コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2009-10-28

この原稿は、2004年1月に講談社から発刊された拙著『天職人〜玉木正之と輝ける26人』の「あとがき」として書いたものです。少々残念なことに、発売から5年を経て絶版となった知らせが届いたので、ここに“蔵出し”します。

天職人〜あとがき

『天職人』とは、なかなかにおもしろい言葉だと思う。
 自分の本のタイトルを「あとがき」で自賛するとは節操がない、と思われるかもしれないが、じつは、この言葉はわたしが発見したものではない。本書の装丁をしてくれた水谷武司さんの創った造語である。

 水谷さんは、クラシック音楽関係のパンフレットやフライヤーのデザインを数多く手がけているデザイナーであると同時に、コピーライターとしての才覚も持った人物で、かつて「コンサート形式のオペラ」と呼ばれていた公演を「ホール・オペラ」と名付けて普及させた。小生が昨年出版したスポーツの本に『スポーツ解体新書』(NHK出版)というタイトルを付けてくれたり、小生の音楽関係の著作に『クラシック道場入門』『オペラ道場入門』(小学館)といったタイトルを付けてくれたのも水谷さんである。

 本書は、雑誌『ミセス』に3年間にわたって連載した「玉木正之のこんにちは旬の人」と、日本航空の機内誌『arora』の人気企画「われら地球人」に寄稿した文章を抜粋し、まとめなおしたものである。が、単行本の出版の話がもちあがったときから、タイトルでおおいに悩んだ。いくつかのアイデアが浮かんだが、どうもしっくりとこない。そこで、またしても水谷さんの出番となったのだ。水谷さんには、この場をお借りして感謝の意を表しておきたいが、どれだけ感謝してもしたりないくらいである。

 『天職人』とは、「天職を得た人」という意味でもあり、「天性からの職人」という意味でもある。本書に登場していただいた方々は、そう呼ぶにふさわしい人物ばかりである。

 もちろん、才能もあり、努力もされた結果、「天職」と呼ぶにふさわしい仕事で一流の活躍をされるようになったわけだが、それ以上に、本書に登場していただいたすべての方々に共通しているのは謙虚さである、とわたしは思っている。自分が出逢った仕事に対して敬意を払い、我慢もし、自分の成功を目指すのではなく、自分の仕事の成功を目指しておられる方々ばかりである。その意味で、本書に登場していただいた方々は、すべて「職人」と呼ぶにふさわしい人々であると思う。

 かつて、「自分探し」という言葉が流行した。いや、いまも、「自分探し」の旅に出る若者がいるという。テレビや新聞でも「自分探し」をテーマにしたドキュメンタリーが紹介され、「自分探し」を題材にした本もある。が、正直いって、わたしはこの言葉があまり好きではない。というより、理解できない。

 そもそも、「自分」とは何か? そんなことは、わかるはずがない。「本当の自分」など、探し求めても見つかるわけがない。ソクラテスにもわからず、釈迦やキリストが苦悶した問題の回答を、われわれ凡人が発見できるはずがない。

 ひょっとして、「自分探し」とは「職探し」「仕事探し」のことではないのか? それならば、わたしにも理解できる。

 人間ならば、誰もが社会人として生きて行くために、何らかの仕事をしなければならない。何らかの職に就かなければならない。そのとき、誰もが思い悩む。自分の選んだ仕事は、これでいのだろうか? もっとほかに、自分に向いた職があるのではないだろうか?自分らしい仕事があるのではないだろうか? しかし、そんな悩みを解決するのに、まず「自分」を見つけてから……というのは、傲慢が過ぎるように思える。

 本書に登場していただいた方々は、どなたも自分の好きな仕事と出逢い、才能を存分に発揮されている人物ばかりである。が、おそらく、何らかの事情から現在の仕事を離れざるを得なくなり、別の仕事に就いたとしても、その仕事でも『天職人』と呼ぶにふさわしい活躍をされるにちがいない、と確信できる。そのように断言できるポイントは、謙虚さ、である。

 まず「自分」があるのではなく、まず「職」があり、「仕事」がある。そこに自分を合わせてゆくという作業は、プロ・スポーツマンであれ、音楽家であれ、歌舞伎役者であれ、狂言師であれ、はたまた企業のサラリーマンであれ、お百姓さんであれ、大工さんであれ、電器屋さんであれ、何であれ、同じだと思う。自分を誇るために仕事をするのではなく、自分が満足するために仕事をするのでもなく、もちろん自分が名声や権威や権力を手にするために仕事をするのでもなく、多くの人々が満足し、その結果、自分が誇れる仕事をする。それには、まず、自分の出逢った仕事に対して謙虚でなければならない。そのことを、わたしは、本書に登場していただいた方々から教わった。

 本書が、わたしにとっての「誇れる仕事」のひとつとなったのは、ひとえに本誌に登場してくださった方々の御協力のおかげである。多忙をきわめておられるにもかかわらず、さらに、ときに無礼千万な質問をくりかえさせていただいたにもにもかかわらず、長時間のインタヴューに応じてくださったことに、あらためて心からの御礼を申しあげたい。ほんとうに、ありがとうございました。

 本書を上梓するにあたっては、多くの方々に助けていただいた。(略)ありがとうございました。そして最後になりましたが、本書を購入してくださった読者の皆さんにも感謝の意を表したいと思います。スポーツマンとアーティストが並んだ本書を、何の違和感もなく手にしてくださってありがとうございます。それが、著者のいちばんの喜びです。今後とも御贔屓に。

二〇〇四年一月十日     玉木正之 

************************************
この本に登場していただいた『天職人』を登場順に紹介しておきます。
山下洋輔・星野仙一・五嶋龍・勅使河原三郎・ジーコ・市川亀治郎・城之内ミサ・長谷川滋利・茂山宗彦/逸平・佐藤琢磨・ジミー大西・大倉正之助・三都主アレサンドロ・亀淵友香・李鳳宇・原朋直・ザ・グレート・サスケ・ 金聖響・井原慶子・井筒和幸・林英哲・グッチ裕三・綾戸智絵・岡田武史・佐渡裕とシエナ・ウインド・オーケストラ/以上、皆さん、お世話になりました。

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