掲載日2003-12-15 |
この原稿は、何年か前に某PR誌のために書いたものですが、「宣伝臭が強すぎる」「われわれのお客様には少々下品」などという理由からボツになったものです。ここにフッカツ!(笑) |
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ベートーヴェンの「朝ごはん」 |
ベートーヴェン作曲『交響曲第五番 朝ごはん』という楽曲を御存知でしょうか?
もちろんベートーヴェンは、そんな題名の音楽を作曲していません。これは、上海太郎という人物がベートーヴェンの交響曲に歌詞をつけたものです。
『第五番』は、日本では『運命』という副題で知られ、あの有名な♪ジャジャジャジャ〜ンというメロディが繰り返される交響曲です。その一楽章のメロディにのせて、次のような歌詞が歌われます。
♪朝ごは〜ん 朝ごは〜ん
みんなで食べよう朝ごは〜ん
おいしく食べよう朝ごは〜ん
サービス定食 サービス定食
朝は、ロッ・ピャク・エ〜ン(六百円)
この歌詞が、コーラスで、原曲どおりのオーケストラのパートに分かれて歌われるのです。これだけでも、もう抱腹絶倒モノですが、この歌詞は、夫婦と娘の三人家族が「朝のサービス定食」をレストランに食べに来た、というストーリーになっていて、さらに会話が続きます。
三人は、サービス定食に「♪混ぜごは〜ん」と「♪白ごは〜ん」のあることを知り、「♪ああ、どちらにしようか、どっちだ、どっちだ」と悩んだ末に、「♪お味噌汁はついてくるのですか、お漬け物はついてくるのですか」「♪おかず、な〜んで〜すか〜?」と訊きます。するとレストランの店員が、「♪きゅうりの酢の物 絹ごし冷や奴 ごまめの佃煮 大根の味噌汁 だし巻きふたきれ こいもの煮っころがし とどめは鮭か鱒の焼き魚」と答えます。
この「朝からゴージャスなおかず」に喜び、このおかずには「白ごはん」が合う、と決めたところが「♪まったけごは〜ん」もあると聞き、さらに迷ってるうちに
♪昼ごは〜ん 昼ごは〜ん
朝の定食の時間は
これで終わりとなりました
一旦閉店 ランチタイムは正午からです
で、オシマイ。
こんな歌詞が、ベートーヴェンの『運命交響曲』の第一楽章そのままの楽譜にのせて歌われるのです。このCDを初めて聞いたときは(「BravissimoT」というタイトルで、インターネットの上海太郎のホームページhttp://www.shang-bu.com/jp/news01.htmlで発売されています。註・いまでは、ユニバーサルからも発売されています)、その発想の柔軟さ(という以上に、ぶっ飛んだ発想)に椅子から転げ落ちるほど驚き、涙が止まらなくなるほど笑い続けました。
上海太郎という人物は、関西を中心に活躍している舞踏家兼役者で、「上海太郎舞踏公司」という集団を率いて舞台活動をしています。この『交響曲 朝ごはん』も、ベートーヴェンの『運命』のオーケストラの各パートの演奏を舞踏に変えてダンスで表現しようと思ったところが、指揮者の上海太郎が「楽譜を憶えられず、歌にしたら憶えられる」と思いついて作った歌詞だそうです。
ところが、歌詞だけでも面白いといわれ、CDを製作し、2002年の秋には舞台でミュージカルのように上演もされました。
このCDには、ほかにも、歌詞をつけたクラシック音楽が何曲かおさめられていて、どれも大爆笑モノのケッサク揃いです。
『愛と麻雀のボレロ』は、ラヴェルの名曲『ボレロ』のメロディにのせて、♪マージャンやりたい、やりたいなあ〜・・・と歌いながら、マージャンの面子が一人、二人、三人と増え、最後に四人になってマージャンを楽しむ、というもの。麻雀の牌と点棒で、バックのボレロのリズムが刻まれる、という凝りようです。
『高い声のタコ焼き屋のおばはん』は、モーツァルトのオペラ『魔笛』の夜の女王のアリア「復讐の心は地獄のように燃え」のメロディで、「♪不景気でやっとられまへんねん」「♪客がけえへん 商売にならへん」と嘆く「たこ焼き屋のおばはん」が、「♪この道一筋タコ焼きやいて三〇年」と歌います(上海太郎舞踏公司の室町瞳という女優さんが高いハイCの音まで出してがんばってます)。
ほかにも、モーツァルトの『アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク』を使った『不思議の国のヒトミ』(学校に遅刻して不思議の国に迷い込む少女の物語)、『ディベルティメント』を使った『雪子』(お見合いをした男が相手の女性の秘められた過去に気づいて仰天する物語)、さらにベートーヴェンの『第九交響曲』の「フロイデ!(友よ!)」が「風呂屋で!」と変えられた合唱などなど、この冗談のセンスの高さと鋭さとズッコケぶりには、大拍手を贈るほかありません。
もっとも、クラシック音楽を好きな方のなかには、こういうフザケタ冗談に眉をひそめる人がいるのも事実。ですが、クラシックであれポップスであれ、基本的に「音」を「楽しむ」のが「音楽」。クラシックは「音学」だと思ってる人には、「♪朝ごは〜ん」の面白さはわからない。いや、心の底では笑っても、クラシック音楽を笑っちゃいけないと思ってるのでしょうね。
往年の大指揮者だったミトロプーロスという人物は、「Every music has sportive elements」(あらゆる音楽には戯れの要素がある)といっています。この場合の「スポーツ的な」(sportive)という言葉は「戯れ」とか「冗談」という意味です。さあ、「クラシック音楽」を「スポーツ」として楽しみましょう! |
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