「スポーツライターで音楽評論家。ずいぶんと畑違いのことをしていらっしゃいますね。いったいなぜ?」と、以前はよく不思議がられた。
しかしわたしにすれば、そう思う人の方が不思議だ。スポーツも音楽も表現活動という点では同種のものではないだろうか。アスリートがフィールドで見せる美技も、音楽家がステージで紡ぎ出す躍動的な旋律も、人間という存在の精神と肉体による表現なのだ。だから美しい。興味が尽きない。
実は、わたしは佐渡裕さんの弟子、つまりはレナード・バーンスタインの孫弟子を自称している。佐渡さんとは、PMFで彼が札幌交響楽団によるバーンスタインの『キャンディード』をエネルギッシュに指揮する姿に感動してからの付き合いで、今年5月のベルリン・フィルのデビューにも駆けつけた。
その佐渡さんから指揮棒を一本譲り受け、レッスンを受けたこともある。
そのとき彼が、ひたすらわたしに向かって言ったことは、重心を低くして、腰を安定させて……。それは、まるでスポーツのトレーニングかと思った。
わたしがクラシック音楽のファンになったのは小学四年生のころ。音楽大学でピアノを学びながら数学の教師をしているという、チョット風変わりな叔父の影響だった。
しかし当時は、ガキ仲間にクラシック音楽を聴いていることがバレたりすると、
「おまえは女か」
と、蔑まれることが確実。
仕方なく、こっそりベートーヴェンやドヴォルザークを、まるで隠れキリシタンのような気持ちになって聴いていた。
そんな時に出会ったのが大ヒットしていた『ウエストサイド物語』の作曲者バーンスタイン。その彼がニューヨーク・フィルの常任指揮者だと知り、以来、「おれはクラシックが好きやねん」と胸を張って言えるようになった。なにしろ、めっちゃめちゃ恰好イイミュージカルの音楽を創り、風貌もめっちゃめちゃ恰好イイ男の中の男と言えるような人物が、クラシック音楽の指揮者をしているのだから。
以来、わたしはバーンスタインの熱烈ファンとなった。だから、彼の遺産ともいえるPMFを大切に守り育てている北海道の方々には感謝したい。北海道の人々が、世界トップレベルの音楽家の演奏や指導に身近に触れられることも、うらやましくも思う。
さらには、キタラという素晴らしいホールの存在。オープンして間もないころに初めて訪れた時は正直、「きれいすぎる」という印象をもった。しかし、本質的によい空間というものは年月とともにまろやかになり、さらによい雰囲気を醸し出していくものだ。
北海道の夏は美しい。今年は、久しぶりのPMF、そしてキタラと、是非とも再会してみたい気がする。 |