コラム「音楽編」
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掲載日2013-12-11
この原稿は、故・野村万之丞が創設したNPO法人「ACT.JT」の機関誌『鼎tei』第11号に寄稿したものを少々新しいヴァージョンに書き換えたものです。以前は、「蔵出しコラム・ノンジャンル編」に300万ヒット記念でアップしていたものですが、少々手を入れて「東京五輪開会式之巻」として「蔵出しコラム・音楽編」としてアップします(最近、音楽編の更新が滞ってましたから)。11月末のエンジン01山梨オープン・カレッジで奥田瑛二サンと「東京五輪の開会式は野村万之丞が生きていたらなあ…」で意見が一致したので、こんな形で“リニューアル蔵出し”することにしました。

新・地獄八景万之丞乃戯(じごくばっけいまんのじょうのたわむれ)東京五輪開会式之巻

 「いよっ。久しぶり」
 「うわっ。また出てきたか。突然出てくると、びっくりするやないけえ」
 「ごめんごめん。そんなに驚くとは思わなかった」
 「そらまぁ、いずれ出て来てくれるとは思てたけど、1回目に出てくれた時から結構時間が経ったんで、忘れかかってたで」
 「悪い悪い。あっちでもけっこう忙しくてね」

 「忙しいって、別にやることなんかないやろ」
 「最初のうちは、そうだったね。天国のほうへまわされたから」
 「おまえが、天国?」
 「そう。なぜか知らんけど、閻魔に天国だって言われたもんで。ラッキーと思って行ってみたら、もう退屈で退屈で」

 「天国って、やることないんか?」
 「蓮の浮かんだ池の周りをニコニコしながらぶらぶら歩くだけ」
 「そんな連中が大勢いるんか?」
 「そう。あんた方はどちらさんでって訊いたら、すました顔して阿闍梨(あじゃり)ですという。そいつらが『今日もいい天気ですなぁ』とか『蓮が綺麗ですなぁ』とか、そんな話をするだけ」
玉 「そら退屈やなぁ」

 「そいつらの食ってる餅が、また不味い」
 「阿闍梨餅か? 美味しいはずやけどな」
 「ところが、向こうでは、なんの味もしない。そいつらが、おまえも阿闍梨かって訊くから、いえいえ、私めはアチャラカでございますって答えたんだけど、笑いもしない」
 「冗談も通じひんのか? ほんで、おまえさん、アチャラカちゅうのは阿闍梨から出たもんで・・・ってまた演説始めたんやろ」

 「いや、まぁ、ところが何を言っても静かに聞くだけで反応なしだから、もう、イヤになって、地獄へ行かせてくれって直訴した」
 「直訴って誰にしたんや?」
 「それはもうタカムラさんにですよ」
 「タカムラって・・・、小野篁(おののたかむら)か?」
 「そう」

 「おおっ。まだ閻魔さんのとこで仕事しとるんや。おれ、篁がつくった珍皇寺(ちんこうじ)の檀家で、墓つくったよって、今度逢うたら、よろしゅう言うといてや」
 「その話、前に聞いたから、もう言っておいた。近々、あんたと同じくらいの身体のデカイ男が来るけど、檀家の一人だからよろしくって」
 「なんで、近々やねん」
 「ははははは。ごめんごめん。冗談冗談。たしか脳卒中からは立ち直ったんだよな」
 「よう知ってるなあ」
 「地獄耳、地獄耳」

 「ほんで地獄へ移れたんか?」
 「そう。篁は話のわかる男だから。すぐに認めてくれて、鬼の案内役まで付けてくれた」
 「鬼は、怖(こわ)なかったか」
 「鬼もいろいろだけど、なかなかいいキャラしてるのが多くてね。これは使えるね」

 「使えるって、何に使うねん」
 「もちろん舞台ですよ。青いの、赤いの、大きいの、小さいの、堂々としてるの、こすっからいの、もう百鬼繚乱」
 「それも言うなら、百花繚乱、百鬼夜行やで」
 「シャレですよ。シャレシャレ」
 「わかっとるがな。茶々入れただけやがな。けど地獄って、やっぱり恐ろしいやろ」

 「慣れだね。地獄も慣れれば極楽。血の池で見事なクロールしてる奴もいるし、針の山も見事な眺めで箱根どころじゃない。万丈の山、千尋の谷、函谷関もものならずってのは針の山のことだな。その上を阿修羅が飛びまわってるんだから、もう、絶景かな絶景かな」
 「けど、針が身体に刺さって痛いんやろ?」
 「それも慣れだって。慣れだけのこと。マゾじゃなくても、そのうち慣れる。どれだけ刺されようが、死ぬことはないんだから安心」

 「ホンマかいな。そういや芥川龍之介もおんなじようなこと書いとったなぁ」
 「いたいた、龍之介。そっちにいたときは病的で静かだった男が活き活きとして鬼と戯れてたよ。あれじゃあ、もう小説は書けないな」
 「他に誰かいたか?」
 「阿国に逢ったよ」

 「おおおっ。一緒に踊ったか?」
 「踊った。けど、スローテンポでさ。チリリンチリリンなんて鈴振ってシナつくるだけ。あれじゃ、いまは使えないな。・・・おおっと、篁の使いの鬼が来た。もう帰らなきゃ」
 「久しぶりに逢うたんやから、もうちょっと話そうや。ええ酒あるねん。飲んでけや」
 「いや、ごめんごめん。篁にアポとったんでさ。奴も忙しいから」
 「アポまでとって篁と何の話をするねん」

 「地獄の『血の池湖上ステージ』でさ、今度、阿修羅も鬼も亡者も、一緒になって踊りまくる『大地獄祭』をやることになったんで、その打ち合わせ・・・」
 「そうか。いまもがんばってるのんやなぁ。忙しいやろけど、身体にだけは気をつけて。あ。そうそう2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まったんやけど・・・」
 「知ってるよ。地獄耳だから・・・」
 「開会式の演出できる人がいないから・・・。歌舞伎や能や狂言や、田楽や仮面劇からシェークスピアや現代演劇まで、クラシック音楽やオペラから現代音楽、ロック、ポップス、初音ミクまで網羅して考えられる人がいなくて・・・」
 「俺は、長野のパラリンピックと、アメリカのバッファローでのユニヴァーシアードで演出した経験しかないけど、広いところはたいへんだよ・・・」

 「だからオマエさんが・・・」
 「やりたいのはヤマヤマだけど、地獄から通うのはシンドイからなあ・・・」
 「そこをナントカ・・・」
 「まだ7年あるから考えとくよ。新しい国立競技場は屋根付きだろ。だったら日本のプラネタリウムは世界一だから屋根にいろいろ映せるよな・・・それに日本の水族館も世界一だから・・・3Dの初音ミクと団十郎を星と海に・・・あっ。もう行かなきゃ・・・」
 「おい、待てよ。もう少し聞かせろ・・」
 「マア、開会式の心配をするのもいいけど、その前に、あの男を地獄に落としなよ。でなけりゃ、組織委員会も作れないぜ・・・じゃあ、な・・・」

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