コラム「音楽編」
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掲載日2017-09-13
この原稿は小学館発行の雑誌『サウンドパル』1998年4月号の『連載・玉木正之のビデオで見るオペラの時間』の最終回(第12回)として書いたモノです。のちに東京新聞社サンシャインシティ文化センター『東京カルチャー倶楽部』での講座『オペラは、ほんまにオモロイでぇ〜』(1999年4月〜2000年3月)の講義録と合わせて『オペラ道場入門』(小学館2000年5月刊)として単行本にしました。そのときは、本の帯に佐渡裕(指揮者)島田雅彦(作家)野村万之丞(狂言師・故人)岡田武史(コンサドーレ札幌監督=当時)山下洋輔(ジャズ・ピアニスト)の各氏が推薦人として名前を連ねてくださり、出版と同時に、料理評論家でオペラ・ファンの山本益博さんや、音楽評論家の故・宇野功芳氏や、故・永竹由幸氏などが書評で絶賛してくださった本でした(このなかで、既に3人も故人になられたのですねえ…合掌)。ところが、単行本も今では絶版になってしまったので(amazon.comでは、まだ購入可能のようですが)、本欄で順次“蔵出し”しているわけです。単行本とはかなり内容が違いますが、考え方・コンセプトは同じです。ご愛読をよろしく!

「ビデオで見る玉木正之のオペラの時間」第12回《大天才モーツァルトともに、心豊かな「オペラ人生」を!》

 いよいよ、この連載も最終回。

 過去11回にわたって、オペラとは、何も難しいものでなく、また、高級なものでもなく、映画や演劇、ミュージカルや歌舞伎、恋愛小説やスポーツ、それに、ロック・ミュージックやポップス音楽等々と、まったく同じように楽しめる「娯楽」である、ということを繰り返し力説してきた(本当は、そんなこと、力説なんぞしなくてもいい、当然のことなんですけどね)。

 そして、イタリア・オペラ、ドイツ・オペラ、フランス・オペラ、ロシア・オペラ、現代オペラ、バロック・オペラを紹介し、プッチーニ、ヴェルディ、リヒャルト・シュトラウス、ワーグナー……といった作曲家のすばらしいオペラ、面白いオペラの数々、さらにヨハン・シュトラウスやレハールのオペレッタや、ジョージ・ガーシュインやオスカー・ハマースタイン2世、リチャード・ロジャースやレナード・バーンスタインなどのジャズ・オペラやミュージカルを紹介してきた。

 これまでオペラといえば、少々取っつきにくいもの、自分とは無縁のもの、と考えておられた方々も、この連載を愛読していただけたなら、いまや完璧なオペラ通――とまではいかなくても、テレビのチャンネルをまわすときに、教育テレビやBSでオペラをやっているのにぶつかり、ちょっと見てみれば、なるほどオモロイもんじゃないか、そしたら一度見てみようか、DVDでも買ってみようか、という気になっておられるはずである。

 そこで最終回の今回は、音楽史上最大の天才モーツァルトのオペラを取り上げて終わることにしたい。が、そのまえに、少しばかり、オペラの歴史についての話をしておこう。

 普通の「オペラ入門」なら、こういうオペラに関する「教養」(知っているとうれしいけれど、知っていなくても困らない知識のこと)についての解説は、最初のほうで出てくるものである。

 そして、オペラを「教養」としてとらえる人の知識欲をくすぐり、オペラを趣味とすることの「高級感」を醸し出し、オペラ・ファンとなることの「プライド」をくすぐるものである。

 が、オペラなんて所詮は男と女のホレタハレタの物語であり、ワーグナーの『ニーベルンクの指環』は、ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』とまったく同じレベル――というスタンスをとっている小生は、そんな「教養」などハナからどうでもいいことと思っているから、これまでまったく触れなかった。

 でも、まあ、知っておいても悪くない知識というものはある。という以上に、「オペラの歴史」というのは、ナカナカに面白い面がある。というので、少々説明させていただくことにする。

