「スポーツ」なのか?

オペラ(音楽)とスポーツの濃密な関係

塾や予備校は学校より大事?

「新道」という名前が消える寂しさ

孤立化、個別化する社会のあり方に警告(杉本厚夫『「かくれんぼ」ができない子どもたち』ミネルヴァ書房)

女心・男心…人間を描くため、肉体を描ききった本物の作家(虫明亜呂無『パスキンの女たち』清流出版)

松本修『「お笑い」日本語革命』(新潮社)書評「みたいな。」の元祖はとんねるずか!?

犬好き男の愛猫記

大魔神を巡る見事な「知的探検の旅」/小野俊太郎・著『大魔神の精神史』(角川ONEテーマ21)

企業の「所有物」と化したスポーツ・文化団体

スポーツ番組作りの「プロ」になっていただくために

「スポーツ放送はどうあるべきか?」を考える前に、考えるべきこと

書評『茶の世界史』/茶が映し出す過去の世界史&茶が匂わせる未来社会

思い出すのは仕事をしている姿

脳出血と恐怖心

現代社会の「怪物性」を説き明かす見事な一冊〜小野俊太郎・著『フランケンシュタイン・コンプレックス 人間は、いつ怪物になるのか?』青草書房

「劣等感・コンプレックス」とは、本当はどんなものなのか

あけましておめでとうございます

脳出血から復活できた理由(わけ)

「何か」を表現しようとする究極の本能

天職人〜あとがき

そばは京都にかぎる

総選挙の行方とスポーツ界

小泉首相の「趣味」と「文化政策」

行きつけの店は恋人に似てる?

アイ・ラヴ・サッポロ!アイ・ラヴ・ホッカイドウ!

日本文化の「型」と「カタヤブリ」と「カタナシ」の関係を横綱・朝青龍の「カタチ」から読み解く。

いま、ベネズエラで起きている「大事件」

「文化」の持つ本当の力

あけましておめでとうございます

煩悩の世界史〜『要約世界文学全集』(木原武一・著/新潮社)

「夢かうつつか…」逝った者へ…、残された者は…

オリンピックはスポーツではない

「天才」の多くなった世の中

『二十五時』との数奇な出逢い

わたしは猫になりたい。

紅旗征戎不有吾事 金は天下の周りの持ちもの…

アメリカ珍道中〜This is American Way

仕事人間の弁明

変わらないことの素晴らしさ

<二人袴>

女人狂言『茶壺 de Hermes』

私の行きつけの店・好きな店

島田雅彦vs玉木正之 ドイツW杯特別対談「選手を自由にさせたら高校生になっちゃった」

あけましておめでとうございます

個人的パラダイム・シフトに導かれた三冊

ゴシック・万博・ストリップ・吉本…を読む

現代と未来の世界を考えるうえでの「真の世界史情報」(井野瀬久美恵・著『興亡の世界史16 大英帝国という経験』)

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第3弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第2弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第1弾!

知識や情報なんて、ないほうがいい

現代日本人必読の一冊

タクシーと自家用車の違い

「天才」って何? ――まえがきにかえて

「ある女の一生」

「戦争映画」が好きな理由(わけ)

とかく京都のスポーツマンは……

道はどれほど重要なものか

祇園町の「生活」=「文化」

地獄八景万之丞乃戯(じごくばっけいまんのじょうのたわむれ)

わたしは猫になりたい。

読書日記〜稲垣足穂から梅原猛まで

アッピア街道に乾杯(ブリンディシ)!

「質より量」の読書は「質」が残る?

スポーツは究極の道楽?

久しぶりに「銀ブラ」でもするか・・・

行きつけの店は恋人に似てる?

権力志向者がジャーナリストになる危険性――魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』講談社

ロジャー・パルバース著『旅する帽子』生身のラフカディオ・ハーンが幻想のなかに甦る

作者の名前も作品の題名も消えるほどのノンフィクションの名作〜デイビッド・レムニック著『モハメド・アリ』

戦争と軍隊の歴史

スポーツと音楽を通して出逢ったトリュフ

スポーツ・ジャーナリストにはスポーツよりも大事なものがある?

お薦めの本(2003年夏〜2004年春)

日本人は元気だ――24人の元気な日本人

美しい最後の素晴らしさ

「若い国」アメリカ

京都人の溜息

経済には倫理が必要である

オススメ脳味噌のマッサージ

吉本興業は匈奴である『わらわしたい――竹中版正調よしもと林正之助伝』竹中功・著/河出書房新社

虚実の皮膜――『イッセー尾形の都市カタログPART2』イッセー尾形/森田祐三・共著 早川書房・刊

胡散臭さ礼賛――竹内久美子『賭博と国家と男と女』(日本経済新聞社)

衝撃的な笑劇――レイ・クーニー『笑劇集』劇書房

翻訳って何?――『翻訳史のプロムナード』(辻由美・著/みすず書房・刊)

脳細胞の組み替え――『世界史の誕生』岡田英弘・著/筑摩書房(現・ちくま文庫)

長老の話――堀田善衛・著『めぐりあいし人びと』を読んで

古典の楽しさ

ドリトル先生 不思議な本

京都が消える

嬉しいこと――喜びは常に過去のもの

野村万之丞 ラジカルな伝統継承者(2)

野村万之丞 ラジカルな伝統継承者(1)

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第5回=最終回)

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第4回)

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第3回)

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第2回)

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第1回)

先達はあらまほしきか?

旅の衣は篠懸(すずかけ)の

パチンコと飢餓海峡

最近の映画はつまらない?いや、やっぱり、映画はおもしろい?

神道、天皇、韓国・・・を読む。

はかなく、素晴らしい、味わい

京の祇園の極私的元服之儀

コースケ(野村万之丞)の遺言

ミレニアム歳末読書日記 楽しい世紀末

お金と勉強

親父ゆずりの数学好き

わたしの本棚(4) スポーツを読む

わたしの本棚(3) 祭りの原型

わたしの本棚(2) ドラマの感動

わたしの本棚(1) 振動する快楽

夏休み読書日記/スポーツ・身体・ジャーナリズム

銀行は痰壺処理会社

親父の隠したエロ小説

野村万之丞――伝統と格闘するパワー

女が動く時代、男は思索せよ

バック・オーライ

二十五時――わたしの好きな世界文学

「私の京都」

わたしの東京体験

SPレコードは生演奏と同じ〜蓄音機にはまってしまった!

感銘した一冊の本〜鈴木隆『けんかえれじい』

「情報過多時代」の楽しみ方

内面より外面

不味いものが食いたい!

ああ、肩が凝る。

父の勲章

京の昼寝

祇園町の電器屋の初荷

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