『最新・世界地図の読み方』(高野孟・著/講談社現代新書)という本を読みながら、ふと、都はるみさんの歌を思い浮かべた。
この本は、世界地図を縦にしたり横にしたり斜めにしたりして眺めてみると、いつもとは「違った世界」が見える――ということを実践的に面白く解説した本なのだが、なかでも、世界地図を横に向け、西を上(ヨーロッパを上)、東を下(日本をいちばん下)にして眺めてみる、という見方が面白かった。
そうすれば、日本列島が『ユーラシア大陸という巨大なパチンコ台の受け皿のような位置にあることがわかる』というのだ。
イギリスやフランスやイタリアから落下しはじめたパチンコ球は、アラブ諸国やインド、あるいはロシアやモンゴルや中国を経由して東南アジアや朝鮮半島にたどりつき、最後に日本列島という「受け皿」に流れ込む。
もちろん、じっさいに流れ込んだのはパチンコ球ではない。それは「文化」である。シルクロードや海を通って、世界中のあらゆる文化が日本列島に流れ込んだ。音楽という文化も――。
古代のヘブライ音楽やイスラム教のコーランの詠唱、さらにジャワ島のガムランやモンゴルのホーミーと呼ばれる音楽が、どのように日本の民謡や義太夫、浪曲や演歌に影響をおよぼしたか、ということについて、ここで詳述する余地はない。が、そんなことは、都はるみさんの歌を聴けば、わかることだ。
はるみさんのうたう歌には、東南アジアのエスニックな香りの漂うものや、広大な大陸の空気を感じさせるものがある。さらに、ルンバやマンボ、スイング・ジャズ調のものもある。そして、はるみさんのうたうコブシやウナリは、彼女自身のオリジナリティにあふれた技術であるにもかかわらず、はるかに遠い異郷――まだ見ぬ故郷を感じさせるようなノスタルジックな深い響きがある。
そうなのだ。都はるみさんの小さな身体のなかには、すべての音楽の「世界」が詰まっているのだ。だから、わたしたちは、心の奥の深いところで魂を揺さぶられるのだ。
そんな都はるみさんが、今宵はフル・オーケストラと共演するという。ヨーロッパで独自に発展した音楽文化の粋である管弦楽団に、西洋キリスト教文化とともに発展した楽器であるパイプ・オルガンまで加わり、東洋の歌姫のコブシとウナリのバックを務めるという。
都はるみさんの「世界」が、新たな出逢いをする。ユーラシア大陸の両端が手を結んだ音楽とは、いったい、どんな響きがするのだろう?
わたしは、開演のベルを聞く前から、昂ぶる興奮を抑えきれないでいる。 |