 まず面白いのは、オペラというのはまったく不思議な芸術で、生まれた時と場所がはっきりとわかっているのである。絵画や演劇、舞踏や音楽といった芸術・芸能が、いったいいつ生まれたか、といっても、それは人類の文明の誕生した頃から、とでも答えるほかない。が、オペラには「誕生日」と「誕生の地」があるのだ。

 ルネサンスと呼ばれる時代も終わりに近い西暦1597年のこと。イタリアはフィレンツェに住んでいたジョヴァンニ・ディ・バルディという名前の伯爵の家で、ギリシア古典劇の『ダフネ』を楽しもうというパーティが企画された。それは、古代ギリシアの文化に興味を持った「ルネサンス人」ならではのアイデアだった。

 しかし、そのとき問題になったのが、音楽だった。古代ギリシアの古典劇のストーリーや台詞は、資料があるからわかる。が、古代ギリシアでどんな音楽を使っていたかはわからない。それじゃあ音楽は新しくつくろう、ということになって、詩人のオッターヴィオ・リヌッチーニ(1562〜1621)、作曲家のヤコボ・ペーリ(1561〜1633)、ジューリオ・カッチーニ(1545頃〜1618)といった当時の一流の芸術家に依頼して「音楽劇」がつくられた。それが「オペラ」誕生の瞬間なのである。

 残念ながら、そのときの楽譜は残されていない。が、結構評判はよかったようで、それから3年後の西暦1600年に、もう一度ギリシアの古典劇に音楽をつけて楽しむことが企画され、今度は『エウリディーチェ』が上演された。この楽譜は最古のオペラ作品として残っている。

 この二つの「音楽劇」(drama in musicaと呼ばれた)は、やがて大評判となって、いろんな場所で上演されるようになり、同様な作品が次々とつくられるようになった。そして、やがてそれがオペラ(opera in musica)に発展した(operaとは、「作品」という意味のラテン語opusの複数形で、詩や台詞や音楽や舞踏や衣装や舞台装置など、様々な「作品」が一緒になっている「作品群」という意味である)。

 ただ、このとき、大きな「間違い」が起きた。というのは、ギリシアの古典劇にあこがれたフィレンツェの「ルネサンス人」たちは、そのお芝居のストーリーが合唱団(コロス)による説明によって進行する、ということを知らなかったことから、主人公に最も大切な歌をうたわせ、独唱者を重視する作品に仕上げてしまったのである。

 しかし、これは、すばらしい間違いだった。このとき、合唱よりも独唱を中心に据えてくれたおかげで、後の世でマリア・カラスも、パヴァロッティも大活躍することができ、我々も、その歌声に「ブラヴォー!」を叫ぶことが出きるようになったのだから。もしもこのとき、ギリシア古典劇に詳しい学者がいて、「コロスこそギリシア演劇の魂」などといいだしていたら、オペラの今日の人気はなかったかも……。

 もっとも、この合唱から独唱への「劇の中心」の移動は、単なる間違いとも言い切れないと思える点がある。というのは、1597〜1600年という時期が、文化芸術の区分でいえば、すでに「バロック」と呼べる時代に入ってもいたからである。

 バロックというのは、ポルトガル語で「歪んだ真珠」を意味する「バロッコ」から生まれた言葉で、古代ギリシアの端正な形式美を重んじたルネサンス様式の「古典主義」の次に、どんどんと華美な装飾がくっつきはじめた芸術の様式をいう。

 要するに、バロック芸術は、より複雑に、厚化粧をはじめたのである。

 そういう時代意識のなかで、詩だけでは満足出ず、音楽だけでも満足できず、詩と音楽を融合させ、さらに台詞も演技も加え、舞踏も加え……という意識が働いたに違いない。だから、ひょっとして、フィレンツェに住んでいた「ルネサンス人+バロック人」の「文化人」たちは、「ギリシアの古典劇はコロスが中心」といことを知っていながら、「主人公に思い切り歌をうたわせたほうが派手で面白い」と考え、確信犯的にギリシア古典劇とは違う形式を生み出したのかもしれない。

