昔は山ほど見ていた映画を最近は見なくなった。けっして映画が嫌いになったわけでない。仕事が忙しくて時間をまとめて取れなくなっただけのことだ。
が、それでもオペラはビデオでもナマでも見ている。ということは、やはり、最近のハリウッド映画のあまりの馬鹿馬鹿しさにうんざりしたというほかない。
何が『フォレスト・ガンプ』だ。何が『アルマゲドン』だ。何が『タイタニック』だ。あんな映画の、どこが面白いのだ!
かろうじて『月の輝く夜に』と『恋愛小説家』と『恋に落ちたシェークスピア』は認めよう。しかし、もう新作は見る気がない(と言いながら見てるではないか!)。そんな暇があるなら、古い名画を繰り返しビデオで見たほうがよっぽどマシだ(それは、正直な心境だ)。
と、決意していたところが、遅ればせながら、DVDで『ライフ・イズ・ビューティフル』(というより『ラ・ヴィタ・エ・ベッラ』とイタリア語で呼びたい)を見てしまった。不覚にも、泣いてしまった。映画を見て泣いたのは、何年ぶり、何十年ぶりのことだろう。素晴らしい映画だった。
主演・監督のロベルト・ベニーニは最高だ。彼のほかの作品も統べてみようという気になった。が、ベニーニの映像や脚本と並んで見事だったのは、音楽だった。
ニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネもそうだが、イタリア映画には、ヴェルディ、プッチーニ、マスカーニ、レオンカヴァッロ以来のイタリア・オペラの伝統が生きている。
わかりやすく愛らしいリズムに思わず頬笑み、豊かに官能的なメロディに思わず胸をふるわす。
フェリーニの『道』やヴィスコンティの『山猫』の音楽(ニーノ・ロータ作曲)を、リッカルド・ムーティの指揮でミラノ・スカラ座管弦楽団が演奏したCDがあるが、これがなかなかの聴き物で、ヴェリズモ・オペラの間奏曲集を聴くようなドラマ性に富んでいる。
最近のハリウッド映画も、ジョン・ウイリアムスの音楽だけは、なかなかに面白い。特にズービン・メータの指揮したロス・フィルの『スター・ウォーズ』や『未知との遭遇』は、ホルストの『惑星』以上の絶品だ。が、イタリア映画音楽のカンタービレには負けるのではないか…。
おおーっと、武満徹の映画音楽の素晴らしさも無視できない。が、それはまた別の機会に。
映画は、いい映画音楽があって、はじめて名作となるもののようだ。 |