コラム「音楽編」
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掲載日2009-12-09
この原稿は、来年2月オーチャードホールで上演される『忠臣蔵外伝』の台本です。当初は、小生自身が演出するつもりで、舞台装置や歌手の動きや舞台配置をかなり詳しく書き入れましたが、様々な事情から小生は演出を退き、最初に台本を書いた島田雅彦氏に演出してもらうことになりました。さて、舞台装置の日比野克彦さんとともに、この短縮版台本から、どんな舞台ができあがるのか、まったく想像できませんが、ここに第1幕第1場までを“蔵出し”したいと思います。どうか一人でも多くの方が、見に来られることを!

オペラ『忠臣蔵外伝』
作曲/三枝成彰 脚本/島田雅彦
再構成/玉木正之

<基本構成>
 序曲に「あの男たちの話をしてくれ、語り部よ」とある言葉を受け、「現代の語り部たち」が「元禄の事件」を語り、演じる。
 「元禄の事件」とは、「政治」で動いた(動かされた)「男たち」と、彼らの「愚」を見つめた「女たち」の物語である。

<出演者> 男性独唱4名、女性独唱3名、女性合唱5名、
 語り部・男A(テノール=橋本平左衛門)
 語り部・男B(テノール=岡野金右衛門)
 語り部・男C(バリトン=大石内蔵助、神崎与五郎/一人二役)
 語り部・男D(テノール=幇間)
 語り部・女a(ソプラノ=綾衣)
 語り部・女b(ソプラノ=お艶)
 語り部・女c、d、e、f、g、(女性合唱5名=芸者衆・女c=メゾ・ソプラノが女郎屋女主人を兼ねる)
 ほかに、キイボードで三味線の音を弾き鳴らす男(幇間)一人。

<舞台装置>
 各場の各種“カーテン状の幕”デザインは、基本的に日比野氏のアイデアにまかせる。 各場面設定(遊郭、長屋、その他)は無視して、“カーテン状の幕”は、場面が変化したことを知らせるだけで、デザイン優先とする。

 春(1幕1場)夏(1幕2, 3場)秋(2幕1場)冬(2幕2, 3 , 4, 5場)を照明の変化で表現。

 舞台上の前から約3.5メートル奧まったところに、少々高い舞台(ほぼ正方形の通称“八百屋”)を設置。
 物語は、前方と上下手の「舞台1」と後方中央の「舞台2」で進行する。
 「舞台2」は、前方で約1メートル弱の高さ、舞台後方へ向かって上り坂の傾斜(最も後方では約1.5メートルの高さ)になっている(高さについては変更可)。  「舞台1」と「舞台2」を行き来する場合は、前方の左右に設ける階段(奧へ向かって4段程度)を使用する(それとは別に、舞台2の奧に、客席からは見えない階段を設ける)。
 「舞台1」上手に椅子(あるいはBOX)。

<衣裳>
 基本的に、初演時と同様の衣裳(現代的衣裳では、どう考えても音楽・台詞とマッチしない)。
 ただし、男性も女性もカツラは用いない。男A(橋本)のヘアスタイルは平均的ビジネスマン。男B(岡野)は若いビジネスマン。男C(大石・神崎)も、中年ビジネスマン。
 男AとBの違いを、衣裳(の色等)で判然とさせる。
 ただし一力茶屋の場では、紫の助六鉢巻使用。男D(幇間)は茶髪で立っている。
 女a(綾衣)はロングヘア。女b(お艶)はショートヘア。芸者衆はロングヘア。

<小道具>
 男たちの日本刀、脇差しのほかは、橋本が綾衣に手渡した(と思われる)和財布、一力茶屋の遊女が持つ桜の枝、以外、一切、使用しない。

<構成>
 序曲
 第1幕
  第1場--京の遊郭。春。(従来の第2幕第1場)
  第2場--江戸下町の長屋。(従来の第2幕第2場)
  第3場--江戸の遊郭の中。綾衣の部屋。(従来の第2幕第3場)

第2幕
  第1場--江戸下町の長屋。(従来の第2幕第4場)
  第2場--綾衣の部屋。(従来の第3幕第2場。橋本のアリア「あの世でおまえを夢に見る」まで)
  第3場--両国橋。(従来の第3幕第1場)
  第4場--綾衣の部屋(背景で、吉良邸討入りの声)。
  (従来の第3幕第2場。前奏の和音の繰り返しを用いたのち、綾衣のアリア「この世で見る夢はもうたくさん」以降〜チェロ独奏のあと、岡野とお艶の「愛のテーマ」で幕)

<演奏時間>
  序 曲--7分29秒
  第1幕--56分07秒
  第2幕--約55分
  合 計--約2時間(註:CDのタイムテーブルをもとに計算)
序曲

(録音を使用)

 客入れが始まった時点で、舞台前方、全面のスクリーンに徳川の家紋(三ツ葉葵)が大きく映し出されている(以下、序曲時の舞台映像は、下記の基本コンセプトに則して日比野氏が製作)。