 とにもかくにも、そんなふうにして生まれたオペラは、イタリア全土に広まり、「バロック精神」とともに、どんどん華美に、派手に、華やかに進化した。

 そこで誕生したのが、カストラートという歌手である。それは、少年の美しい声(ボーイ・ソプラノ)をそのまま残すために去勢した歌手のことで、映画『カストラート』を見た方ならご存じだろうが、16世紀のイタリアで大流行したオペラは、女性の声をした美男歌手が小林幸子が紅白歌合戦のときに着るような衣裳を身につけ、雲をかたどったゴンドラに乗って舞い降りる、というような舞台で、その大スター歌手が(エルヴィス・プレスリーのように)舞台から投げるハンケチーフを観客が奪い合う、といった光景が展開された(小林幸子やプレスリーのパフォーマンスには、何ら「新しさ」はないのである)。

 そうなると、オペラは、どんどん「スター化」する。「スター化」する、ということは、「ミーハー化」する、ということである。

 これはシェークスピア翻訳家の小田島雄志さんに教えてもらったことだが、演劇ファンというのは、役者(スター)に注目する「ミーハー」と、演出に注目する「玄人」と、脚本(作品)に注目する「インテリ」に分類できるという。この分類は、オペラにはもちろん、他の芸術やスポーツにも当てはまるようだ。

 もちろん、ミーハーが悪い、というのではない。美空ひばり、長嶋茂雄、エルヴィス・プレスリー、ビートルズ、エディット・ピアフ、マレー・ディートリヒ、ビリー・ホリデイ、ペレ、マイケル・ジョーダン、そして、マリア・カラス、ルチアーノ・パヴァロッティといった、それぞれのジャンルで超一流の実力を示し、超一流の活躍をした人々は、すべて「ミーハー受け」をした。もう少しきちんと表現するなら、多くの一般大衆に支持された。そのうえに、玄人筋やインテリからも評価を受けたが、彼らがスーパースターたり得たのは、「ミーちゃん、ハーちゃん」に受けたから、「ミーちゃん、ハーちゃん」に支持されたからに外ならない。

 彼らより少しばかり実力の劣る一流の人々が、玄人筋に受けたりインテリに受けたり、あるいは単にミーハー受けだけしたのである。

 だから小林幸子ばりの衣裳でボーイソプラノを張りあげる美男のカストラートたちが、ミーハーのオペラ・ファン(や王侯貴族)にワアワアキャアキャア騒がれたことは、けっして悪いことではない。

 そうしてオペラは、ナポリでは独唱歌手のアリアを中心に、楽器の名産地である(優秀な職人が多かった)ヴェネツィアではオーケストラの発達とともに、発展した。また、カトリックの総本山のあるローマでは、あまりに世俗的な(カストラート中心の)作品が上演中止などの弾圧を受けた結果、合唱曲の表現形式が深まり(ミーハー・ファンの喜ぶスターは排除され)、オペラはいろんなヴァリエーションを伴い、全イタリアに流行。さらにフランス、イギリス、ドイツへと広がったのだった。

 が、いつの世にも、「ミーちゃん、ハーちゃん」を嫌って、芸術を崇高なものと考える人たちがいる。また、そういう人たちが人間のつくりだす芸術を進化させる面があることも事実である。音楽の世界でのその代表がベートーヴェンで、自分の音楽が演奏されている最中に話をしていたご婦人方に向かって、彼は、「豚どもは、わたしの音楽を聴くな」といったらしい(音楽を聴きながら、少しくらい話をしても、いいじゃないですかねえ)。

 オペラの世界でも、あまりにもスター歌手(カストラート)に人気の集まりすぎた現状を憂い、演劇(物語)と音楽の一致を訴える作曲家たちが繰り返し現れた。

 18世紀のイタリアの、ニコロ・ヨンメッリ(1714〜74)やトンマーゾ・トラエッタ(1727〜79)といった作曲家がそういう主張を展開したのだが、彼らが、あまり有名ではない(後世に残る作品を創らなかった)のは、皮肉というほかない(オペラというのは、所詮は理屈で作るものじゃないのですね)。

 しかし、その後、オーストリアにクリストフ・ヴィリバルト・グルック(1717〜1787)が現れ、彼らの理屈をさらに進化させ、劇的緊張感に充ちた(スター歌手による、劇の進行には不要で無駄な歌の存在しない)『オルフェオとエウリディーチェ』といった名作を残した(ドイツ系の作曲家は、理屈をもとに名作をつくるのが巧いのである、というより、理屈がないと作れないのかな?)

