コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2019-02-20
この原稿は、自動車輸入ディーラーYANASEのPR誌『ヤナセ・ライフ・プレジールYANASE LIFE PLAISIR』2015年1+2月号の巻頭コラムFRONTVIEWに書いたものです。2004年から足かけ25年間。2か月に1回、計86回にわたって連載してきたコラムも先々月で終了したので、これまで“蔵出し”しなかった原稿を探して順に“蔵出し”していきたいと思います。まずは来年に迫った東京オリンピックとも無縁ではない、1964年の東京五輪とともにビッグ・プロジェクトとして開通した東海道新幹線の話です。ナツカシイですねぇ。

それはわずか50年前の出来事
高速道路と新幹線が初めて出現した時代の興奮

《屋上で見えた見えたよ超特急》
 今から50年前の1964(昭和39)年。小学6年生だった私は、俳句とも川柳とも呼ぶことのできない「五七五」を、国語の授業時間に書いた。その十七文字とともに、そのとき見た光景を今もはっきりと憶えている。

 私の通っていた学校は、京都祇園の四条通と五条通の間、ゑびす神社や宮川町の歌舞練場のすぐ傍にある京都で一番古い(全国でも2番目に古いとされる)小学校だった。

 が、建物はモダンで、鉄筋コンクリート4階建て。L字型の校舎には、金網で囲まれた屋上の広場があった。

 街のど真ん中にある学校のため、御多分に漏れず運動場は狭く、正方形の対角線で50m走がやっと出来る程度。そのため教室が4階にあった上級生には、すぐ上にある屋上が恰好の遊び場となっていた。

 そこにあった雲梯(横になった梯子に猿のようにぶら下がって遊ぶ遊具)の上に登って跨り、腰を下ろすと、京都の町を囲む三方の山々――北山・東山・西山の連山が、大文字山や比叡山や愛宕山とともに見渡せた。

 そして山のない南側には瓦屋根や低層ビルの街並みが広がり、遠くに小さく建設中の京都タワーが聳えていた。そのあたりが京都駅のある八条通で、そこを、まるで玩具のように小さく細長い真っ白の新幹線の車体が、横一直線にゆっくり移動するのが見えた。

 私達は、遠くに見えるその姿に興奮した。何しろ「夢の超特急」なのだ。「夢」が目に見える姿で実際に動いているのだ。それは、そのころテレビで見た東京オリンピックと同様、じっと見ているだけで大興奮する出来事だった。そしてさらに興奮したのが、名神高速道路の開通だった。

 日本は道路の舗装率が欧米に較べて低く、高速道路も存在しない、と社会の授業で教わっていた。そしてアメリカの高速道路の四つ葉のクローバーのように美しい形をしたインターチェンジの写真を見たり、『サンセット77』『ルート66』といったアメリカのTVドラマで、颯爽と高速道路を走る大きなクルマを見たりするたびに、こんな道路やこんなクルマが、いつになったら日本にも現れるのだろう……と夢見ていた。

 それが日本にも出現したのだ。
 その開通したばかりの名神高速道路を父親の運転する業務用軽トラックに乗せてもらい、京都の東インターチェンジから南インターチェンジまで、わざわざ走りに行ったことも憶えている。そのとき窓から流れ込んできた風の爽やかだったことも……。

 東京にも首都高速道路ができたらしかったが、長距離を走る都市郊外の高速道路は「名神」が最初。その事実は、関西の子供にとって胸を張りたくなるほどの出来事だった。

 その年の夏休み、東海道新幹線東京―新大阪間、全線初の試運転の様子をNHKが生中継した。ヘリコプターから映し出された時速200kmで走るひかり号の雄姿が名神高速道路とともに映し出されたとき、「頭が八つではありませんが、新幹線と名神高速道路が並んでいる姿は、まるで八岐大蛇(ヤマタノオロチ)のようです」と、アナウンサーが上擦った声で喋っていたことも憶えている。

 そして東京を出発したひかり号が新大阪駅に滑り込んできた瞬間、その画面を見ていた私たち家族は、一斉に大きな拍手を贈ったのだった。

 あれからわずか半世紀。新幹線も高速道路も珍しくもない当たり前の風景になったが、当たり前でなかった時代があったこともリアルな記憶として残ってほしいと思う。

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