コラム「音楽編」
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掲載日2017-06-28
この原稿は小学館発行の雑誌(今もあるのかな?)『サウンドパル』1997年11月号の『連載・玉木正之のビデオで見るオペラの時間』の第7回目として書いたモノです。のちに東京新聞社のサンシャインシティ文化センター『東京カルチャー倶楽部』での講座『オペラは、ほんまにオモロイでぇ〜』(1999年4月〜2000年3月)の講義録と合わせて『オペラ道場入門』(小学館2000年5月刊)として単行本にしました。そのときは、本の帯に佐渡裕(指揮者)島田雅彦(作家)野村万之丞(狂言師・故人)岡田武史(コンサドーレ札幌監督=当時)山下洋輔(ジャズ・ピアニスト)の各氏が推薦人として名前を連ねてくださり、出版と同時に、料理評論家でオペラ・ファンの山本益博さんや、音楽評論家の故・宇野功芳氏や故・永竹由幸氏などが絶賛してくださった本でした(このなかで、既に3人も故人になられたのですねえ…合掌)。ところが、単行本も今では絶版になってしまったことでもあり(amazon.comでは、まだ購入可能のようですが)、第7弾を“蔵出し”します。ご愛読をよろしく!

「ビデオで見る玉木正之のオペラの時間」第7回《イタ・オペが好きになったら、次はドイツ・オペラに挑戦だ! ワーグナーの『指環』は初心者向き。スター・ウォーズ以上の奇想天外無比壮大のハリウッドSFオペラである》

 プロ野球評論家の江本孟紀氏と話をしたとき−−というより、参議院議員の江本氏と話をしたとき、彼は、次のような企画を語り出した。
「いちど参議院の議会場で、オペラを上演したいんですよ。国連総会の会場でも音楽の演奏会をやってるんだから、国会でもやればいいと思うんです。そうすれば、いまの政治家たちも、国民にちょっとは見直してもらえるんじゃないかと…」

 ここで少々お断わりしておくが(本誌をお読みの読者なら、以前、江本氏と小生の対談が掲載されたので御存知のことと思うが)、江本氏はオペラやミュージカルの大ファンであり、二期会のバリトン歌手の重鎮である中山悌一氏に発声のレッスンを2年間受け、『カタリカタリ』や『帰れソレント』などのナポリ民謡をイタリア語で歌われるほか、何年か前に『題名のない音楽会』に出演し、ワーグナーの歌劇『タンホイザー』のアリア『夕星の歌』を原語(ドイツ語)で歌ったほどの人物である。

 ついでに書いておくと、オペラ・ファンのなかには「意外な人」が少なくない。 フジテレビのプロ野球ニュースで、大リーグのレポートをされている伊藤一雄さん(通称パンチョ伊藤さん、プロ野球のドラフト会議でいつも司会をしていたパ・リーグ職員)は、大ヴァイオリニストのヤッシャ・ハイフェッツの来日公演(昭和29年)をご覧になったほどのクラシック・ファンで、『レコード芸術』誌に、ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドノフ』についての文章を書かれたこともある。

 またV9巨人時代の名捕手で、西武ライオンズの監督として黄金時代を築いた森祇晶氏は、“SPレコード”の竹針時代以来の音楽ファンで(わかります?)、三大テナーやオペラの来日公演などでは、よく姿を見かけるほか、毎年ニューヨークのブロードウェイとロンドンのミュージカルには必ず出かけ、『タイタニック』や『ジキル博士とハイド氏』などの新しい舞台も既にチェック済み、というほどのミュージカル・ファンでもある。

 それに、北島三郎さんの弟子で『木曾路の女』をヒットさせた演歌歌手の原田悠里さんは、鹿児島大学教育学部音楽科で声楽を学び、卒業公演ではモーツァルトの『魔笛』の夜の女王を歌った元オペラ歌手で、マリア・カラスと美空ひばりの大ファンとして、最近『ひばりとカラス』という本を上梓された。

 また、歌手の都はるみさんや俳優の緒方直人さんはパヴァロッティの大ファンだし、女優の賀来千香子さんはホセ・カレーラスの大ファンだし、弁護士の伊藤芳明さんはカルロス・クライバーの指揮したリヒャルト・シュトラウスの歌劇『ばらの騎士』に心酔しているし、TBSアナウンサーの宮澤祐介さんは、マリオ・デル・モナコの大ファンだし、プロレスラーの藤波辰巳さんは指揮者の佐渡裕と仲が良くて、レナード・バーンスタインの大ファンだし……。

