コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2016-03-09
この原稿は、北國新聞の新連載「スポーツを考える第1回」(2015年1月29日)に書いたものです。大相撲はスポーツというジャンルだけでは語れない文化ですからノンジャンル編で“蔵出し”させていただきます。一部の新聞には、琴奨菊の優勝を「日本出身」と騒ぎすぎで、「ナショナリズムを強調しすぎ」と警告したスポーツ・ライターもいましたが、そこまで心配することでもないでしょう。スポーツ・ナショナリズムや文化ナショナリズムは政治ナショナリズムとも民族ナショナリズムとも違いますから、スポーツ・ナショナリズムや文化ナショナリズムを懼れるよりも、その違いを解説するのがスポーツ・ライターやスポーツ評論家の仕事だと思うのですが……

大相撲は「お国自慢」の文化――琴奨菊の優勝を日本人として喜ぶ

 栃木、宮城、滋賀、石川、茨城、熊本、福岡、島根、岐阜……これは、初代横綱明石志賀之助以来、歴代横綱の出身地を順に並べたものだ(重複は除く)。

 徳川幕府の時代、江戸や浪花の大都会で人気を博した大相撲興行は、地方の国々出身の力士たちの活躍によって盛んになった。

 いや、神代の昔に出雲出身の野見宿禰(のみのすくね)が、大和(都)の当麻蹴速(たいまのけはや)を破って以来、大相撲は地方出身の力自慢が都で活躍する姿を、同じく地方から都へ出てきた同郷者たちが「お国自慢」として贔屓し、応援するなかで発展したと言える。

 従って江戸時代とは格段に交通が発達した21世紀の今日は、都(都会)には世界中から力自慢の大男たちが集まるようになり、ハワイ、東サモア、モンゴルなどの出身力士が横綱になり、エストニア、ブルガリアなどの出身力士も優勝賜杯を握るようになった。航空網によって地球が狭くなったのだから、それらは当然の結果と言うべきだろう。

 彼ら「外(と)つ国」(都から遠く離れた国)からやって来た力士たちも都の大相撲のしきたりに従い、大銀杏を結い、まわしを締め、土俵の上で四股を踏み、大地を踏み固め、五穀豊穣を祈願する。あるいは羽織袴を身に付け、夏は鯔背(いなせ)に浴衣を纏(まと)い、大和言葉(日本語)を話し、大きな手形を押した色紙に、毛筆で墨痕(ぼっこん)鮮(あざや)やかに四股名を書く。

 そんな日本文化の継承者たちを、外国人呼ばわりするのは笑止千万。ましてやTシャツ姿でジーパンを履いた若者がハンバーガーやフライドポテトを口にしながら、最近は外国人横綱ばかり……などと嘆くのも本末転倒。もともと大相撲とは、地方(外つ国)の出身者が都で活躍する姿を、同郷の出身者が都で応援するという文化だったのだ。

 ……と、ここまで理解したうえで、初場所の琴奨菊の大活躍、日本出身力士十年ぶりの優勝を喜びたい。それは私も日本出身者であり、日本人だから、という以外に理由はない。狭くなった地球上で、日本という地域に暮らす相撲ファンとして、同郷者の活躍は、やはり嬉しいものだ。

 大正6(1917)年に史上初の浪花出身の横綱大錦が誕生したときや、昭和24(1949)年に初めて江戸っ子横綱東富士が生まれたときも、大阪や東京の都会で生まれ育った相撲ファンは大喜びしたという。それと同じ気持ちだ。もちろん琴奨菊と同じ筑紫の国(福岡県)に住む人々や出身者は、喜びも一入(ひとしお)だろう。

 都市(都)には多くの異質な人々が集まり、その人々の共通の話題となる文化が生まれる。大相撲もオリンピックも、そのような必要性のなかから生まれた都市の文化と言えるのだ。

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