バブルに踊り不良債権で首がまわらなくなり、あげくのはては血税で尻ぬぐい。銀行がどれだけ悪行を重ねようが、わたしは驚かない。所詮は金貸し。カネを右から左へと動かして利ザヤを稼ぐのが生業。濡れ手に粟の所在ばかりを求める連中ならば何でもやりかねない。とはいえ、都銀11行が昨年(1995年)9月の中間決算で史上最高の業務純益1兆3千4百億円を記録した、との報道には仰天した。それは本来ならば我々預金者が得るべき利息である。
日曜日にキャッシュカードを使えば手数料で消えてなくなる程度の低金利の結果、銀行だけが丸儲け。景気対策ならぬ銀行救済のための低金利政策。大蔵省(現・財務省)から大量の天下りを抱える銀行にしてはじめて可能な悪行である。
住専に注ぎ込む血税6千8百億円。それで目先はしのげたとしても、赤字国債の発行で国の財政は火の車。1兆3千4百億円銀行の利益はいったい何処へ消えるのか? 国滅びて銀行あり。江戸時代の悪代官と悪徳両替商でも、これほどの横暴はやらなかっただろう。
そもそも不良債権とは何ぞや? 借りた金は返さなくてもいいのか? 貸して損失を出した銀行マンは責任をとらずに済むのか? 月々のローン返済に汲々としている小生にはまるで理解できない。ローンの返済が3日遅れただけでも銀行は電話をかけてくる。「困るんですよねえ、遅れると」その居丈高な物言いに仕方なく子供の積立預金に手をつける。そんなことを何度か繰り返すと、おれのローンも不良債権扱いにして公的資金で処理してくれ、といいたくなる。あるいは家の表札にどこぞの代紋でも貼り付けておけば、銀行は不良債権と認定してくれ、平気でベンツを乗りまわせるというのか?
ふりかえれば15年前、はじめて分譲マンションを購入したときから銀行の態度にはカチンときていた。新築66世帯の入居者が某都銀支店の会議室に集められ、大量の書類を配布した銀行員の第一声が、「書き方、間違えないでよ」。
こっちは客だぞ、といいかえしたかったが、マンション業者と結託した某銀行が住金公庫をふくむローン代行のいっさいをとりしきっていたため、他行への変更は不可能。「銀行はひとつにまとめておくと便利」との言葉に従い、地方税電気水道ガス電話からNHK受信料の自動引き落としの書類まで書いた。ところが、子供の幼稚園の費用は農協。水泳教室は郵便局。小中学校に進むと給食代は地方銀行。引き落としの期日のたびに、女房はあっちの銀行こっちの農協と飛びまわり、あまりに面倒なので振り込みを利用すると、機械に命じられるままボタンを操作させられたうえ、多額の手数料までふんだくられた。
それでも、「積立預金を一口お願いします」と、愛想のいい銀行マンがマンションまでやってきたときは、まだマシだった。バブル終焉のころ、清水の舞台から飛びおりるつもりでマンションを売り、有り金すべてをはたき、限度額目一杯のローンを組んで近所の土地を買い、一軒家を建てると、それからあと銀行からの挨拶はローン引き落としの催促以外ナシのつぶて。もちろん挨拶に来られたところで銀行に預けるカネなどないが、「いい土地がありますよ」「家を建てるなら、いまですよ」と、不動産屋のような物言いで銀行マンが訪れてきたバブルのころにくらべ、手のひらを返した態度には唖然とする。
銀行のコンピュータには、わが家の経済状態がすべてインプットされている。ボタンひとつで、こいつはローンでカツカツだとわかる。税務署が国民総背番号制を導入する以前に、銀行は個人の収入支出の情報をすべて把握しているのだ。そのくせ自分たちの借金(不良債権)はディスクローズしない。
たしかに低金利のおかげでローンの返済額は減った。が、年金と恩給が大きな収入源である両親は嘆く。わが家族全体の収支決算としては差し引きゼロ。いや、銀行が利ザヤを稼いだということは、多くの誰かが損をしたということである。なのに愛人との二重生活の破綻からハイジャックまで起こした銀行マンは、休職中でも80万円の手当を得ていたという。下がそれならば、上はもっと大胆だろう。不良債権で瀕死の状態といわれるなかでも、天下り幹部のボーナスや退職金が減額されたという話はとんと聞かない。
現代の金融資本主義社会に銀行は不可欠。とはいえ、つまるところ農林水産製造流通等の産業、そして文化的営みを下支えする存在に過ぎないはず。なのに利ザヤが莫大な利益を生み、手段が目的化し、縁の下であるはずの業種が、われこそは主人公と表舞台にしゃしゃり出てきた。それ以来、世の中は狂った。カジノ(資本主義)での博打(マネーゲーム)が偉大な事業と錯覚されて以来、人々の心まで荒(すさ)んだ。
昔の人はうまいこといった。『カネと痰壺は溜まるほど汚い』
銀行マンと財務省や金融庁の官僚たち、それに経済学者たちが、自分たちは世のため人のために痰壺を処理しているとの自覚を持つようになるまで、わたしは彼らを尊敬する気にはなれない。 |