今年の4月から中学校の保健体育の授業で、武道やダンスが必修科目として取りあげられるという。
日本の伝統から生まれたスポーツ競技で、礼儀作法の習得にもつながる柔道や剣道を(事故の予防に十分留意して)子供たちが学ぶのは、けっして悪いことではない。
また、子供たちに人気のあるストリート・ダンス系の創作ダンス(ボディ・パフォーマンス)を学校で実践できるのも(体育の先生は大変だろうが)、運動不足解消のうえでグッドアイデアと思える。
が、保険体育の授業を行ううえで、もっと真剣に考え、取り組んでもらいたいことがある。
それは「スポーツの授業」である。
わたしは「スポーツライター」という肩書きを名乗って既に40年近く経つが、最初に愕然としたのは、自分がスポーツのことを何も知らない、という事実だった。たとえば……。
●サッカーは、なぜボールを足でしか扱わないのか?
●ラグビーは、なぜボールを前へパスしてはいけないのか?
●サッカーやホッケーの得点はゴール、なのにラグビーはトライ、バスケットボールはシュート(ポイント)、野球はスコア(ラン)と呼び方が違うのは、なぜ?
●テニスの試合は時速200キロを超す強烈な一打で始まるが、なぜそれがサービスと呼ばれるのか?
●テニスの得点は、15、30の次が、なぜ45ではなく、40なのか?
●陸上競技のトラックは(野球のランナーも)なぜ左回り(反時計回り)に走るのか?
●競馬に右回りが多いのは、なぜ?
●野球の投手はボールをスローする(投げる)のに、なぜピッチャー(ポイと軽く抛る人)と呼ばれるのか?
●野球の左投手は、なぜサウスポー(南の手)と呼ばれるのか?
……などなど、スポーツは、ちょっと考え始めたら知らないことだらけで、驚いてしまった。
こんなことでは「スポーツライター」を称することなどできない……と思い、スポーツに関する文献を漁り、いろいろ調べたところが……さらに愕然としたのは、それらスポーツに関する疑問には、すべて明確な歴史的理由が存在し、その理由がメチャメチャ(と言いたくなるほど)面白いことだった。
ここにあげた疑問のすべての回答を詳述する紙幅はないが、かつてテニスの第1打は召使い(サーバント)がサービスとして投げ入れていた名残だという。
また、人間の目は左から右へ動く物を追うのが得意で、観客がトラックの外側にいる陸上競技は左回り、レース場の内側にいることの多かった競馬では右回りになったという。
さらに野球場はバッター(右打者)の目に西日が入らないよう、本塁から二塁の方向が東北東になるよう規則で定められているため、左投手の手が南の方角から出てくるから「サウスポー」と呼ばれるという……。
このようなTVのクイズ番組的豆知識だけでなく、ローマ帝国から産業革命にかけてのフットボールの長い歴史はヨーロッパ史そのものであり、アメリカに移住したヨーロッパ人の歴史はベースボールを抜きに語れない。
また近代オリンピックの歴史は、地球規模の現代史ともいえる。
そんなスポーツ歴史も学校の授業で教えれば、体育の授業も歴史の授業も、もっと面白くなるはずだ。 |