Q. この1年間(2003年7月ごろから現在にいたるまで)で出会ったおすすめの本は何ですか?
A. 『天才に尽くした女たち』(フリードリヒ・ヴァイセンシュタイナー著/阪急コミュニケーションズ刊)
モーツァルト、ワーグナー、マーラーといった大作曲家、ゲーテ、トーマス・マンといった大文豪、そしてアインシュタインという大科学者。それらの大天才たちに「仕え」「尽くした」夫人たちの悲劇、あるいは武勇譚。
なにしろ結婚の相手が「天才」となると、何もかもが尋常ではなく、「落ち着きなくちょこまか動きまわり、ころころ気分の変わる躁鬱気質」で「結婚以来2年で5回も引っ越し」をするような勝手気ままな人物(モーツァルト)だったり、「非常に贅沢な生活スタイルを守」り「広いトイレを偏愛していて、場ちがいであろうとも、いつも絹のビロードの上等な衣裳を身につけて」いるような人物(ワーグナー)なのである。
さらに、「結婚は想像力を欠いたブタによって発明されたもの」などと公言し、愛人に向かって、「私は妻を従業員のように扱っていますが、解雇することができません」などと書いた手紙を送るような人物(アインシュタイン)なのである。妻の苦労は計り知れない。
が、彼女たちも負けてはいない。傲慢で、自分の仕事(芸術や研究)にしか意識のない夫を手玉にとり、他の男性と結婚していながら「天才」を支えたり(ワーグナー夫人)、夫に隠れて他の男性に走ったり(マーラー夫人)、夫の仕事で会社を設立して大儲けしたり(マン夫人)・・・。
女性のしたたかさ、強さも、尋常ではない。「男は作品を作り、女はその男を作る」という言葉をあらためて思い出させられた、男にとっては「怖い」読み物ともいえる。
Q. この1年間で「感動した本」は何ですか?
A. 『逝きし世の面影』(渡辺京二・著/葦書房・刊)
少々古い本(1998年刊)だが、最近数年、この本に優る「感動」は得られない。
本書は、幕末に日本にやってきた外国人が書き残した記録を集積したもの。そこに描かれた日本と日本人の、何と美しいことか!
貧しく質素な生活ではあっても、美しい自然と美しい心。家々に鍵はなく、そこに暮らしはじめた外国人は奇異な目で見られても、旅に出て帰ってくると、家の中が近所の人々によってきれいに掃除してあって、衣類が洗濯までしてあるという。
そして近代文明(黒船)をひっさげて来日した西洋人たちは「これほど素晴らしく美しい国と国民を、我々西洋人が破壊していいのだろうか」と悩む。
現代日本人が忘れ去ってしまった(捨ててしまった?)美しい日本の姿に、思わず涙が出そうになるほど感動した。
Q. この1年間で「元気をもらえた本」は何ですか?
A. 『日本式サッカー革命〜決断しない国の過去・現在・未来』(セバスチャン・モフェット著/玉木正之・訳/集英社インターナショナル刊)
サッカー発祥の国イギリス出身で、日本滞在10年を超すジャーナリストが、日本のサッカーの歴史、Jリーグ誕生から日韓共催のワールドカップまでの歴史をまとめたもの。
いまでこそ、誰もがサッカーに熱狂し、ジーコ・ジャパンやオリンピック代表を熱烈に応援しているが、ほんの15年前、20年前は、サッカー日本代表の監督の名前など誰も知らなかった。サッカーなど誰も応援しなかった。
それがJリーグの誕生とともに、いかにして革命的変化を起こしたかという激変の現代史、関係者の労苦は、読者に元気を与えてくれる。日本のサッカーを(トルシエのように)バカにしていない視点も新鮮。また、チームやリーグの関係者だけでなく、サポーターの声や活動も数多く取りあげられていて、この原著(Japanese Rules)が発行されたときは、なぜこのような好著が翻訳出版されないのか残念でならなかった。そこで、自分で翻訳出版することになってしまった。
Q. この1年間で「役に立った本」は何ですか?
A1. 『モノの世界史』(宮崎正勝・著/原書房・刊)
我々の身近にあるあらゆるモノ(カレンダー、文字、ワイン、ビール、コーヒー、紅茶、麺、パスタ、鉄道、船・・・などなど)の歴史(ルーツと変遷)を解き明かすなかで、世界の歴史を読み解いた面白く楽しい本。
最近流行の「トリヴィア的知識」にもあふれながら、世界史の流れが理解できる。世界の未来を考えるうえで役に立つ。
A2. 『昭和史』(半藤一利・著/平凡社・刊)
昭和の前半期は戦争の歴史だった。では、日本はなぜ戦争に突入したのか。それを平易かつ詳細に解き明かした本。日本の未来を考えるうえで役に立つ。
Q. この1年間で「笑いをもらった本」は何ですか?
A. 『文学的商品学』(斎藤美奈子・著/紀伊國屋書店・刊)
現代小説に現れるモノ(ファッション、食事、音楽、オートバイ、野球等々)を切り口にして、日本の小説と作家とは、いったいイカナルモノナノカということを説いた革命的文学論。
『青春小説とは「知的階級に生まれたボンボンが勝手に苦悩する話」だったりもまあするわけですが』などという記述が随所に出てきて大笑し、『私小説のモチーフが「個人的な貧乏」なら、プロレタリア文学のテーマは「集団としての貧乏」「構造的な貧乏」です』といった記述に呵々大笑しながらも、唸らされる快著。
Q. その他におすすめの本がありましたら、お教えください。
A. 『「祇園」うちあけ話』(三宅小まめ 森田繁子・著/PHP文庫)
京都祇園のことが京都弁でほんによう書かれておして京都の好きなお方にはお薦めの一冊どす。ほんまもんの舞妓はんが語らはったことをそのまんま書きおこさはったことどすよってにあたりまえのことかもしれまへんけどノンフィクションライターとやらいうおひとなんかが書かはったものより生々しいてそれでいてほんにはんなりした一冊なんどすえ。 |