『エルネオスEL NEOS』(スペイン語で「ザ・ニュース」の意)というビジネス誌の6月号を開いてみると、巻頭コラムの冒頭に、小生が常々思っていることと全く同じ考えの意見が書かれていた。
《東京オリンピック(五輪)パラリンピックは、経費の見直しや「誰が何を負担するのか」をめぐる混乱の陰で、より重要な「それによってどのような五輪・パラリンピックにするのか」の議論が進んでいません》
この文章を書いたのは枝廣淳子さんという環境問題のエキスパート(東京都市大学教授/アル・ゴア『不都合な真実』の翻訳者)。だからコラムのタイトルは、《「環境」を置き去る東京五輪の危機》で、東京五輪での環境問題の問題点が指摘されている。
《オリンピックにとって、「スポーツ」と「文化」に並ぶ第三の要素が「環境」であることをご存じでしょうか》
五輪と環境問題なら、我々は、都市の緑化、ビルの壁面グリーン化、新素材のアスファルト…等々、すぐに真夏の暑さ対策を思い浮かべるが、そんな目先の問題だけではない。
《かねてから、五輪のために巨大な施設を数多く建設することに対し、「自然破壊だ」という強い批判》があり、選手村でイモから作った食器を使うなど「世界初のグリーン五輪」と言われたリレハンメル冬季五輪が行われた1994年8月、《パリでのIOCの百周年会議で環境を五輪の第三の柱として認識し、1996年には五輪憲章を改正して「持続可能な開発を促進する」こと》が五輪の《基本理念に組み込》まれた。
そしてロンドン五輪では「持続可能なロンドン2012委員会」が設置され、《厳密で包括的な調達基準を設定し、環境面・社会面に配慮した製品とサービスを用いるように》した。
たとえば会場建設に使う木材や、大会で使う紙は、すべてFSC(森林管理協議会)が、森林保全に配慮して伐採したものと認定したものを使用。
会場や選手村で提供される飲食品も、発展途上国で作られた作物や製品を適正な価格で継続的に取引で購入したと認められたフェアトレードの製品に限定。さらに、持続可能な生産などの認証を取得した有機栽培の製品のみとした。
また、マーガリン、チョコレート、シャンプー、洗剤等は、それらに用いられる油ヤシから取れるパーム油が、熱帯雨林や生態系に悪影響を及ぼしていないとRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)が認定したパーム油のみを使用している製品に限定。
魚介類も、MSC(海洋管理協議会)が環境に配慮した漁で取った海産物だと認定した商品だけを使用した。
そして、こんなロンドン五輪の環境問題での規制以上に、《前回のリオ五輪でも、「ここまでできるのだ!」と感心するほど、多くの環境配慮と低炭素化が進められた》
ところが、このコラムを書いた枝廣淳子さんによると《2020年の東京五輪は(略)過去の大会に劣ってしまうのではないか、と心配》で、《こういった大事な議論が、政治家やマスコミ、市民の間でもほとんどなされていないことに危機感を覚え》るという。
枝廣さんは現在組織委員会の《持続可能性委員会のメンバーとして低炭素ワーキンググループの議論に関わ》っている人物。だからこの《危機感》は、内部告発と言える。
小生自身、これまで新国立競技場問題、エンブレム問題、ボートやゴルフの会場問題、予算問題等で、組織委の「無為無策」を批判してきたが、この環境問題は意識しなかった(そう言えば舛添要一前都知事は東京五輪で「水素社会の実現」を唱えていたが……)。
はたして木材を大量に使用する新国立競技場に、問題はないのか?
《どのような五輪にするのか》その議論こそ、今すぐ始めなければ! |