 そして、演劇としての充実感と、音楽的レベルの高さが、同時にクリヤーされてこそ、はじめてオペラといえる……というような評価が一般化する時期に、大天才ウォルフガンク・アマデウス・モーツァルト(1756〜1791)が出現するのである。

 それは、オペラの歴史(オペラの発展)にとって、これ以上はない、といえるほど幸運な出来事だった。

 先に、オペラは全イタリアからフランス、イギリス、ドイツへと広まった、と書いたが、これは、あまり正確な表現ではない。たしかに、フランスでは、ジャン=バティスト・リュリ(1632〜1687)、ジャン=フィリップ・ラモー(1683〜1764)、イギリスでは、ヘンリー・パーセル(1659頃〜1695)、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685〜1759)、それにドイツ圏にもグルックといった作曲家が現れ、今日までも残り、上演されるオペラを創った。

 が、オペラといえばイタリアの芸術というのが当時の常識で、グルックのオペラをはじめ、ほとんどのオペラがイタリア語でうたわれ(原曲がイタリア語の歌詞で)、イタリア以外の国で上演されるオペラも、クラウディオ・モンテヴェルディ(1567〜1643)、ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレーシ(1710〜1736)、ニッコロ・ピッチンニ(1728〜1800)、ドメーニコ・チマローザ(1749〜1801)、ジョヴァンニ・パイジェッロ(1740〜1816)といった、イタリアの作曲家の作品が圧倒的に多かった(また、イギリスではシェークスピアの出現によって、演劇のほうが文化として発達した)。

 そして、モーツァルトがウィーンで活躍したときの宮廷楽士長もイタリア人で(のちにモーツァルトの才能に嫉妬して彼を毒殺した犯人と疑われることにもなる)アントーニオ・サリエーリ(1750〜1825)だった。

 そんな「イタリア文化帝国主義」ともいうべきオペラ界にあって、「塩の町(ザルツブルク)」生まれのモーツァルトには、文化的民族的なアイデンティティが存在しなかった。というのは、当時のザルツブルクではドイツ語が話されていたが、ローマ法王庁の直轄領であり、オーストリアのなかの独立都市のような存在だったのだ。

 おまけに、子供の頃からピアニストとして天才的手腕を発揮したモーツァルトは、息子の技芸で一儲けしようと思った父親に連れられて、ドイツ国内はもとより、遠くイタリア各地をドサまわりの演奏旅行で訪れた。そして、当時大流行していたイタリア各地オペラにも触れた。

 また、けっして裕福でない少年時代には、ドイツで流行しはじめていたドイツ語による音楽大衆演劇(ジンクシュピール)も、よく見た。

 おまけにモーツァルトは、音楽史上初のフリー・ランサーの作曲家といえる存在だった。それまでの作曲家(音楽家)が、すべて貴族や教会のお抱え音楽家として生活を保障されていたのと違い、モーツァルトはある時期から、作曲の依頼を受け、お金をもらって音楽作品を創る(売る)という作業をはじめた。そのため、ピアノ独奏曲や交響曲から、オペラやレクイエムまで、じつに様々な依頼を受けることになり、それがモーツァルトの豊かな才能を引き出す要因になると同時に、オペラでも多様な作品を生む結果となった。

 そんな体験や環境のなかから、モーツァルトは、イタリア語の喜歌劇(オペラ・ブッファ)も書けば、イタリア語のまじめな古典歌劇(オペラ・セリア)も書く。さらに、オーストリアでは主に宮廷劇場で上演されたオペラだけでなく、ジンクシュピールも書いて芝居小屋で上演し、ミーハー・ファンの人気も得る、といった具合に、無国籍化したオペラで、貴族の人気も、知識人たちの人気も、ミーハー人気をも獲得したのである。

