世の中には《ハマリやすいもの》がある。
酒、タバコ、コーヒー、紅茶、麻薬、ギャンブル……などが代表的だが、心理学者によると、ほかにも、激辛(激甘)食品、高脂肪食品、性行為、ポルノ商品の購入使用、無目的なテレビの視聴、クルマのスピードの出しすぎ、お金を使うことを目的とする買い物、多忙であることを目的とする仕事、口論、議論、暴力、他人の支配……等々も《ハマリやすいもの》だという。
が、そのなかに、なぜか「音楽」が含まれていない。ハマッても害がないからとりあげられないのか……理由はわからない。が、モダン・ジャズにハマッた奴の理屈っぽさは、酒乱よりもタチが悪いようにも思う。
それに、オペラにハマルと、もう、タイヘンだ。家計を省みず次からつぎへと高額のチケットやCDやDVDを買い、海外の歌劇場まで足を伸ばすようにもなる。
なかでも、ワーグナーとヴェルディのオペラは、ハマルと中毒症状が現れ、ワーグナーの場合は陶酔感とともに酩酊状態に陥り、ヴェルディの場合はブンチャカチャッチャというリズムが頭に鳴り響き、躁状態に陥る(ロッシーニ・クレッシェンドにハマッたオペラ・フリークもいるようですが……)。
正直いって、小生は、いま「ヴェルディ病」に取り憑かれている。それは、メトロポリタン・オペラの来日公演『リゴレット』の素晴らしい舞台を見たせいでもあるのだが、毎日一度は、ヴェルディのブンチャカチャッチャを耳にしないと落ち着かない。
しかも『アイーダ』『オテロ』『ファルスタッフ』といった晩年の傑作ではなく、『ナブッコ』『群盗』『アティラ』『エルナーニ』『二人のフォスカリ』といった初期の佳作にハマッている。それらのほうが、ブンチャカチャッチャの単純なリズムが頻繁に現れるのだ。
それら初期の作品は録音も少なく、CDは手に入り難かったのだが、最近ワーナーレコードから『ヴェルディ選集』として、往年の名演奏のCDが一気に発売された。
おかげで、小生の頭のなかはブンチャカチャッチャが鳴り響きっぱなしである。でも、まあ、ワーグナーに酔って哲学ブルよりはマシだろう……とひとり、言い訳をしているのだが……。 |