コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2011-08-10

この原稿は、朝日新聞5月15日付書評欄『ニュースの本棚』に書いたものです。テーマは「相撲の本」。ちょうど八百長問題でメディアが侃々諤々喧々囂々大騒ぎしたあと東日本大震災で一時期騒ぎは下火となり、5月の技量審査場所で再び話題が沸騰した折に書いたもので、朝日のネット版にも出ていますが、こちらにも“蔵出し”させていただきます。尚、この原稿を書いた当時、「大相撲八百長問題」のすべてを書いた小生の決定版『「大相撲八百長批判」を嗤う』(飛鳥新社)はまだ敢行されてませんでした。敢行されていても自著は取りあげにくいもので、そのあたり書評を担当すると同時に年に数度は自著を刊行している人間としては忸怩たるものがありますなあ。やはり自分の本が最も面白いと思っていますからね(汗)。あ。今後“蔵出しコラム”では、大相撲は「スポーツ」でなく「ノンジャンル」に入れるようにします。

日本文化「大相撲」は「スポーツ」なのか?

 新弟子死亡事件や大麻所持事件、横綱の暴行引退事件や野球賭博、そして携帯メール八百長事件……。不祥事続きの角界は信頼を回復できるのか?

 高橋秀実『おすもうさん』(草思社/1575円)は筆者自らまわしを締めて土俵に上がり、力士や行司のナマの証言を集め、肌で感じた「呑気でゆるやかな相撲の世界」を描いた秀逸なノンフィクション。

 明治時代には「待った」を54回繰り返し、仕切に1時間37分かけたこともある。明治42年に国技館ができたときも「八百長」が横行。「呑気者同士ゆえの八百長。呑気こそ相撲の伝統」と看破する。しかし、そんな大相撲が、やがて「裸一貫褌一丁で相手に(略)挑む。大日本帝国が敢行すべき『肉弾戦』」として「国技報国」に利用される。

 そして敗戦後はエスニックな魅力の行司や力士が進駐軍米兵の人気の的となり、柔道や剣道がGHQによって禁止されるなか、相撲は興行を再開。戦後の「スポーツ」として復活する。

 相撲の「正史」ともいうべき新田一郎『相撲の歴史』(講談社学術文庫/1260円)にも、「この融通無碍、これこそが相撲であった」と述べられている。

 中島隆信は『大相撲の経済学』(ちくま文庫/714円)で「八百長は本当に悪か」と問題を提起し、「真剣勝負が増えることで(略)観客の目を楽しませる」なら「八百長を極力減らすようなしくみを考え」るべきだが「相撲のパフォーマンス向上にそれほど効果があるわけでな」いなら「部外者が(略)目くじら立てて非難する必要もない」と書く。

 相撲は、「呑気」に「融通無碍」に考えるべきものなのだ。

 風見明『相撲、国技となる』(大修館書店/1680円)によれば、明治の大相撲の「近代化」は「力士の芸人根性の象徴」だった観客の「投げ花(投げ祝儀)」や「桟敷での力士の接待」の禁止、「人情相撲(八百長)」の排除から始まった。

 そのような近代日本が否定した前近代の相撲は、江戸風俗研究家の三田村鳶魚の話をまとめた三田村鳶魚・柴田宵曲『侠客と角力』(ちくま学芸文庫/1365円)に詳しく、江戸期には相撲(や侠客)の世界が「アジール(聖域・避難所)」として機能したことがわかる。そして「晴天十日の小屋掛け興行」が、明治の常設館(国技館)での興行となったことを「意気とか情味とかいふものを余所にして、財布ばかり大事がる」として、江戸っ子は「折角出来上がった国技館を、しみったれと罵った」という。

 しかし、時代は変わる。メディアが「八百長は許せない」と非難し、監視カメラの設置や携帯電話の持ち込み禁止で「大相撲のスポーツ化」が推進される。それを見て、世知辛い世の中…と思うのは私だけだろうか?

 そんなときは飯嶋和一の名作『雷電本紀』(小学館文庫/730円)に描かれた雷電の豪快無双の活躍を読んで溜飲を下げるのがいい。天明の大火で焼け野原となった江戸の町で、母親たちが次々と差し出す赤ん坊を抱きあげ、「厄払い」に励む雷電は、抑圧された民衆たちの閉塞感の象徴ともいえる「拵え相撲」(八百長)を「鉄砲(張り手と突っ張り)」でぶち壊す。小説とはいえ、相撲が「スポーツ化」することなく「美しい日本文化」であった姿を味わえる。

 いや、『映像で見る国技大相撲』(ベースボールマガジン社/全20巻/第1巻980円、第2巻以降各巻1260円)のDVDを見れば、「八百長」と騒がれた最近の大相撲も、実は素晴らしい名勝負だとわかるはずだが……。

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