オペラは大人の娯楽である。ガキどもに理解できるものではない。といっても、オペラが難解な芸術というわけではない。
ほとんどすべてのオペラ作品は、ガキどもには理解できない男女の恋愛感情をテーマにしている。純愛もあれば不倫もある。薄倖な悲恋もあれば禁断の邪恋もある。
それどころか、三角関係、四角関係、盲愛、熱愛、スワッピングに近親相姦、女狂い、男狂い、岡惚れ、よろめき、乱交、淫行、嫉妬、憎悪、略奪愛、加虐愛、被虐愛、自己愛、屍体愛、露出症にフェティシズム・・・。
オペラには、ありとあらゆる愛の形が登場し、どろどろの愛憎劇が展開される。
だから、ガキどもには理解不能。恋を知っている経験豊かな大人だけが理解できる音楽劇。それが、オペラなのだ。
音楽が鳴り響くだけに、ドラマの展開も理解しやすい。悲しいときには悲しい音楽。怒り心頭に発するときには激しい音楽。男女が結ばれるときはエロチックな音楽。許されぬ愛ならば不安な音楽。だから、音楽に身をまかせれば、愛憎渦巻くドラマの世界に酔うことができる。
ただ、問題が、ひとつある。
それは、時間。何しろ、短いもので2時間前後、長いものとなると3時間〜4時間という時間が必要。仕事に追われる日常では、ゆっくり楽しむ時間がない。しかし、正月休みにはそれも可能。
というわけで、冬休みに楽しむ三つのDVDオペラを選んでみた。
ワーグナーの『ニーベルンクの指環』は、通して演奏すれば14時間前後もかかり、ふつうは4部作を4日に分けて上演される。DVDで楽しむ場合も少々体力を要する。が、話の中味は面白さ満点。ラインの河底に眠っていた黄金で作られた指環――それを手にすれば世界を支配できるという指環をめぐり、天上に住む神々と、地上の英雄や巨人族と、地底の妖怪(小人族)が、血みどろの争奪戦を繰り広げ、最後はすべてがライン川の氾濫に呑み込まれ、「無」の世界に戻る。早い話が、映画『スター・ウォーズ』の北欧神話版オペラ作品と思えばいい。
次ぎに、ヴェルディの『リゴレット』。
愛する一人娘がプレイボーイの公爵を愛してしまった父親の悲劇。権力(貴族社会)の道化として生きている悲しきタイコモチの父親が、権力争いに巻き込まれ、権力者(貴族)に復讐をしようとした結果、逆に愛娘を失ってしまう。
イタリア・オペラならではの美しいメロディが次々と鳴り響き、古代ローマ時代の遺跡ヴェローナ野外劇場での公演を記録したDVDを見ると、悲劇にもかかわらずワイン片手に「ブラ〜ヴォ!」と叫びたくなるはず。
最後に、不世出の名歌手マリア・カラスの伝説的コンサートの歴史的記録(ハンブルク・コンサート)。
その歌声の見事さはいうまでもないが、妖艶なカルメン、純情なロジーナ(『セヴィリャの理髪師』)、野心に燃えるマクベス夫人・・・と、千変万化する顔の表情を見ているだけでも、背筋がゾクゾクするほどの迫力があり、何度繰り返し見ても聴いても、見飽きることも聴き飽きることもない。
嗚呼、世の中に、オペラ(と歌舞伎)ほど面白いものは、ほかにない!
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