コラム「音楽編」
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掲載日2012-08-22
この原稿は、つい最近、某オペラ団体の機関誌からの原稿依頼で書いたものですが、校正も終わった段階で、ワケのわからない理由で(引用箇所を、引用した作家の許可をもらうため手紙を書いても返事が来ない……という理由で)ボツにされてしまいました。そんな許可をもらうためのやりとりがなされてるという連絡は、小生にはまったく知らされてないうえ、そんな許可が必要ならば、ひとこと言ってくれれば、こちらから許可をもらったのに……。そのうえ、ワケのわからない電話と、謝罪文のような紙ペら1枚が送られてきただけで……。クラシック界の権威主義は嫌ですねえ……と思いながら“蔵出し”します。これがホントの蔵出し(まだ他に出してない製品という意味)です。とほほ。

オペラ・オペレッタの日本語訳上演が不可能な本当の理由!?

 1968年公開の映画『クレージーの怪盗ジバコ』(原作は北杜夫の痛快ドタバタ小説)のなかに、クレージー・キャッツの植木等扮する世界的怪盗ジバコが来日し、赤坂のキャバレーでショウを見るシーンがある。

 美しい脚線美を見せて歌い踊るのは木の実ナナ。歌は、なかにし礼作詞、すぎやまこういち作曲、宮川泰編曲の『恋のフーガ』。ただし、この映画での歌詞は英語。

 そこでジバコが首を傾げてこういう。
「歌手も客も日本人なのに、なぜ英語で歌うの?」

 すると同席した美女(浜美枝)が、事も無げに答える。
「カッコイイからでしょ」

 この映画をDVDで見直して、そう言えば最近の日本人ポップ・シンガーは、英語で歌を歌わなくなった、と改めて思った。

 AKBもミスチルもドリカムも安室もEXILEも、歌詞に怪しげな英語を挟み込むことはあっても基本は日本語。劇団四季のミュージカルも、すべて日本語である。

 昔は(60年代までは)『シャボン玉ホリデー』や『夢で逢いましょう』などのTV番組でも、アメリカのポップスやミュージカルが、原語(英語)でよくうたわれた。

『シンギニン・ザ・レイン』も『トゥナイトゥ』も『アイ・クッダヴ・ダンストールナイッ』も『ドレミ』も、ザ・ピーナッツや木の実ナナはもちろん、宝田明、高嶋忠夫、中尾ミエ、伊東ゆかり、弘田三枝子らが、すべて原語(英語)で歌っていた。

 日本のポップスやミュージカルの世界から原語(英語)が消え始めたのがいつ頃だったか、詳しくは知らないが、それは歌謡曲や流行歌と呼ばれていた日本語の歌の歌詞が、メロディと掛け離れても、日本人が何とも思わなくなった頃からのように思える。

「格子戸をくぐり抜け、見上げる夕焼けの空に……」という歌は、「……見上げる、言うや、毛の空に……」としか聞こえない、とエッセイに書いたのは筒井康隆氏だが、メロディ優先の日本語破壊に、いつの間にか聴き手のほうが慣れてしまい、日本語はどんなメロディにもノリノリでのるようになり、AKBや初音ミク(御存知ですよね?)の世界まで「進化」した……といえそうだ。

 ポップスとは異なり、オペラやオペレッタが日本語でうたわれると、やはり違和感を感じるという人が多い。それは翻訳された訳詞が真面目すぎるから、ではないだろうか?

 オペラやオペレッタの歌詞には(当たり前の話だが)「意味」がある。登場人物の感情や意志が表現され、それが舞台のストーリーの展開につながっている。ドイツ語やイタリア語で書かれたその「意味」を、すべて日本語に訳して同じメロディにのせる……などということは、はっきり言って不可能だ。

 翻訳に成功してる日本語の歌詞は「風の中の羽のように、いつも変わる女心……」という『女心の歌』だけ、と言いたい気もするが、それとて、「女心を愛せぬ奴に、幸せなんてあるものか……」と、小生なら訳したくなる部分が欠けている。

 いや、そんなことは、どうでもいい。女誑しのマントヴァ伯爵のだらしない性格と、ちょっとした狂気と、それでも(女性には)憎めない可愛げのあるキャラは、メロディだけでも十分に表現されている。

 だからオペラやオペレッタは原語で「カッコヨク」歌われればそれでいい……という意見にも一理ある。が、そうなるとオペラもオペレッタも、筋書や台詞をあらかじめ知っている人や、それを身につける努力を厭わない人だけのものとなり、ミュージカル以上に面白い(と私が確信する)オペラやオペレッタの人気が、なかなか大きく広がらない。

 そこで……というわけではなかったが、10年くらい前、今は亡き天才狂言師野村万之丞がプッチーニの『ジャンニ・スキッキ』を演出すると決まったとき、彼から日本語訳の依頼を受け、ならば……と意気込み、中世フィレンツェの舞台を室町時代の京都に移し、歌詞もすべて京都弁に置き換えてみた。

 リヌッツィオのアリア『フィレンツェは花香る街』は、鈴一郎(りんいちろう)の歌う『京(みやこ)はほんにええとこどっせえ』と訳し、ラウレッタのアリア『私のお父さん』は、神野宗吉(じんの・そうきち)の娘・お涼(らう)ちゃんが歌う次のような歌詞に作り替えた。

「好っきゃねん、おとうちゃん。うち、ほんに、本気やねん。あの人とめおとに、なりたいのんやねん。もし、あかん、言うんなら、うち、身投げするさかい。三条の橋から鴨川へ。三条の大橋から鴨川へ。好っきゃねん、おとうちゃん。かんにんして、おとうちゃん」

 万之丞とは、「よっしゃ!!これで行こっ!!」と、めっちゃ盛りあがったのだが、我々のヤル気は、お歳を召された劇場支配人によって否定された。理由は……、 「浅草オペラをやらせる気はない!」

 万之丈も小生も、「浅草オペラとオペラのどこが違うねん!?」と言い返したかったが、話の噛み合わない相手では……と思い、残念ながら我々の企画はボツ。

 それから10年を経て、環境はかなり変わってきたようで、二期会によるヨハン・シュトラウス『こうもり』の日本語上演は、かなり好評だったと聞くし、兵庫県芸術文化センターの佐渡裕プロデュースによる『メリー・ウィドウ』や『こうもり』の日本語上演も人気を博した。

 それらは、考えてみれば当然のことで、日本語は「aiueo」の母音が(イタリア語と並んで)美しく、歌に向いている言葉。「みあげる、ゆーやー、けのそらにー…」も「かーぜーのーなっかのおー…」も、母音の響きの美しさで納得させてしまう。

 おそらく詩(訳詞)を書いた人も、言葉の意味以上に、カッコイイーと思いながらメロディに合わせた言葉を綴ったに違いない(「さんーじょーの、おおはしからあー…」も、同じ気持ちで綴りました)。

「なぜ、日本語で歌うの?」と訊かれて、「日本人だから日本語で……」などと答えるのではなく、「カッコイイからでしょ」と言う時代になれば、オペレッタは(オペラも?)もっともっと人気が出るに違いない。

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この原稿を入稿し、校正では、先方のオペラ団体の担当者から、「近々われわれも日本語のオペラ上演をしますので、それに対する期待を入れてほしい」言われたので、最後の部分をそのように書き直しましたが、それでも、引用部分の作家から返事が来ない、という理由でボツです。筒井さんなら、小生が直接連絡したのに、なんでやねん?!

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