コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2012-09-05

この原稿は、『連合通信・生活文化特集』9月号(8月9日発行)の連載コラム「玉木正之のスポーツ博覧会」に書いたものです。JOC(日本オリンピック委員会)とその意を受けたスポーツ議員連盟は、totoをさらにギャンブルとして拡大し、「スポーツ資金」を集めようとしているようです。が、それはチョイトオカシイのでは……?ということで、大幅に手を加えて、“蔵出しコラム・スポーツ編”ではなく、“ノンジャンル編”に“蔵出し”します。読んでいただければわかりますが、これはスポーツの問題という以上に、社会問題ですからね。

スポーツ振興くじ(toto)は「ギャンブル」や「金集め」だけでは語れない!

 今年の7月7日、ロンドン五輪開幕目前のドサクサに紛れて……ということではないと思いたいが、超党派の国会議員によるtoto(スポーツ振興くじ)の「制度改正検討プロジェクトチーム」の初会合が開かれた。

 そしてtotoの増収を図るため、プロ野球や大相撲、サッカーのイングランド・プレミアリーグ等にも対象を広げる方針を確認したというのだ。

 そのニュースに、私は、思わず、ウ〜ンンン…と唸ってしまった。

 2019年のラグビーW杯や、2020年招致を目指す東京五輪のメイン会場となる国立競技場の建て替えなど、さらなる日本スポーツ界の発展のため、少しでも多くの資金を確保したいのは理解できる。

 が、カネさえ集めればいい……というわけではないはずだ。

 1998年5月、toto実施の法案審議で、私は賛成の立場から衆議院文教委員会に参考人として出席した。

 それはJリーグが、企業チームではなく独立したスポーツチームによるリーグとなることを願ったからだった。

 渡邉恒雄氏率いる読売新聞は、Jリーグをその発足時(1993年)以来、プロ野球のような「企業チームの組織」にしようと企図し、各チームを都市名ではなく、企業名で呼ぶことを実践し続けた。

 そのようなスポーツの利益よりも親会社の利益を目指す勢力の力に、いつ押されてしまうかもしれないという危険性を孕んでいたJリーグにとって、totoは「強い味方」ということができた。

 なぜなら、商品を買う側と売る側、宣伝する側とされる側など、利害関係の絡む親会社がチームを「所有」している場合(企業スポーツの場合)、純粋なtoto(スポーツ振興くじ=公正な立場での賭け)が成立しなくなる(「八百長」の疑いがかかってしまう)。

 幸いJリーグは、その後、渡邉恒雄氏と読売新聞社の目論見から逃れ、totoが成立し、totoを継続しうる独立したスポーツチームのリーグ戦として成長した。

 が、プロ野球の場合はどうか?

 企業名を冠したチームの闘いでは、企業同士の「利害」まで予想したうえでの「賭博=ギャンブル」としては可能かもしれないが、スポーツ振興のための「くじ=公正なギャンブル」とはいえないだろう。

 たとえば横浜DeNAベイスターズが、読売ジャイアンツと熾烈な優勝争いを展開した場合、DeNAのゲーム批判等を展開できる立場にある巨大メディアは、DeNAに対するネガティヴ・キャンペーンを、やろうと思えばやれる立場に立っている、といえなくもない。

 それに対して、横浜DeNAが、試合に手心を加えないとも限らない(実際、1978年にヤクルト・スワローズが優勝したとき、その寸前になって、当時の松園直巳オーナーが「勝たなくていい」と、当時の広岡監督に言ったことが、越智正典氏の著作に書き残されている。それは巨人に勝つことによって、ヤクルトが売れなくなることや、読売新聞が書くかもしれない乳酸菌飲料に関する“記事”を怖れたから、という人もいる)。

 プロ野球でtotoを行うために、各球団をスポーツ団体として独立させる、というのなら理解できるが、スポーツ議連からそんな話が出ているとは、まったく聞かれない。

 同様に、過去から延々と「人情相撲」の入り込む余地の存在してきた大相撲も、totoに相応しいかどうか、大いに疑問符が付く。

 また「スポーツ振興くじ」の対象を、海外のスポーツ(イギリスのプレミア・リーグやイタリアのセリエA)にまで広げて、日本のスポーツ以上に海外スポーツの人気を煽るのは、本末転倒以外の何物でもないだろう。

 totoを考える人は「金集め」さえできればいい……というのではなく、「真の日本のスポーツ振興」を第一義に考えてほしいものである。

*********************************

 最近の報道(8/29新聞各紙)によると、超党派のスポーツ議員連盟PT(プロジェクト・チーム)は、プレミア・リーグやセリエAへの「toto拡大」を決定したという。

 その結果、Jリーグの人気が落ちたら、誰が責任を取るのだろう?

 そんなことなら、多くの先進国が実践している、一切のギャンブルを民間に開放する「ギャンブル解禁法」の成立を目指したらどうか?

 現在、日本では、賭博が刑法で禁じられている。それは、競馬・競輪・オートレース・競艇・toto・宝くじなどの「公営ギャンブル」が、利益を独占するため――即ち、国=監督官庁が利権を独占するため、なのだ(そのことは、衆院文教委員会がtoto法案を審議したとき、ギャンブル社会学者で大阪商業大学学長の谷岡一郎氏が、はっきり指摘された)。

「ギャンブル解禁法」を成立させることは、暴力団などの裏社会の収入源(非合法賭博による収入)を断つうえでも、きわめて有効なはずである。

 禁酒法がアメリカで施行されたとき、最も利益を得たのはアル・カポネをはじめとするギャングたちだった。

 今の日本社会では、国が賭博を禁止する(法律違反とする)ことによって、禁酒法時代のアメリカと同様の裏社会の活況を招いている、とも言えるのだ。

 国会議員というのは、中途半端なこと(目先の利益ばかりで、真の国の利益につながらないこと)しか思いつかない人々ばかりなのだろうか……。

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