玉木 サッカーの試合の中味としては、ヨーロッパのリーグ戦よりも劣ることの多いW杯でも、さすがにW杯というか、国別対抗ならではの話題には事欠かない大会でしたね。
島田 W杯ってのは、いわば世界中の若者が喧嘩をしに集まるわけでしょう(笑)。だから各民族別、国民別の若者気質がゲームから見えて面白かった。ジダンとマテラッツィの喧嘩だって、ヨーロッパの裏町でよく見る光景ですよ(笑)。我が物顔で裏町を闊歩しているイタリアの不良と移民の若者が小競り合いを起こしたような…。
玉木 スポーツは暴力を非暴力化してゲームにしたものともいえて、サッカーでも乱闘が減るなど、以前よりは非暴力化が進んだけど、言葉の暴力だけは別で、今回の事件をきっかけに言葉の暴力にも規制が始まるのかな…。
島田 それはどうかな。ラテン語圏なら互いの言葉もわかるだろうけど、オランダ語で罵詈雑言を浴びせられても理解できないからね。
玉木 そうか。言葉がわからなければ暴力沙汰にもならない(苦笑)。その意味でも、ジダンの頭突きはサッカーとは無縁のヨーロッパの若者の喧嘩そのものだったんだ。
島田 そう。イングランドも、英語のあまり上手でないベッカムをはじめ、みんな下町の暴れん坊たちの集団だったしね。
玉木 そんななかで日本の若者は大人しかったなぁ。サムライというには程遠い…。
島田 柳沢がクロアチア戦でシュートをはずして両手で顔を覆ったでしょ。あの姿を見て、君は処女か、と思ったな(笑)。
玉木 ルーニーが同じ失敗をしたら、自分に腹を立ててゴールポストに頭突きをかまして、ポストをへし折ってたかな(笑)。
島田 ルーニーは、僕の目にした大衆紙情報によれば、売春宿に通ってもいつも40歳代のオバサンを指名するらしい。絶対に友達になりたいとは思わない男だね(笑)。
玉木 ルーニーのような若者が大勢出現する社会も恐ろしい気がするけど(苦笑)。
島田 結局、最近の日本の若者は、やっぱり育ちがいいんでしょうね。最近10年くらい、世界を歩き回る日本人バックパッカーの姿も見かけなくなったし…。
玉木 中国人や韓国人のバックパッカーはいるけど、日本の若者はパッケージツアーでブランド・グッズを買い漁ってる。
島田 ヨーロッパのクラブチームに入ってる選手すらも、ブランド志向のように思える。そして結局、海外組でなくオシムの弟子で一番地味な巻に期待が集まったりしたのも面白い現象だった。
玉木 テレビの番組で、Jアカデミーのエリート中学生がW杯を見に行ったドキュメンタリーをしてたけど、身体は大きくても大人しそうで、リフティングやボールさばきは巧みで、ドイツの子供たちを驚かせていた。けど、ブラジルのサポーターのなかに入ったら、もっと巧みな足技を見せるストリート・サッカー出身のサポーターがごろごろいて、本人もショックを受けていた。
島田 日本の社会から、ストリート系の選手は出てこないよね。
玉木 貧富の二極化がさらに進んでも…。
島田 そこから生まれるのはニートだから。スポーツはやらない。引きこもりだから。フィジカル系は生まれませんよ。
玉木 今の話は、スタジアムへ行くバスのなかでニンテンドーに熱中していた選手がいたという話にもつながるなぁ(苦笑)。
島田 ロナウジーニョなんか控室でもサンバを聴きながらリフティングしているくらいのストリート派でしょう。でも、日本のパワーっていうのは、やっぱり企業の組織力に代表されるように、個性なんて目立たないほうがいいんですよ。そのほうが全体の力を発揮できる。
玉木 川淵キャプテンがジーコを監督に指名したのは、世界のベスト10に入る力を身につけるためには個人の自由な発想を伸ばす必要がある、という狙いだったわけで、その考え方自体は間違いではなかった。ただ、今の日本の若者にはできなかった。
島田 ニンテンドーに熱中することにしろ、オーストラリア戦で最後に次々と3点も入れられたことにしろ、まったく高校生のクラブ活動レベル。ジーコが選手を自由にさせたら高校生に戻ってしまった。
玉木 そんな選手を、中田英寿ひとりでは牽引することができなかった……。
島田 サッカーは一人じゃ何もできないから。野球のWBCで優勝したイチローと、W杯で惨敗した中田の違いは、個人ひとりでもできることのある野球と、ひとりでは何もできないサッカーという、スポーツの違いに根ざすものでしょうね。
玉木 中田が野球をやったらイチローになっただろうし、イチローがサッカーをやったら中田になるんだろうね。
島田 ドイツはベッケンバウアーから何人か挟んでクリンスマンに引き継ぎ、一応の成功を見た。クリンスマンはアメリカで分業というマネージメントを身につけた男です。海外経験が豊富で何カ国語かを話せる中田も、あと15年もすればクリンスマンと同年齢でしょ。そういう禅譲を期待するうえでも、彼の早期引退は良かったですよ。
玉木 今回の大会で、中田がけっして技巧派でなく基本的に肉体派で、その姿勢が正しかったことに気づいた人も多かったと思うけど、彼のような人間がマキャベリズムも身につけて将来の日本のサッカーを牽引してほしいですよ。
島田 リーダーシップをとる人間は「オシムといっちゃったねえ」なんて平気でいえるズルさが必要だからね(笑)。それに、フィジカルを身につけてる人がビジネスも身につけようとする姿勢は正しい。それは一種の植民地支配のやり方です。二極化しても貧困層や移民のパワーに期待できない日本社会では、コモンウェルス(連邦国家)の考え方というか、世界のサッカーの野蛮なパワーを押さえる植民地を統治するようなパワーやずるさが求められるはずですから。
玉木 マリノスの岡田監督は、どんなに強くても優勝できないチームがあって、その理由は説明しにくい…といってました。
島田 それは、いってみれば、他人をコケにする力とでもいうものかな(笑)。イタリア代表は、自分たちは栄光ある古代ローマ共和制の末裔だと思ってる。イギリスやスペインやオランダも、かつては世界を支配した。その歴史が末裔たちに奇妙なパワーを授ける。世界を新興国に支配させるわけにはいかないと心の底では思ってるんでしょう(笑)。
玉木 フランス代表にアフリカ系が多いことを「外人部隊」などという声がフランス国内にもあるけど、イタリア代表にイタリア系の名前しか並んでないことのほうが、差別的といえるんですけどね(苦笑)。
島田 今大会でのポルトガルの躍進は、スコラーリ監督の力ですよ。今やGDPも低くて落ちぶれたところへ、なんとかしてやろうと常勝監督がかつての植民地(ブラジル)から乗り込み、16世紀の栄光の時代を思い出させた(笑)。
玉木 いまや核燃料サイクルにも手を付け、国連安保理常任理事国入りも目指すブラジルが旧宗主国を救った(笑)。そんなふうに考えると日本の未来がますます心配で、闘えるアイデンティティが見当たらない。
島田 いまサッカー協会のリーダーたちって、日本のサッカーの氷河期の人々。世界のサッカーを知らないですからね…。
玉木 オレは、今回のW杯を日本サッカーの成人式と位置づけてたけど、10年以上先の中田のリーダーシップに期待する以外ないかな。
島田 それでいいんじゃないの。最近は20歳の成人式は早すぎる、30歳にしようという提言もあるくらいだから(苦笑)。
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