オペラは高級で難解なもの・・・といった間違った先入観を抱いている人がまだまだ多いなかで、オペラほど楽しく面白く理解しやすいものはない(なにしろ、男女の愛の物語に美しい音楽まで付いているのだから)と、主張し続けてきた私だが、最近はその考えが少々変化し、オペラはやっぱり難しい、と思うようになってきた。
たとえば『椿姫』。パリの高級娼婦ヴィオレッタに一目惚れしたアルフレード。それを父のジェルモンが咎(とが)める。でも、息子は父親のいうことを聞かない。いつの世も変わらない親子の断絶。嗚呼、難しい・・・。
おまけに、娼婦のヴィオレッタが美しい心の持ち主で、真剣にアルフレードを愛してる。けど、父親はその愛を許せない。いや、本心では許したくても、世間体が許さない。いつの時代も変わらない社会の柵(しがらみ)。嗚呼、難しい・・・。
こんな「難解な問題」は、餓鬼には到底わからない。まっとうな大人にしか理解できない。いや、理解できても解決できない。親と子の関係、男と女の愛の形は、それほどまでに難しい。
ならば、ただただ涙を流して、アルフレードやジェルモンの苦悶(くもん)を、ヴィオレッタの心の底からの悲しみを、黙ってじっと見守るほかない。
ヴェルディの美しい音楽が、その涙を誘(いざな)う。
嗚呼、オペラは素晴らしい! |