 要するにオペラ・ファンは少数派ではないのである−−ということをいいたかったのだが、話を冒頭の話題に戻そう。

 参議院の議会場でオペラを……と主張する江本氏は、議長席がとりはずせて舞台として使用できることや、大臣席がオーケストラ・ピットになること、そして議員席と傍聴席が客席になることまで調べたのだが、何を上演するかと演目を考えたときに、ハタと困ってしまった。「日本のオペラというのはポピュラーじゃないし、かといってワーグナーやヴェルディの作品のなかから一つを選ぶというわけにもいかない。日本の国会でやるんやから、日本の作品も含めた名作のガラ・コンサートしか、やりようはないんだろうけど、そうなるとイタリア・オペラとドイツ・オペラと日本の作品で、日独伊になってしまう。その組み合わせを日本の国会でやるのは、ちょっとまずいよなあ……(苦笑)」

 と、まあ、その場は笑い話で終わったのだが、この話の中味はかなり奥が深い。
 実際の上演(ガラ・コンサート)を考えるなら、日独伊以外に米英仏露といった連合軍側諸国のオペラ作品も取り上げることは可能だ。が、オペラといえばイタリアとドイツが本場で、仏露はオペラよりもバレエ、英米はミュージカルが主流。そして日本には、和製オペラというべき歌舞伎があり、やはりオペラは“日独伊”が主流になってしまうのである。

 その証拠に……というわけでもないが、次のような文章もある。
<第二次世界大戦は、オペラと歌舞伎を持つ国民国家と持たざる国民国家の戦いであった。オペラを持たない鬼畜米英は、ヴァーグナーを軍旗とするドイツ第三帝国とヴェルディ軍旗を掲げるイタリア共和国、並びに東洋に於てオペラと同様の文化産業である歌舞伎を持ち、大東亜共栄圏をめざす大日本帝国に対し、これ以上大きな文化的格差をつけられることは国民的屈辱であり、全世界における彼らの利益を損なうと判断した。かくてオペラを持たぬオランダ、オペラを半分しか持たぬフランス、ソ連等とかたらって、日独伊の三国同盟に対し、戦争を起こさせ、それを叩こうと言う陰謀を抱いたのである……>(永竹由幸・著『オペラと歌舞伎』丸善ライブラリーより)

 断っておくが、この文章は、ギャハハハハと笑うべき怪文であり、著者の永竹氏も、<と書いていくと少々扇情的であり、少し皮肉がきついかもしれないが>と文章を続けておられる。

 しかし、江本氏の到達したオチと同様、この扇情的で皮肉あふれる文章も、内容的には相当に奥が深いのである。

 オペラを持たない国や、半分しか持たない国は、植民地経営や自国の領土拡大に力をそそいだ。が、<オペラを創りあげて徹底的にオペラ大国となったイタリアおよびドイツ・オーストリアはほとんど植民地を持つことができなかった。又、十七世紀以降鎖国をして歌舞伎を育てた江戸文化も、目の前にある北方の島々にすら国土を拡大するという考えを抱かなかった。(略)この三国の歴史的共通性は、1600年のオペラと歌舞伎の誕生から現代に至るまで、一種の運命共同体のような目に見えぬ歴史的“糸”で結ばれていたような気がしてならない。つまりオペラと歌舞伎は日独伊三国の国民的エネルギーの集約地であり、それは植民地に向けて国民的エネルギーを放出していった国民と大きなギャップを生んだのだ。(略)オペラと歌舞伎、それは普通の芸術ではない。人間が考えうる限りの美の道楽の極地なのであり、国民的エネルギーの巨大な消費地なのである。一民族のエネルギーが“美の享楽”に注がれた時に生まれたもの、それがオペラと歌舞伎>なのである−−と、少々引用が長くなったが、永竹氏は続けている。

 その詳しい中味は、快著『オペラと歌舞伎』を読んでもらうことにして……。
 この連載を読み、プッチーニ、ヴェルディと親しみ、イタリア・オペラを愛するようになり、オペレッタやミュージカルといったちょっとした横道に遊ぶことも覚えた読者の皆さんは、当然のことながら、とうとうドイツ・オペラの深遠な森の中へと足を踏み入れることになる−−。

 といっても、何も難しいことはない。たしかに「ドイ・オペ」は「イタ・オペ」よりも理屈っぽい。が、オペラに変わりはない。そして、オペラと(歌舞伎)は<道楽芸能であり、遊びであり、完全に娯楽番組なのだ。オペラも歌舞伎も、ものを飲み食いしながら役者見物をするという大衆の非常に俗っぽい道楽が磨きに磨かれて美の極致に至っているのであり、それは目と耳の最高の贅沢なのである。だからギリシャ悲劇や能を観て、人生を考える人はあっても、オペラや歌舞伎を見物して人生を考え込む人は少ない>と、永竹氏も書いている(前掲書より)。