 序曲が流れ始めると、徳川の家紋の左右に浅野家の家紋(丸に違い鷹の羽)と吉良家の家紋(五三桐)が小さく出現。徐々に大きくなる。

 次いで大石家の家紋(二つ巴)が顕れ、四十七士の家紋も次々と出現し、序曲に合わせて乱舞する。

   あの男たちの話をしてくれ、語り部よ
   いくたびも死に、いくたびも生き返る
   あの侍たちを弔うために。
   始まりも終わりもない黄泉の国から
   かすかに聞こえてくるだろう。
   この世のざわめきを貫いて

   いにしえのもののふどもの 怒りの叫びが聞こえてくるだろう

   あの男たちの あの男たちの話をしてくれ、語り部よ
   いくたびも死に、いくたびも生き返る
   あの侍たちを弔うために。
   始まりも終わりもない黄泉の国から
   かすかに聞こえてくるだろう。
   この世のざわめきを貫いて

                          嘆きの歌が
   いにしえのもののふどもの      怒りの叫びが 聞こえてくるだろう
                          勝どきの声が

   あの男たちの話をしてくれ、あの男たちの話をしてくれ、語り部よ
   あの侍たちを弔うために。
   始まりも終わりもない黄泉の国から
   かすかに聞こえてくるだろう。

   この世のざわめきを貫いて
   いにしえのもののふどもの
   嘆きの歌が、怒りの叫びが、勝どきの声が
   聞こえてくるだろう

   あの男たちの話をしてくれ、語り部よ

最後に、小さく顕れた上杉家の家紋(竹に二羽飛雀)が大きくなり、しかし、徳川家の家紋がさらに大きく浮かびあがるなかで、序曲が終わる。

<玉木版 第一幕 第一場>

ID

京の遊郭。春。

   登場人物:男C(大石)、男D(幇間)、もう一人の幇間(キイボード奏者)、女a(綾衣)、5人の芸者衆、男B(岡野)、男A(橋本)。

   芸者衆 花に遊ばば祇園あたりの色揃え、東方南方北方西方、弥陀の浄土へ、
ひっかりひかひか、光かがやく色揃え、わいわいのわいとな。
(「仮名手本忠臣蔵」七段目一力茶屋の場の幕開き より)

前方スクリーンの徳川の家紋が徐々に薄れ、消え去る。

綾衣と芸者衆は「舞台2」に板付き。
オーケストラの前奏音楽が始まると、二人の幇間(男Dとキイボード奏者)と大石登場。「舞台1」下手の階段から「舞台2」へ上る。
大石はかなり酩酊状態で、男D(幇間)に背中を押され、別の部屋(と思しき場所)から登場。
幇間たちはキイボードの三味線に合わせてふざけた踊りを踊る。
大石も加わる。

芸者衆と幇間の戯れ歌
[芸者衆]
極楽とんぼを追いかけて
祇園のはずれでつかまえた。
以来、女浸りの酒浸り。
[幇間]
体が鈍(なま)っちゃいけないと、
一日三度の風呂通い、
すっかりふやけた五郎兵衛は
鮎食って鱧食って高いびき。<

芸者の戯れ歌に合せて幇間が内蔵助の仕草を真似た奇妙な踊りを披露する。

内蔵助 そのなまけものはどこのどいつじゃ?
綾衣 浮さまそっくり。
  内蔵助が女のように笑うと、芸者衆も笑い、幇間も内蔵助そっくりの笑いを返す。
内蔵助 面白い。もっとやっておくれ。
幇間 かしこましまして候。その前に犬公方(くぼう)に肴をひとつ。
  幇間は内蔵助の手から肴をくわえる振りをし、犬の真似をして、賭け回り、一同を笑わせる。再び、内蔵助は戯れ歌に合せて踊り出す。

芸者衆と幇間の戯れ歌
 花を愛するさむらいは
 太く短く生きるべし
 花から花へと飛び回り
 恋の糖蜜舐めつくし
 股の刀を抜きまくり、
 気づいてみればすっからかん。
 あげくの果ては無縁仏(むえんぼとけ)
内蔵助 さて、どの密が甘いかな

岡野と橋本が登場。

座敷の前庭に(「舞台1」の下手と上手)に男A(橋本)と男B(岡野) が現れ、宴の様子をじっと見つめる。内蔵助は芸者衆を追い回しながら、二人の存在を察知する。が、気づかぬふりをして浮かれ続ける。

内蔵助は急に吐き気を催し、廊下から庭にのり出し嘔吐する。

岡野 これがわれらの大石内蔵助殿か。心中お察し申し上げます。

岡野が退場し、橋本が、下手階段より「舞台1」から「舞台2」へ駆け上がる。

内蔵助 おや、この花は危ないぞ。極楽とんぼを食い殺す花だ。(綾衣の膝を枕に横になり)やっぱりおまえの密が一番甘い。(綾衣の着物の袖で顔を隠す)

