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			  最高時速300q以上。平均時速200q前後で、周回コースを2時間近く走り、「速さ」を競うF1(フォーミュラ1)レース。 
			 その世界最高峰の自動車レーズに、日本人初のフルタイム・パイロット(年間10レース以上あるレースのすべてに参加したドライバー)として活躍した中嶋悟さんに、公開ディスアッションの席で質問をしたことがあった。 
			「時速300キロでマシンを走らせているときの感覚というのは、どういうものですか?」 
			 曖昧な質問だったが、丁寧な答えが返ってきた。 「雪が降ったあとのアイスバーンになった道路ではタイヤを滑らせてハンドルを取られたり、クルマを横滑りさせてしまうドライバーが多いですよね。でも、そんななかでタイヤをコロコロと上手く回転させてクルマをきちんと走らせているドライバーもいる。F1に限らず自動車レースというのは、そういう運転をするドライバーの競走なんですよ」 
			 私は、少々キツネにつままれたような気持ちになって、続けてこんな質問を口にした。 「だったら、自動車レースって、速さを競ってるのではなく、安全運転を競ってるのですか?」 
			「はい。そうです」  中島さんは、平然と答えた。 「事故ったら、勝利も何もありませんからね」 
			 確かに。現代社会では「走る速さ」そのものには意味がなくなっている。情報を別の場所に早く伝えたいなら、携帯電話もあれば電子メールもある。モノを早く届けたいならドローンもある。 
			 だから陸上競技の速く走る競走は「美しい走り方」を追求する競技になった。  そして自動車レースは、ツルツルと滑りやすい猛烈なスピードを競うなかで、より安全に自動車を走らせる方法を追求する競技になった、ということのようだ。 
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