 ドイ・オペの音楽は、イタ・オペに較べて、たしかに少々堅苦しく、端正で、構造的で、早い話がキマジメである。それだけに、テノールやソプラノが、♪アアアアアア〜と声を張りあげても、「ヤッター!」と思ったり、「ブラーヴォ!」と叫びたくなるような解放感はない。が、それだけにドイ・オペは、しみじみと胸に染み入るともいえる。

 その代表的な作品には、ベートーヴェンの『フィデリオ』、ウェーバーの『魔弾の射手』、ワーグナーの『さまよえるオランダ人』『タンホイザー』『ローエングリン』『ニーベルンクの指環』『ニュルンベルクの名歌手』『トリスタンとイゾルデ』『パルジファル』、リヒャルト・シュトラウスの『サロメ』『エレクトラ』『ばらの騎士』『アラベラ』『影のない女』『カプリッチョ』……などがある。

 ザルツブルクに生まれたモーツァルトも、『後宮からの逃走』『魔笛』などのドイツ語のオペラを残しているが、『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『コジ・ファン・トゥッテ』といったイタリア語のオペラもある彼の作品を、「ドイツもの」としてくくるにはあまりに存在が大きいので、「モーツァルト」という特別なジャンルでとりあげるほうが適切に思える。

 また『オルフェオとエウリディーチェ』などの作品でオペラの大改革を行ったグルック(1714〜87)は、オーストリアの作曲家ではあるが、当時、オペラといえばイタリアのもの(イタリア語で歌われるもの)という常識があったため、彼の作品は、ドイ・オペ成立のきっかけを作ったとはいえても、イタ・オペのジャンルに分類できる。

 そして、今世紀の新ウィーン楽派のシェーンベルクが『期待』というモノドラマ(登場人物が一人のオペラ)を残し、ベルクが『ヴォツェック』『ルル』というすばらしいドイツ語のオペラを残しているが、それらは、ツィンマーマンの『軍人たち』やワイルの『三文オペラ』などとともに、「ドイツ・オペラ」と言うよりは、現代音楽を用いた「現代オペラ」と呼ぶほうが適切だろう。

 こうして見ると、純然たる「ドイツ・オペラ」と呼びうる代表作が、以外と少ないことに気づく。

 ロッシーニ、ドニゼッティ、ベッリーニ、ヴェルディ、プッチーニ、レオンカヴァッロ、マスカーニ、チレーア、ジョルダーノ、カタラーニ……とオペラ作家をあげることのできる「イタ・オペ」に較べて、前記「ドイ・オペ」の代表作としてとりあげた作家は、わずか4人。メルヘン・オペラ『ヘンゼルとグレーテル』を残したフンパーディンクや、オペレッタ作家のヨハン・シュトラウス、レハール、などを加えないと、イタ・オペに(量的に)対抗できない。

 バッハやブラームスがオペラを書き、シューベルトが、彼の書いた歌曲ほど有名になるオペラを残していれば、ドイ・オペも、もっと豊かなものになったのだろう。シューベルトは、生涯オペラを8作品残したが、少し価値を認められているのは『アルフォンゾとエストレッラ』くらいなもので、筆者もよく知らない。従って、今日さかんに上演されるドイツ語のオペラの作品は、意外と少ないのである。

 これは、ひとつには、ヒットラーの率いるドイツ第三帝国のまったくナンセンスな文化政策の結果といえる。

 じつは、ワーグナーがすばらしい作品を残したあと、ドイツには、その影響を受けた(あるいは反発した)作曲家たちが大勢出現し、ドイ・オペ界は黄金時代を迎えた。イタ・オペ界が、ワーグナーと同い年のヴェルディという大天才を生んだあと、先に書いたようにプッチーニをはじめとするオペラ作家を大量に輩出したように、ドイ・オペ界にも、リヒャルト・シュトラウスや新ウィーン楽派の作曲家だけでなく、才能あるオペラ作家が数多く出現し、すばらしい作品を数多く残したのだ。

 シュレーカー(1878〜1934/『烙印を押された人々』)、ブラウンフェルス(1882〜1954/『鳥たち』)、シュールホフ(1894〜1942/『炎』)、コルンゴルト(1897〜1957/『死の都市』『ヘリアーネの奇蹟』)、ウルマン(1898〜1944/『アトランティスの皇帝』)、クシェネク(1900〜91/『ジョニーは演奏する』)、ゴルトシュミット(1903〜1996/『堂々たるコキュ』)……。