一同笑い。

一同沈黙。

橋本 何というていたらくだ、大石殿!(夕霧の着物の袖を払いのけ)ああ情けない。
内蔵助 座が白けてしまったではないか。それに私は大石ではない。池田久右衛門だ。
綾衣 (芸者衆を引き揚げさせ)浮さまはお疲れのご様子。さ、寝間の方へ。
(内蔵助をうながし、舞台奧の寝室へ)
橋本 花魁(おいらん)、はずしてくれ。
内蔵助 綾衣は私のために子守歌を歌ってくれる。(橋本に)そなたと二人きりにはなりとうない。
(橋本に背を向ける)
橋本 亡君(なききみ)の墓参りに江戸に上った折の約束を反故にする気ですか?
内蔵助 江戸には江戸の風が吹く。
橋本 あなたの魂胆が読めません。山科に家を建て、母方の姓「池田」を名乗ったと思えば、奥方と難縁に及ぶ。そのあげくが遊蕩三昧とは。
内蔵助 私の金だ。男盛りの四十四(しじゅうし)。妾(めかけ)や鹿恋(かこい)がいて一人前だ。
橋本 娘の年頃の女にも骨抜きともっぱらの噂です。
内蔵助 (芸者衆のなかの一人(「かる」と思しき女)を振り返って)可留(かる)のことか。あの娘(こ)のお陰で私も若返った。この世は女が天下をとったも同然だ。
なあ、綾衣。
橋本 あなたに私の命を預けたのは間違いだった。あなたは浪士の志気が下がるのを待って楽隠居を決め込む腹だったのだ。
殿が切腹なされたお刀を形見にもらっておきながら、どういう心変わりか?
あのお刀を出してください。
私はこの場で追い腹を切ります。
内蔵助 私の寝床を血で汚すな。
橋本 裏切り者!(刀を抜こうとする)
綾衣 ここは女の殿中です。抜く刀が違います。
内蔵助 慎しめ、平左衛門、慎しめ。壁にあり、障子に目あり。

橋本はハッとして、刀を鞘に収める。

内蔵助 そなたの苛立ちはよくわかる。しかし、仇討ちに失敗は許されぬ。
未だ備え十分とはいえぬ。
御家再興にも一縷の望みがある。
焦るな。いずれその時が来る。
平左衛門、女断ちをしていると聞いたが。
橋本 女・・・
内蔵助 そなたはまだ若い。この世に生きていた証しを女に刻みつけるのも悪くはあるまい。(綾衣にたいして、橋本を誘うよう目と顎で合図する)
綾衣 (橋本にすり寄るようにしながら)花を愛する 花を愛する侍は太く短く生きるべし
内蔵助 (小声で)ただし、あまり深入りするな。
綾衣 (橋本を打ち掛けで覆うように抱きつきながら)花から花へ 花から花へと飛び回り
内蔵助 遊びながら醒めていろ。
綾衣 女遊びも世のため人のため。
花から花へ 花から花へと飛び回り
女遊びも世のため人のため。
世のため人のため。
花から花へと飛び回り
女遊びも世のため人のため。

橋本は綾衣に抱かれ、誘われるようにして舞台奧へ消える。

内蔵助 そういうことだ。

舞台裏から芸者衆と幇間の合唱。

[夕霧]
花から
飛び回り
恋の糖蜜
恋の糖蜜
[芸者衆・幇間]
花から花へと飛び回り
恋の糖蜜舐め尽し
股の刀を抜きまくり
気づいてみればすっからかん。
あげくの果ては無縁仏。
内蔵助 (ため息)

暗転

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<演歌 de オペラ>上演企画書

カルロス・クライバー〜〜実体験なき体験/〜夢のような体験

歌うピアニスト ―― G&G(グルダとグールド)

グレン・グールド<ガラス=音楽=グールド>

『ブルース・ブラザース』讃

翔べ! 21世紀へ!「エレクトリック・クラシック」の翼に乗って!

サロメ――官能と陶酔の神話の魅力

神野宗吉(ジャンニ・スキッキ)の娘・涼子(ラウレッタ)のアリア『好きやねん、お父ちゃん』(『私のお父さん』)

「子供(jr)」という大発見

NHK-FM『クラシックだい好き』 1〜6回プログラム

島田雅彦のオペラと小説――『バラバラの騎士』と『どんな? あんな?こんな? そんな!』

「オペラ忠臣蔵」のテロリズム

フリンオペラ年表400年史『オペラの歴史はフリンの歴史』

極私的ワーグナー体験の告白『私は如何にしてワーグナーの洗脳を解かれたか?』

ベートーヴェンの「朝ごはん」

サッカーと音楽の合体――それがスポーツ!それがワールドカップ!

オペラ「アイーダ」の本当の魅力

ヨースケのことなら何でもワカル!『ヤマシタ・ヨースケ・ジャズ用語大辞典』遠日発売未定 内容見本

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