 彼の書いたジンクシュピール(『後宮からの逃走』や『魔笛』)は、のちのベートーヴェンやウェーバーに影響を与え、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウスとつづくドイツ・オペラの基礎となった。

 また、彼の書いたオペラ・ブッファ(『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』など)は、明らかにロッシーニに影響を与え、ベッリーニ、ドニゼッティ、ヴェルディ、プッチーニとつづくイタリア・オペラの発展へとつながった。

 まさにモーツァルトは、ローマ帝国のような位置にある作曲家で、ヨーロッパの歴史がすべてローマに流れ込み、ローマから流れ出たように、オペラの歴史はすべてがモーツァルトに流れ込み、モーツァルトから流れ出たのである。

 まあ、そういうことを知ったからといって、モーツァルトのオペラが楽しみやすくなる、というわけでもないのだが、いずれ多くのオペラに親しみを持ち、いろんなオペラを聴いたり見たりするようになったときに、さすがにモーツァルトにはオペラ音楽のすべてがある、ということに改めて気づき、さらにモーツァルトが好きになる、という意味では、知っておいても悪くない知識といえる。

 その意味で、もうひとつ、モーツァルトの凄さを感じるうえでの知識として、脚本の凄さをあげておこう。

『フィガロの結婚』の原作者ピエール・オギュスタン・ボーマルシェ(1732〜1799)は、当時の大人気劇作家であり、『フィガロ』はロッシーニがオペラ化した『セビリアの理髪師』とともに、フランス演劇界ではモリエール以来の大傑作といわれるほどの作品だった。また、『ドン・ジョヴァンニ』(ドン・ファンの物語)も、当時のヨーロッパでは(ゲーテが戯曲化した『ファウスト』と同じように)超有名な伝説(伝承物語)で、フランスの大劇作家モリエールも戯曲化したものだった。

 そしてその両者とも、脚本は、宮廷詩人でイタリア系ユダヤ人で、(好色な詐欺師として有名になった)カサノヴァの友人だったロレンツォ・ダ・ポンテ(1749〜1838)が執筆(『コジ・ファン・トゥッテ』は彼の創作)。ダ・ポンテは、のちにロンドンへ渡って劇場支配人を務めたあと、アメリカへ渡ってオペラのプロデュースに携わった後、コロンビア大学のイタリア語教授となった。

 さらに、大衆音楽芝居として書かれた『魔笛』は、旅役者一座(大衆演劇団)を率い、みずから台本作家、演出者、役者として活躍していたエマニュエル・シカネーダー(1751〜1812)の依頼で、彼自身が書いた台本にモーツァルトが音楽をつけたのだったが、シカネーダーは、後の1801年に、今日まで残るすばらしい劇場アン・デア・ウィーン劇場を造り、支配人として活躍した。

 要するにモーツァルトは、当時大活躍した一流の作家たちと共同作業をしたのである。それは当然のことともいえるが、ギリシア神話に毛の生えた程度の台本が多かった当時としては画期的なことでもあり、のちのオペラ作家たちが、フリードリヒ・フォン・シラー、ヴィクトル・ユーゴー、ウィリアム・シェークスピア、さらに時代が下っても、フーゴ・フォン・ホフマンスタールなどの超一流の作者の作品をオペラ化したことのきっかけをつくったといえる。

 というわけで、大天才モーツァルトの残した傑作オペラを解説する余地がまったくなくなってしまったが、そんなことは、どうでもいい。見れば、いいのだ。聴けば、いいのだ。

 これまでに、モーツァルトのオペラに接したことがないというひとや、オペラには興味はあっても見たことがない、というようなひとには、ピーター・セラーズ(「ピンク・パンサー」の役者とは同姓同名の別人)による現代版演出の『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ(女はみんなこうしたもの)』のDVDを見ることをおすすめする。

