コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2004-08-09

この原稿は、4年前に文藝春秋社のPR誌『本の話』(2000年9月号)に寄稿したものです。「夏休み」と「オリンピック」ということで、ちょいと手を加えて、ここに“蔵出し”します。

夏休み読書日記/スポーツ・身体・ジャーナリズム

7月20日
  毎日放送のレギュラー出演番組『近畿は美しく』出演のため、大阪日帰り。新幹線の車中ほど読書にふさわしい場所はない。『近代スポーツの誕生』(松井良明・著/講談社現代新書)読了。
《近代の競技スポーツが帝国主義的な思潮と呼応すれば、それはまさしく「自由主義的」なイデオロギーをあらわにし、強者による弱者の支配を正当化する文化装置として機能する可能性がある》
  ナルホド。面白い指摘だ。

7月21日
  新宿で「ドーピング」に詳しい医師にインタビュー。「次のアテネ五輪では遺伝子ドーピングが話題になるでしょう。いや、シドニーでも既にあったかも・・・」オリンピックは、いまや人造人間の闘いなのか? 
  雑誌『amuse』の仕事で吉祥寺のジャズ・ライヴハウス「サムタイム」へ。十数年ぶりの青春の地で、かつて朝まで飲み明かした旧友・ジャズシンガーの酒井俊に逢う。最近は日本の童謡や歌曲、世界の民謡に手を広げているという。
「お互い、歳をとったな」
「あら、あたしは、まだ若いわ」
  その後、TBSの仕事が入っていて、酒井俊のライヴは聴けず。残念。

7月24日
  夕方まで新聞連載の原稿を書いたあと、雑誌『大人ぴあ』の仕事でスポーツライターの二宮清純と対談。「オリンピックよりもパラリンピックに注目」という点で意見が一致。「不純にアンドロイド化」したオリンピック選手よりも身障者のほうが身近だし、「正当にサイボーグ化」したパラリンピック選手のほうが、未来の人間のあり方を教えてくれる。
「日本のサッカーが強くなったのはJリーグの成功のおかげ。バレーボールが弱くなったのはVリーグの失敗の結果」でも意見が一致。トップのスポーツマンは地域のクラブが支える。だから、スポーツライターという仕事にも社会的意義があるのだ。しかし、「野球の古田、サッカーの岡田、ラグビーの平尾はリーダーとして最低」という彼の意見には首肯しかねた。

7月25日
  終日原稿書き。「ドーピング」に関する原稿がなかなか書けず、昨日「ぴあ」編集部のO氏にもらった「シドニー五輪芸術祭」のプログラムをパラパラとめくって仰天。オペラ座では『カプリッチョ』『ドン・ジョヴァンニ』『シモン・ボッカネグラ』『椿姫』『トスカ』、コンサートではムーティ指揮ミラノスカラ座管弦楽団、サロネン指揮ロス・フィル、テノールのボチェッリ、ポップスはウテ・レンパー、フィリッパ・ジョルダーノ、バレエはシルヴィ・ギエム等の名前がずらりと並んでいる。オリンピックはスポーツだけでなく、芸術の祭典でもあるのだ。が、シドニー五輪出場選手や日本の取材陣のなかで、「芸術祭」に足を運ぶのは何人?

7月26日
  都はるみ大島コンサート。前から行く予定をしていたが、仕事が片づかず、地震もあるし・・・、断念。悔しい。
  先月から始めたサンシャイン文化センターでの『スポーツジャーナリスト養成塾』の講義と、京都龍谷大学での講座の準備のため、スポーツ小説やスポーツ・ノンフィクションを読み直し、資料を作成。阿部知二、田中英光、虫明亜呂無、佐瀬稔、沢木耕太郎、山際淳司、二宮清純、金子達仁・・・。「科学(スポーツ)から空想(ドラマ)へ」という視点は共通しているが、空想に走ると文藝に至り、娯楽の二次製品で終わり、スポーツジャーナリズムといえなくなる。
  が、科学に固執すると技術論に終始し、趣味にとどまり、社会との接点がなくなり、これまたスポーツジャーナリズムといえない。難しい。

7月29日
  約40名の受講者を相手に『スポーツジャーナリスト養成塾』で2時間講義。受講者が熱心で、こっちも力を入れて話すため、いつもフラフラになる。終わってから別の教室で『世界地図の見方』の講座を終えられた高野孟氏と、東京新聞のM氏と一緒に錦糸町の寿司屋へ。
「メディアがスポーツを軽く見る風潮は改まらないものですかねえ」
「昔の新聞記者は運動部を馬鹿にしてたからね。世代が変わらないと・・・」

7月31日
  黒田清氏の葬儀に出席するため大阪へ。黒田氏の絶筆は巨人批判のコラム。しかし「阪神がんばれ」ではスポーツジャーナリズムといえない。大阪五輪招致に賛成されていたことも含めて、生前にもっとお話を聞きたかった。残念。合掌。
  葬儀の始まる前、宮崎学氏と久しぶりに逢い、ロバート・ホワイティングの最新刊『東京アンダーワールド』(角川書店)について立ち話。「あれはオモロかった。最高やで。このあいだホワイティングと対談して、あんたも一緒に飲もうと約束したんや。今度は彼と三人で、巨人を思い切りやっつける本でも出そうや」
  たしかにその手の本も、書きようによってはスポーツジャーナリズムになるかも・・・。帰りの新幹線で、葬儀で配られた黒田氏の著書『世紀末日本を嗤う』(大月書店)を読む。「身近な視点」が、日本、世界、地球につながることを再確認。これぞジャーナリズム。

8月3日
  毎日放送『近畿は美しく』出演のため、また大阪へ。番組収録後、来年神戸で開催される「第13回世界移植者スポーツ大会」の事務局長と会って話を聞く。心臓肝臓腎臓等の臓器移植を受けた人々が、100メートルを11秒台で走り、50メートルを28秒で泳ぐ。ほかにテニス、卓球、バレーボール、自転車等の競技も。スゴイ!
「日本の臓器移植者のスポーツの機会が少ないのは施設や環境が整ってないからで、それは一般の人々にとっても大きな課題」なのだが、それ以上に「人間とは何?」と考えさせられた。

8月5日
  すみだトリフォニー・ホールへ、佐渡裕指揮新日フィルのヴェルディの『レクイエム』を聴きに行く。圧倒的な熱のこもった見事な演奏。合唱も独唱も素晴らしく、なかでもテノールの佐野成宏の日本人離れした魅力的な声は最高! 終演後、佐渡の楽屋へ。
「めちゃめちゃ良かったで。イタリアのド演歌の雰囲気が、よう出てた」
「おおきに。このごろミラノで仕事してるよって、自分でもイタリアの雰囲気がわかってきたと思うねん」
「それより、そもそもイタリア物は関西人に合うとるんとちゃう?」
「ははは。そうかもしれへん」
  佐渡は今年の正月、首と腰の痛みから入院し、山下洋輔のピアノ協奏曲の初演の指揮をキャンセルした。
「もう、大丈夫やけど、指揮の仕方が変わったかな。身体を大事にして動きが小そうなった分、以前より音楽に集中できてるというか・・・」
  そうなのだ。パラリンピック、臓器移植者スポーツ等について考えさせられたせいか、身体に欠陥の生じているほうが精神は磨かれるのだ・・・と確信した。

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