コラム「音楽編」
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掲載日2011-07-13
この原稿は、かつて存在した(今は廃刊になった)隔月刊誌『大人ぴあ』の連載コラム「玉木正之のちょっとオモロイモン」の第7回と第8回(2001年1月号&2月号)に書いたものです。最近『ぴあ』も廃刊になったとかで、記念に順次“蔵出し”していく予定です(全部で16回まであります)。

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」
第7回 日本最高のオペラ歌手・三波春夫

 世の中も捨てたものじゃない…と、ふと思えるときがある。
  小生のような人間が、NHK教育テレビの『芸術劇場』なる番組に出演し、「イタリア・オペラは演歌です。いや、ドイツ・リートだって演歌ですよ」などと喋れるときが訪れたのだ!

「都はるみさんにはプッチーニの『私のお父さん』を歌ってほしいし、森進一さんにはシューベルトの『冬の旅』がいい。逆に、パヴァロッティには細川たかしの『北酒場』とか三波春夫の『俵星玄蕃』を歌ってほしいですね」
 そんな話をすることができた。

 10年前では無理だっただろう。いや、5年前でもわからない。
 クラシック音楽評論家の、はっきりいって辛気くさい話ばっかりだった「音楽教養番組」も、ちっとは変化を求めているらしい。世の中は、やっぱり徐々に変わってきてるんですね。

 もちろん我田引水は百も承知。しかし、周囲の評判は悪くなかった。類が友を呼んでいるだけのことかも……しれないが、「フザケテル!」という抗議の電話?も、ディレクター氏によると、3本しかなかったという。

 ところで、三波春夫先生の(この先生という言葉はギャグではなく、正直な気持ちの表れです)長編歌謡浪曲の数々を、「日本の最高のオペラ」と某誌で絶賛したら、三波春夫先生御自身から丁重で墨痕も鮮やかな直筆の長い巻紙(もちろん和紙!)御礼のお手紙と、すべての歌を収めたCDと著作が送られてきた(ありがとうございます!家宝にします!)。

 改めて聴き直してみると、やはり素晴らしい。『大忠臣蔵』も見事(なかでも『堀部安兵衛決闘高田馬場』は絶品!)。歌謡浪曲版『平家物語』も素晴らしい。

 が、なんといっても感動したのが、大ヒットソングとなった歌謡曲の『チャンチキおけさ』。 ♪月がわびしい路地裏の…知らぬどうしが小皿たたいて…という歌詞とメロディは、現代日本人の原風景を活写している。

 さらに『東京五輪音頭』!
  ♪待ちに待ってた世界の祭…姿形は違っていても、いずれ劣らぬ若い花…。これほど見事にオリンピックの本質(理想)を歌い上げた音楽は、ほかにない。

 美空ひばりと並ぶ男性歌手は、三波春夫先生しかいない。いまからでも遅くない。
 ひばりは『トスカ』の「歌に生き、恋に生き」を残した。三波先生が『リゴレット』の「女心の歌」を残してくれないものか…。


第8回 映画音楽はイタリアンに限る!

 昔は山ほど見ていた映画を最近は見なくなった。けっして映画が嫌いになったわけでない。仕事が忙しくて時間をまとめて取れなくなっただけのことだ。

 が、それでもオペラはビデオでもナマでも見ている。ということは、やはり、最近のハリウッド映画のあまりの馬鹿馬鹿しさにうんざりしたというほかない。

 何が『フォレスト・ガンプ』だ。何が『アルマゲドン』だ。何が『タイタニック』だ。あんな映画の、どこが面白いのだ!

 かろうじて『月の輝く夜に』と『恋愛小説家』と『恋に落ちたシェークスピア』は認めよう。しかし、もう新作は見る気がない(と言いながら見てるではないか!)。そんな暇があるなら、古い名画を繰り返しビデオで見たほうがよっぽどマシだ(それは、正直な心境だ)。

 と、決意していたところが、遅ればせながら、DVDで『ライフ・イズ・ビューティフル』(というより『ラ・ヴィタ・エ・ベッラ』とイタリア語で呼びたい)を見てしまった。不覚にも、泣いてしまった。映画を見て泣いたのは、何年ぶり、何十年ぶりのことだろう。素晴らしい映画だった。

 主演・監督のロベルト・ベニーニは最高だ。彼のほかの作品も統べてみようという気になった。が、ベニーニの映像や脚本と並んで見事だったのは、音楽だった。

 ニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネもそうだが、イタリア映画には、ヴェルディ、プッチーニ、マスカーニ、レオンカヴァッロ以来のイタリア・オペラの伝統が生きている。

 わかりやすく愛らしいリズムに思わず頬笑み、豊かに官能的なメロディに思わず胸をふるわす。

 フェリーニの『道』やヴィスコンティの『山猫』の音楽(ニーノ・ロータ作曲)を、リッカルド・ムーティの指揮でミラノ・スカラ座管弦楽団が演奏したCDがあるが、これがなかなかの聴き物で、ヴェリズモ・オペラの間奏曲集を聴くようなドラマ性に富んでいる。

 最近のハリウッド映画も、ジョン・ウイリアムスの音楽だけは、なかなかに面白い。特にズービン・メータの指揮したロス・フィルの『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』は、ホルストの『惑星』以上の絶品だ。が、イタリア映画音楽のカンタービレには負けるのではないか…。

 おおーっと、武満徹の映画音楽の素晴らしさも無視できない。が、それはまた別の機会に。
  映画は、いい映画音楽があって、はじめて名作となるもののようだ。

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