日本で初めてF1グランプリのパイロット(ドライバー)として活躍された中嶋悟さんを、シンポジウムのゲストに招いたときのことだった。
私が、「肩書きはどのように紹介しましょうか?」と尋ねると、中島さんはこう答えられた。 「運転手でイイですよ」
私が少々呆気にとられて返事をできずにいると、中島さんは続けて「解説」を加えてくださった。 「僕は昔から、いろんな自動車を運転することが、大好きだったですからね」
なおも私は、キツネにつままれたような気分で返事をできないでいた。時速300キロを超える超高速でレーシングカーを操ったF1のパイロットが、自分のことを「運転手」と称したことを即座に納得することは不可能だった。
もちろんシンポジウムの席で、聴衆に向かって「自動車運転手の中嶋悟さん…」と紹介するのも気が引けた。
「別におかしくないですよ。世の中には自動車が溢れていて、運転する人も沢山います。が、自動車の運転が本当に好きな人は意外と少なくて、多くの人はラジオを聞いたり音楽を聴いたり、同乗者と会話したり……です。僕は自動車を走らせることそのもそが大好きで楽しんでるから運転手なんですよ」
ナルホド! と納得。 自動車の運転手も、マラソンのランナーも100m走者も、みんな走ることそのものが好きなのだ。好きこそ上手(じょうず)。そんな人のことをプロの走者(ランナー)、プロの運転手(ドライバー)と呼ぶのですね。 シンポジウムも、この話題で盛りあがりました。
|