 ところが彼らは、ユダヤ人であるというだけの理由から、作品が「頽廃している」としてナチス・ドイツの弾圧を受け、作品が上演されなくなったり、亡命を余儀なくされるなどしたのだ。

 そして、ワーグナーの音楽をこよなく愛したヒットラーの独裁下では(ノンポリの無意識から)ナチス政権に協力したリヒャルト・シュトラウスのオペラだけが生き延びたといっていい状態になったのである(ほかにナチス党員のプフィッツナー=1859〜1949/『パレストリーナ』が代表作も評価されたが)。

 ヒットラーのドイツ第三帝国が、領土拡張に走った結果、オペラがなおざりにされた……というわけだろうか。それともワーグナー一人いれば、オペラ作曲家は十分と考えたヒトラーにドイツ国民が賛成したというワケか……。

 それに対してイタリアは、オペラをないがしろにしなかったため三国同盟のなかで一番早く連合国に降伏した−−といえるのか? それはともかく、最近、前記のシュレーカーをはじめとするユダヤの作曲家たちの「消え去ったオペラ」が、「頽廃音楽シリーズ」としてCD化され、発売されたが、これがなかなかおもしろい。現代音楽的な要素もあるが、新ウィーン楽派の音楽のように、無調音楽に走ったりせず、美しいメロディ、心に染み入るドイ・オペならではの魅力にあふれている。将来的には、それらの作品の上演される機会が増え、ドイ・オペのレパートリーも、イタ・オペ並みに増えるかもしれない。

 が、いまのところは、ドイ・オペの世界に浸るには、ベートーヴェン、ウェーバー、ワーグナー、リヒャルト・シュトラウスの作品で満足するほかない。

 もっとも、いま、文章の行き掛かり上、「満足するほかない」などと書いたが、それは正しい表現ではない。ワーグナーだけでも、あるいは、リヒャルト・シュトラウス一人だけでも、一生飽きずに聴き続け、人生を豊かに満足に感じるほど素晴らしい作品が、山ほどあるのは事実なのだ。

 そこでドイ・オペ入門として、まずオススメしたいのは、ワーグナーなら『ニーベルンクの指環』、R・シュトラウスなら『ばらの騎士』である。

 もしも、オペラ初心者であるあなたが、若い男性か女性なら、あるいは壮年の男性なら『指環』がいいだろう。が、もしも、あなたが、20歳代後半より上で成熟期を迎えつつある女性か、成熟した女性であるなら、あるいは40歳代後半以降の人生のゴールを意識し始めた男性なら、『ばらの騎士』から入るのがいいと思う。

 そうすれば、壮年の男性は『ニーベルンクの指環』の気宇壮大な物語に酔いしれることだろうし、成熟を意識し始めた女性や成熟した女性は『ばらの騎士』の侯爵夫人の悲しみあふれる儚さに涙するに違いない。そうして、誰もが、イタ・オペとはひと味もふた味も違う、胸に染み入るドイ・オペの魅力に引き込まれることだろう。

 ということで、オペラ入門を語るときは、どうしても聴き手または見物人の年齢、性別、人生経験…等によって、事情が異なってくる。だから、「オペラ入門者は、まずはドニゼッティの『愛の妙薬』といった易しいオペラから……」などと安易に書いてある入門書や評論家の言葉は、まず信じないほうがいい。何度も書いていることだが、そもそもオペラに、易しいも、難しいもないのである。

 そこでドイ・オペ入門の最後に、本来なら『指環』と『ばら』の両方の魅力を書かねばならないのだが、そんなことは不可能なので、今回は『指環』を紹介し、『ばら』は次回にまわすことにする。

 ひょっとして、少しばかりドイ・オペやワーグナーをカジッテおられる方のなかには、「オペラ初心者が『指環』から入るのはヘビーだよ」と思っている人がいるかもしれない。

 たしかに『指環』は、合計上演時間が十四時間前後もかかる超大作である(実際の上演には四夜を要し、歌手のコンディションを整えるために中一日の休みを取るため合計一週間の時間が必要となる)。これは、CDを聴くだけでも大変な作業だ。が、入門者には、面白さが最優先するはずだ。

 ワーグナーには、合唱が大迫力の『さまよえるオランダ人』や、勇壮なメロディの大行進曲がある『タンホイザー』、超有名な結婚行進曲をはじめ旋律の美しい『ローエングリン』など、通常「ワーグナー入門」とされる作品がいくつかある。が、主人公の英雄が清純な乙女の自己犠牲(自死)によって救済される…という、それらの作品に通底するテーマが、はっきりいっていかにも古い(『オランダ人』だけは、すべての出来事が精神病の女性が見た夢で、自己犠牲も彼女の錯乱からの自殺に過ぎないとする、きわめて現代的なハリー・クプファーの演出によるLDが発売されており、これは現代のオペラ入門者には必見といえる)。

