「ミサさんの職業は、何? 肩書きは?」
いちど、そんな質問をしたことがある。
するとミサさんは、人なつっこい笑みを浮かべながら、
「さあ、何でしょう。何でもいいですよ」
そんな答えを返した。
わたしは苦笑するほかなかった。
作曲家で、編曲家で、ピアニストで、オーケストラの指揮もして、作詞もして、シンガー・ソング・ライターで・・・だったら、ミュージシャンなのだろうが、クラシックからポップスまでを網羅する呼び名は思い浮かばない。TVドラマにも出演し、舞台に立って演技もし、踊り、歌い、それだけでなく、エッセイまですらすらすらと書く。城之内ミサとは、そういうヒトスジナワではとらえられない才気煥発な女性である。
もっとも、才気煥発というのは、この世の中ではソンをすることも少なくない。
日本の社会では、この道一筋・・・という生き方が好まれる。「△△業界」や「△壇」という集団は「専属」している仲間に評価を与える。しかも、「所属」がはっきりすると、理解されやすい。ところがミサさんは、「所属しない女」なのだ。
そんなミサさんのつくった、先のアルバム『華』が「ヒーリング・ミュージック」というジャンルで、アメリカやヨーロッパのヒットチャートをにぎわした。
「癒しの音楽といわれてもねえ・・・」
ミサさんは、この「分類」にちょっぴり不満そうだった。
私には、その気持ちがよくわかった。ミサさんのつくる音楽は(聴けばわかることだが)ただただ心穏やかに安らぐだけの音楽ではない。
二胡や揚琴、古箏や中国琵琶、それに、シタールやダルシマーといったアジアの民族楽器特長を存分に生かしたメロディやハーモニーが複雑に絡み合うなかで、その複雑さを感じさせない感興――ノスタルジックな雰囲気を醸し出す。
このアルバム『華U』では、先のアルバム以上に、さらに音楽が見事なまでに自然に流れ、思わず、「ウン、これは名曲だ」といいたくなる。が、そんな言葉がつまらないものに思えるくらい心が和む。
ひょっとして、ミサさんは、またソンをしているのかもしれない。「癒しの音楽」という「ジャンル」のなかに閉じこめられて・・・。
しかし、このアルバムを聴いた人は誰もが感じ、理解したに違いない。このアルバムに収められた音楽は、そんな小さな「ジャンル」を飛び越えた素晴らしい「音楽作品」であることを――。 |