 セラーズの演出は、『フィガロ』がマンハッタンのクリスマス、『ドン・ジョヴァンニ』がサウス・ブロンクスの黒人街、『コジ・ファン・トゥッテ』がニュージャージー郊外の保養地を舞台に、現代劇として展開される。が、音楽や台詞に変更はなく、モーツァルトの残した作品のすばらしい(驚異的な)普遍性のおかげで、それらのオペラが、現代人にのわれわれにも、ビビッドな物語として伝わってくる。

 そうして、『フィガロ』が『失楽園』以上のどろどろの不倫劇であり、『ドン・ジョヴァンニ』が女遊びにうつつを抜かすワルのプレイボーイの堕落劇であり、『コシ・ファン・トゥッテ』が「男と女のラヴゲーム」というほかない恋人交換スワッピング劇だとわかって存分に楽しめるようになったらシメタもの!(誰もが、そうなるはずだが)やがてオリジナルの演出による時代劇も楽しめるようになり、何より、モーツァルトの音楽の美しさに酔えるようにもなるはずだ。

 そして、そうなれば、長い人生80年の間、失恋に悩もうが、離婚の危機に見舞われようが、リストラの脅威にさらされようが、モーツァルトのオペラさえ聴けば(見れば)心が和み、生きる力も湧いてくる。さらに、オペラにのめり込めば、憂き世の冷たい風も、笑い飛ばして暮らすことができる。オペラほどオモロイもんは、ほかにない。オペラは、好きにならんと、ほんまに損でっせ。ということで、長い間、ご愛読ありがとうございました。

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山下洋輔さん(ジャズ・ピアニスト)――自由な音の跳躍

佐渡裕『僕が大人になったら』〜解説「デッカイことはいいことだ!」

『現代』書評 新書・選書おたのしみレビュー〜音楽本を読みましょう

紫色の音にして〜追悼・浅川マキ、唄い続けた生涯

玉木正之の『オペラ超入門 徹底解説講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』 第4期 プッチーニがオペラで描いた「女性」と「愛のカタチ」のすべて!〜華麗なるイタリア・オペラを味わい尽くす!

まえがき――貪欲な音楽ファンの呟き

劇団冬季ミュージカル・シアター 8000回突破連続上演中!

胸のわくわくするコンサート――西の端(ハーディング)と東の端(佐渡裕)の邂逅

佐渡裕さんのベルリン・フィル・デビューに拍手!〜世界が愛する世界市民オーケストラ

お見事!佐渡裕のベルリンフィル・デビュー

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第15回 小泉さん、日本のオペラにも注目して! / 第16回 (最終回)ヴェルディのブンチャカチャッチャにハマル

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第13回 「オキュパイド・ジャパン」(占領下の日本)のノーテンキな素直さ / 第14回 エレキギター協奏曲はキワモノ?

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第11回 一流の音楽家は一流の指導者でもある / 第12回 指揮者だけは、昔がよかった…かな?

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第9回 スポーツと音楽――その親密な関係 /第10回 万葉以来「歌」と生きている日本人

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第7回 日本最高のオペラ歌手・三波春夫 /第8回 映画音楽はイタリアンに限る!

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第5回 天才・筒美京平の歌謡曲は消えてゆくから美しい?/第6回 イタリアのド演歌歌手フィリッパ・ジョルダーノ

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第3回 森進一の「雪が降る」/第4回 バーブラ・ストライザンドの「歌曲」

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第1回 ひばりのプッチーニ/第2回 クレオ・レーンのシェーンベルク

スポーツ&音楽〜どちらも最高に面白い!

音楽のパワーを実感〜『第九』でのハーディング氏との幸運な出会い

玉木正之の『続々オペラ超入門講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』第2期 Viva! Verdi! ヴェルディ万歳!〜華麗なるイタリア歌芝居の世界!

特報!! 撮影快調! 完成間近!! 公開迫る!映画『幻の幻燈辻馬車』の『遊び場』

若きバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの演奏は、名演の宝庫。なかでも「ショスタコ五番」は絶品の一枚。

美しすぎるメロディは「何」を表す?

メジャー級のプレイと音楽

イタリア・オペラからイタリア・サッカーを理解する

玉木正之の『続々オペラ超入門講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』第1期「オペラのツボ」

『カルメン』は怖ろしい

ロマン派を金聖響さんの指揮で聴ける喜び

ベートーヴェンと『神』と『人々』は、どんな三角形を形づくるのか?

