音楽を好きになるキッカケは、様々にあるものだ。
いつもつまらないと思っていた小学校の音楽の授業で、初めて聴いた『アルルの女』になぜか大興奮してしまったり……、ウルサイとしか思えなかった爺さんの聴くベートーヴェンが、ある日突然心に響くようになったり……。
あるいはまた、好きになった女性(男性)がモーツァルトの大ファンで、一緒に聴くうちに、その女性(男性)以上にモーツァルトの音楽が好きなってしまったり……。
音楽を好きになるのは理屈ではない。小さい頃からの特訓で、どれほどピアノが上手く弾けても、「音楽が好き!」というのとは少々違うような気がする。
何年か前、ある音楽祭の野外コンサートで、佐渡裕さんと一緒に芝生の上に足を伸ばして音楽(R・シュトラウス作曲『英雄の生涯』)を聴くチャンスに恵まれた。
佐渡さんは、指揮者用の大きな楽譜を膝の上に広げ、軽く右手を揺らせながら鼻歌を奏でる。私は、マエストロがどんな音楽の聴き方をするのか、興味深く横目で彼の仕種に神経を集中させた。
すると突然、「ここやねん! ここ! わかる?」と彼が叫んだ。
私は、何のことやちんぷんかんぷん。
「ほら、昔のLPレコード! ここでA面からB面にひっくり返さなあかんかったやろ。あれ、イヤやったなあ……」
私は苦笑いしながら納得した。
音楽は続いてるのに、レコードをひっくり返さなければならないもどかしさ……嗚呼。
もちろんマエストロは、我々の知らない楽譜の細部も頭に入れて、音楽を響かせてくれる。が、私はこのとき、佐渡さんの音楽好きの精神の神髄に触れたような気がした。
音楽を大好きな人物、心から愛している人物が、指揮台に立って11年目。さて今年は、どんな喜びを味わうことができるのだろう? |