女 ハイ、こちら東京オペラシティの記者会見場です。スタジオでも話し合われていましたが、新年恒例となっているニューイヤー・コンサートの記念すべき2000年第1回演奏会で、重大な反則行為があったという事実が発覚し、その謝罪会見が間もなく開かれます。あ。ピアニストのヨースケ氏と指揮者のサド氏が会見場に現れました(バシャバシャバシャバシャバシャバシャ)。
男 ええー。では、質問を受け付けたいと思います(バシャバシャバシャバシャ)。
女 あのう…8年前のコンサートで…。
男 ずばり端的に伺います。反則行為はあったのですか? なかったのですか?
ヨースケ そう言われても、それも、まぁ、音楽表現の一部でして…。
男 イエスかノーかでお答え下さい。肘打ちはしたのですか? しなかったのですか?
ヨースケ そう訊かれると……イエスですね(バシャバシャバシャバシャバシャバシャ)。
男 貴方はジャズマンですが、肘打ちをされた場所はクラシック音楽の殿堂といわれるタケミツホールで、クラシック音楽に挑戦されたわけですよね。
ヨースケ 別にクラシックに挑戦という意識でなく、オーケストラとやってみたいと…。
男 詭弁ですよ! クラシック音楽のオーケストラと、クラシック音楽としての自作のピアノ協奏曲を演奏されたのでしょう。そこでピアノの鍵盤を肘で叩いたのですよ! それは、れっきとしたルール違反ですよ!
ヨースケ 拳骨も使いましたが…。
男 ナックルパートは反則じゃないでしょう。真面目に答えて下さい!
男 サド氏にお伺いします。指揮者として「肘でやったれ!」と関西弁で反則行為を具体的に指示されたという疑惑がありますが…。
サド 2000年の第1回ニューイヤーでのことですよね。僕、そのときは直前に入院してしもて、指揮してないんですよ。
男 逃げないで下さい! そんな言い訳は通りません! そのとき代役として指揮台に立ったのは金聖響氏で、貴方の弟分といわれている指揮者ですよ。当然病室からでも反則の指示を出せますよね。それにその後、大阪とイタリアのトリノで、同じピアノ協奏曲をヨースケ氏の演奏で指揮されてるでしょう。
サド ええ。おかげさまで大好評で、トリノでのライヴはCDも売れてますねん。
男 反則行為をしても、ウケりゃあイイ、売れりゃあイイというわけですか? クラシック音楽を白い恋人や赤福と同じように考えてるんですか!
サド あれ、美味しいから、僕、どっちゃも好きですねん(バシャバシャバシャバシャ)。
男 美味しけりゃいいのですか! トリノでもやったというなら国際問題ですよ。
サド でも、クラシックでもピアノの鍵盤以外の部分を手の平で叩いたり…。
男 オープンブロウは反則ですよね。
サド ピアノの中の弦を指で弾くことも…。
男 サミングじゃないですか!
ヨースケ 私は、それだけはやらないんです。
男 サミングはやらないけれど、肘打ちはやってもいいという考えなんですか?
ヨースケ まぁ、そうですね。
女 肘打ちの練習までされていると聞いたことがあるのですが、本当ですか?
ヨースケ 練習というか、だいたい白鍵で3カ所、黒鍵で3カ所、低音部から高音部に分けて、左腕の肘を使う感じで確認を……。
男 それは立派な練習じゃないですか! 音楽が盛りあがって即興でしてしまうんじゃなく、もともと反則行為を行うつもりで、準備しているんじゃないですか!
ヨースケ まぁ、インプロヴィゼーションというのは、そういうものですから…。
男 それも詭弁だ! オーケストラには楽譜があってピアノ・ソロには楽譜がないというのも、じつは反則行為の証拠を残したくないからでしょう!
ヨースケ ……(バシャバシャバシャバシャ)。
男 ええぇ…そろそろコンサートの始まる時間ですので、記者会見はこのへんで…。
男 最後に一言! 今回の『エクスプローラー』と名付けられた新作でも、反則行為を「探求」して、肘打ちを行うつもりなんですか? イエスかノーかでお答え下さい!
ヨースケ YES & NO(バシャバシャバシャバシャバシャバシャバシャ)。
男 これで記者会見を終わりまーす。
女 テレビをご覧の視聴者の皆さんもお気づきのとおり、ついに肘打ちという反則行為に対する謝罪の言葉は一言も聞かれませんでした。これから始まるコンサートで、またもや驚くべき反則行為が飛び出すのかどうか、大いに期待したいと……、いや、あの、その……、大いに注目したいと思います。以上、東京オペラシティの現場からの生中継でした。
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