天才バーンスタインが残した『キャンディード』もう一つの大傑作

映画とは「オペラ」である。

紫色の音にして 追悼・浅川マキ、唄い続けた生涯

『山下洋輔プロデュース IMPROVISING ブーニン! 吉例異種鍵盤技名人戦/先手・鍵聖無有人古典派八段 VS 後手・盤鬼ヨウスケ邪頭派八段/初春 夢幻の対決』

オペラ『忠臣蔵外伝』第1幕第2場、第3場 作曲/三枝成彰 脚本・演出/島田雅彦 美術監督/日比野克彦 再構成/玉木正之

オペラ『忠臣蔵外伝』 作曲/三枝成彰 脚本/島田雅彦 再構成/玉木正之

マリオ・デル・モナコは長嶋茂雄である

ドラマチックに、そして、優しく……――大岩千穂さんの歌心

ダフ屋の矜恃

スポーツは音楽とともに

玉木正之の『クラシック音楽道場入門』 第1期「クラシックはオモシロイ〜その楽しみ方」

BRAVO! 神奈フィル新常任指揮者・金聖響さんの「魔法」に期待する!

『ウェスト・サイド・ストーリー』は最高のオペラ?

日本人なら『椿姫』で泣ける

「オペラ=音楽プラス世界文学」 それは、人生を楽しむ最高のツール!

オペラのテーマは男と女。しかも90パーセントが不倫!

アメリカ音楽が超大国アメリカを支える!?

21世紀のベートーヴェン――その国際性と多様性

ベートーヴェンの『天の時、地の利、人の和』

純文学書き下ろし序曲『のだめのためのだめな虚無舞踏序曲(ダンシング・ヴァニティ・オヴァチュア)』

『指輪物語』よりも面白い『ニーベルンクの指環』

日本人ならオペラ・ファンになる!〜「日独伊オペラ歌舞伎同盟」

オペラといえば『トゥーランドット』!?

真のオペラの誕生と成長

「身体の音楽」――太鼓打ち・林英哲さんに関する断想

トリエステ・オペラの魅力〜イタリア・オペラの神髄

玉木正之の『オペラはやっぱりオモロイでぇ』 第15期「オペラで世界文学全集!」

玉木正之のオペラへの招待 大人の恋の物語『メリーウィドウ』

『ジャンニ・スキッキ』の舞台は京都?

クラシック音楽ファン、オペラ・ファンは、なぜDVDに狂喜しているのか?

「不〜倫火山」大爆発!善男善女の皆さんも、煩悩まみれの皆さんも、みんな一緒に御唱和ください!「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」

クラシック・コンサートは「真に新しい音楽」に触れる場所

オペラとは男と女の化かし合いを楽しむもの

50歳からのホンモノ道楽

『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第14期「オペラ掘り出しモノ!」

山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート ヨースケ&サド緊急“生”記者会見!『いま明かされる!反則肘打ち事件の真相』

「ベートーヴェンの交響曲」その名声と誤解

ベートーヴェンの「圧倒的感動」

ファジル・サイの魅力

スポーツは音楽とともに――フィギュアスケートはオペラとともに

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第3弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第2弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第1弾!

天才少年ヴィトゥスとテオと音楽と……

『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第13期「オペラは、ゼッタイ演出に注目!」

<演歌 de おぺら(エンカ・デ・オペラ)>上演企画書

『指揮者列伝』ミニミニ・ダイジェスト「カラヤン・ゲルギエフ・セラフィン・バーンスタイン」

あけましてフリー漫才

男の子がヴァイオリンを弾くのは恥ずかしいことだった・・・?

『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第12期「オペラは、祭りだ! お祭りだ!」MUSIC FESTIVALS IN THE WORLD

革命的斬新さを失わない音楽――それがクラシック

いつの世も変わらない「親子」と「男女」

日本ポップス史講座アンケート

待ち焦がれた“パリジャン”の本領

「浪漫派ベートーヴェン」を存分に楽しませてくれた演奏に心から拍手

音楽家はいかにして演奏に心をこめるのか?

