幕が上がる前から、いや、公演の何ヶ月も前から、期待と興奮でソワソワしてしまう。『キャンディード』は、そんな音楽劇だ。
作曲はレナード・バーンスタイン。彼の『ウェスト・サイド・ストーリー』が大成功する1年前の1956年、同じくブロードウェイで初演された『キャンディード』は、わずか数週間で公演が打ち切られた。
それはフランス革命直前に書かれたヴォルテールの原作が、あまりにも「過激」すぎたためかもしれない。
ドイツの片田舎で平和に暮らしていた私生児キャンディードは、城主の娘との恋に破れてヨーロッパを放浪。戦乱や地震や宗教裁判に遭遇し、再会した恋人は娼婦に堕落。そのパトロンを殺し、殺人者となった彼は南米奥地まで逃亡し、黄金郷にたどり着き、大金持ちになってヨーロッパに戻り、ヴェニスで再び恋人と……と、物語は二転三転、四転五転。。
こんな波瀾万丈ドタバタ滑稽物語を「ピカレスク・ロマン」(悪漢小説=主人公が様々な社会や事件に遭遇した経験を述べる風刺・ユーモア小説)というが、その破天荒極まりない展開を、バーンスタインは素晴らしく楽しく面白い、数々のダイナミックな音楽で彩った。
が、その美事なサウンドも、半世紀以上昔のミュージカル・ファンの耳には少々斬新に響きすぎたのだろう、そのことも、わずか2週間で公演打ち切りの一因となったかもしれない。
しかし、バーンスタインの愛弟子の指揮者・佐渡裕は、その圧倒的なサウンドの魅力に惚れ込み、過去に一度だけ宮本亜門氏の演出で上演。さらに何度もコンサート形式での演奏会を催し、多くの「キャンディード・ファン」を生み出してきた(彼が司会を務めるTV番組『題名のない音楽会』のテーマ音楽が『キャンディード』の序曲です)。
しかも今回の上演は、現在世界のオペラ界最高の鬼才といわれるロバート・カーセンの演出。舞台一面を落ち葉やお金(お札!)や土で覆い尽くす、アッと驚く舞台作りをするカーセンが、今回はどんな舞台を見せるのか。一説では世界主要国の政治家が全員出演!? テレビ画面が大活躍!?というから、いまから興奮が押さえられないのも当然だろう。
バーンスタイン―佐渡裕―R・カーセン……この3人の才人が2010年最高の音楽劇を見せてくれることだけは間違いない!
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尚、公演告知のホームページは、http://candide.jp/です。
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