コラム「音楽編」
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掲載日2011-09-14
この原稿は、かつて存在した(今は廃刊になった)隔月刊誌『大人ぴあ』の連載コラム「玉木正之のちょっとオモロイモン」の第15回と第16回=最終回(2001年9月号&10月号)に書いたものです。最近『ぴあ』も廃刊になったとかで、記念に順次“蔵出し”してきましたが、この『大人ぴあ』という雑誌も、この号で確か廃刊となったはずで、雑誌の命というのは短く儚いもののようで、そこに他のメディアにはない良さがあるのかもしれません(そうでもなく延々と長く続いている雑誌もありますけどね・笑)。

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」
第15回 小泉さん、日本のオペラにも注目して!

 メトロポリタン・オペラの来日公演に行くと、小泉首相が来ていた(ほかに竹中、遠山、森山の各大臣や、橋本元首相夫人も)。
 小泉さんは、首相就任以前から、フィレンツェ歌劇場、ミラノ・スカラ座等の来日公演でもロビーで見かけた。トイレで隣同士になったこともある。が、新国立劇場では、なぜか出逢ったことがない。

 小泉さんは多額の税金を投入した日本初のオペラ専用劇場での日本人によるオペラ公演よりも、「本場の来日公演」のほうがお好みのようである。

 そういう「趣味」が、「イチローはすごいね。大リーグのほうが日本のプロ野球よりもオモシロイ」という発言にもつながったのだろうか……?

「IT革命」には熱心でも、中味の「コンテンツ」としての文化はほったらかしで、「外国」まかせ。それでは、文化会館やコンサートホール、体育館やスタジアムをゼネコンのために建設してきた「箱モノ行政」と何ら変わりがない。「聖域なき改革」とは、この程度のモノなのか?

 とはいえ、小生も、オペラ(と野球)に関しては「国産品」に少々ウンザリしている。音程だけを間違えないように一生懸命歌っている音大出身歌手の能面のような顔では、オペラは楽しめない(人工芝の上で監督の言いなりに動く野球選手も同じ)。

 それより、櫻川唯丸師匠の「江州音頭」(『ULLAMBANA』)や茂山狂言一派の「ハイパー室町歌謡組曲」(『BASARASARA』)のCDでも聴くほうがよっぽど楽しい。これぞ、日本のオペラである。

 そういえば、櫻川師匠の江州音頭のCDを、いちどフランス人のフルーティスト(J・P・ランパルの弟子で、元ラムルー管弦楽団の主席フルート奏者)に聴かせたところが、メチャメチャ気に入って、さっそくディスクショップに走り、買って帰った。

 日本の音楽ソフト(コンテンツ)は捨てたもんじゃない。それを、どのようにグローバル・ビジネスに結びつけるか? 小泉さん、考えてください。


第16回 (最終回)ヴェルディのブンチャカチャッチャにハマル

 世の中には《ハマリやすいもの》がある。
 酒、タバコ、コーヒー、紅茶、麻薬、ギャンブル……などが代表的だが、心理学者によると、ほかにも、激辛(激甘)食品、高脂肪食品、性行為、ポルノ商品の購入使用、無目的なテレビの視聴、クルマのスピードの出しすぎ、お金を使うことを目的とする買い物、多忙であることを目的とする仕事、口論、議論、暴力、他人の支配……等々も《ハマリやすいもの》だという。

 が、そのなかに、なぜか「音楽」が含まれていない。ハマッても害がないからとりあげられないのか……理由はわからない。が、モダン・ジャズにハマッた奴の理屈っぽさは、酒乱よりもタチが悪いようにも思う。

 それに、オペラにハマルと、もう、タイヘンだ。家計を省みず次からつぎへと高額のチケットやCDやDVDを買い、海外の歌劇場まで足を伸ばすようにもなる。

 なかでも、ワーグナーとヴェルディのオペラは、ハマルと中毒症状が現れ、ワーグナーの場合は陶酔感とともに酩酊状態に陥り、ヴェルディの場合はブンチャカチャッチャというリズムが頭に鳴り響き、躁状態に陥る(ロッシーニ・クレッシェンドにハマッたオペラ・フリークもいるようですが……)。

 正直いって、小生は、いま「ヴェルディ病」に取り憑かれている。それは、メトロポリタン・オペラの来日公演『リゴレット』の素晴らしい舞台を見たせいでもあるのだが、毎日一度は、ヴェルディのブンチャカチャッチャを耳にしないと落ち着かない。

 しかも『アイーダ』『オテロ』『ファルスタッフ』といった晩年の傑作ではなく、『ナブッコ』『群盗』『アティラ』『エルナーニ』『二人のフォスカリ』といった初期の佳作にハマッている。それらのほうが、ブンチャカチャッチャの単純なリズムが頻繁に現れるのだ。

 それら初期の作品は録音も少なく、CDは手に入り難かったのだが、最近ワーナーレコードから『ヴェルディ選集』として、往年の名演奏のCDが一気に発売された。

 おかげで、小生の頭のなかはブンチャカチャッチャが鳴り響きっぱなしである。でも、まあ、ワーグナーに酔って哲学ブルよりはマシだろう……とひとり、言い訳をしているのだが……。

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