JAZZとテツガク

ソロ(孤高)を求めてバンド(連帯)を怖れず!

我が「師匠」福島明也の魅力

城之内ミサ『華Uroad to OASIS』「ジャンル」を超えた素晴らしい音楽

懐かしい空間の響き

佐渡&玉木のぶっちゃけトーク

五嶋龍―「神童」の生まれ出る一瞬

ヤッタリーナ!ガンバリーナ!イタリーア!

アメリカのスポーツとアメリカの音楽

フィリッパ・ジョルダーノの魅力〜フィリッパの歌はイタリアの味

「私の好きな音楽」身体で感じる世界

玉木正之の『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第10期「オペレッタを楽しもう!」

リヒャルト・シュトラウスのオペラは宝塚にふさわしい

日本人は「万葉集」以来「歌とともに生きている」

東方の奇蹟の二重唱

永遠の歌声

「原点回帰」の「山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート2006」に贈る新春お笑い寄席 新作古典落語『人生振出双六』

20世紀最高の「歌役者」

クルマとラジオ

世界は演歌に満ちている

バーブラは諸行無常の響きあり

最高の「日本オペラ」

タイムマシンと冷戦時代

ニッポンは明るい!

春の祭典

シャンソンは高級?

イタリアはイタリア

ジャズはサッカー?

世界はひとつ?

大事なのは、質より量?内面より外見?

ビートルズはわかる?

無人島で聴く最後の歌

歌は世に連れない

クレオ・レーンの学歴

ひばりの川流れ

NASAと蓄音機

日本人の遊び心

「革命的音楽」は時代とともに消えてゆく?

究極のノスタルジー

『プロの仕事』

佐渡&玉木のぶっちゃけトーク(最終回)

「映画を所有したい!」と思うのは何故?

討ち入りや ゑひもせすまで ジャズに酔ひ――『ジャズマン忠臣蔵』講釈・前口上

ゲルギエフの引き出す無限の可能性/偉大な芸術とは、オモロイもんである。

冬の夜長にオペラ――その極上の面白さをDVDで味わう

都はるみさんの「世界」との新たな出逢い

天国の大トークバトル『クラシック あとは野となれ ジャズとなれ!』

超虚構音楽史―山下洋輔作曲「ピアノ・コンチェルト」の世紀の一戦

男と女の愛の形――悪いのはどっち?

「世の中に新しきものナシ」あらゆる創作はパクリである?

モーツァルトのオペラのおもしろさ

人を愛し、未来を信じ、時代を超越するパワー

バーンスタイン『キャンディード』の単純明快な世界

いつの世も変わらない「親子」と「男女」

<演歌 de オペラ>上演企画書

カルロス・クライバー〜〜実体験なき体験/〜夢のような体験

歌うピアニスト ―― G&G(グルダとグールド)

グレン・グールド<ガラス=音楽=グールド>

『ブルース・ブラザース』讃

翔べ! 21世紀へ!「エレクトリック・クラシック」の翼に乗って!

サロメ――官能と陶酔の神話の魅力

神野宗吉(ジャンニ・スキッキ)の娘・涼子(ラウレッタ)のアリア『好きやねん、お父ちゃん』(『私のお父さん』)

「子供(jr)」という大発見

NHK-FM『クラシックだい好き』 1〜6回プログラム

島田雅彦のオペラと小説――『バラバラの騎士』と『どんな? あんな?こんな? そんな!』

「オペラ忠臣蔵」のテロリズム

フリンオペラ年表400年史『オペラの歴史はフリンの歴史』

極私的ワーグナー体験の告白『私は如何にしてワーグナーの洗脳を解かれたか?』

ベートーヴェンの「朝ごはん」

サッカーと音楽の合体――それがスポーツ!それがワールドカップ!

オペラ「アイーダ」の本当の魅力

ヨースケのことなら何でもワカル!『ヤマシタ・ヨースケ・ジャズ用語大辞典』遠日発売未定 内容見本

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