『指環』も、英雄ジークフリートの妻となったブリュンヒルデという女性の「自己犠牲」で幕を閉じる。が、そこにいたるまでに、ライン河に潜む黄金から作られた1個の指環−−それを持つものが世界を征服するという指環−−をめぐり、天上の神々と地上の英雄たち(人間)と地下の小人族(ニーベルンク族)が相争う物語は、壮大無比。ジョージ・ルーカスの映画『スター・ウォーズ』以上の迫力と面白さに満ち、ハリウッド超娯楽大作『タイタニック』など足下にも及ばない超豪華絢爛絵巻といえる。

 主要な登場人物だけでも三十人を超す物語は、数々の陰謀と戦いのなかで、愛と憎しみ、献身と裏切り、野望と挫折…といった人間の心のドラマを描きながら、最後の最後にライン河が大氾濫を起こし、すべての出来事が「無」に帰して終わる。

 それは、未来の核戦争の世界を先取りするようなテーマであり、じっさいクプファーの演出したバイロイト祝祭劇場のLDでは、この作品が現代核戦争の暗喩としてとらえ直されている。またニコラス・レーンホフの演出したバイエル歌劇場のLDでは、物語が巨大な宇宙船のなかで進行するという『スター・ウォーズ』もどきのSFチックな解釈がされている。

 そんな「新解釈演出」の端緒となったのがパトリス・シェロー演出のバイロイト祝祭劇場のLDで、これは産業革命直後の世界が舞台となり、機械化する人間界のなかでの神々の死−−を通して、近代社会/現代社会のあり方を問い直すというコンセプトが貫かれている(これは、入門者にはうってつけのハイライト版のLDも発売されている)。おまけに、様々な解釈が可能な作品であるだけに、まったくオーソドックスな(古めかしい)オットー・シェンクの演出を見ても、自分なりの自由な解釈を楽しむことができる。

 いやはや、冒頭で少々横道にそれすぎたこともあって、超大作楽劇『ニーベルンクの指環』の魅力の紹介が中途半端になってしまった。そこで、次回も『指環』を少しばかりとりあげ、それから『ばらの騎士』の魅力に迫ることにしたい。

 などといっても、本当は、あらゆる解説など無視して、『指環』の音楽と舞台、『指環』の世界にどっぷり浸かっていただければ、それでいいんですけどね……。

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劇団冬季ミュージカル・シアター 8000回突破連続上演中!

胸のわくわくするコンサート――西の端(ハーディング)と東の端(佐渡裕)の邂逅

佐渡裕さんのベルリン・フィル・デビューに拍手!〜世界が愛する世界市民オーケストラ

お見事!佐渡裕のベルリンフィル・デビュー

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第15回 小泉さん、日本のオペラにも注目して! / 第16回 (最終回)ヴェルディのブンチャカチャッチャにハマル

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第13回 「オキュパイド・ジャパン」(占領下の日本)のノーテンキな素直さ / 第14回 エレキギター協奏曲はキワモノ?

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第11回 一流の音楽家は一流の指導者でもある / 第12回 指揮者だけは、昔がよかった…かな?

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第9回 スポーツと音楽――その親密な関係 /第10回 万葉以来「歌」と生きている日本人

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第7回 日本最高のオペラ歌手・三波春夫 /第8回 映画音楽はイタリアンに限る!

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第5回 天才・筒美京平の歌謡曲は消えてゆくから美しい?/第6回 イタリアのド演歌歌手フィリッパ・ジョルダーノ

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第3回 森進一の「雪が降る」/第4回 バーブラ・ストライザンドの「歌曲」

『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第1回 ひばりのプッチーニ/第2回 クレオ・レーンのシェーンベルク

スポーツ&音楽〜どちらも最高に面白い!

音楽のパワーを実感〜『第九』でのハーディング氏との幸運な出会い

玉木正之の『続々オペラ超入門講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』第2期 Viva! Verdi! ヴェルディ万歳!〜華麗なるイタリア歌芝居の世界!

特報!! 撮影快調! 完成間近!! 公開迫る!映画『幻の幻燈辻馬車』の『遊び場』

若きバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの演奏は、名演の宝庫。なかでも「ショスタコ五番」は絶品の一枚。

美しすぎるメロディは「何」を表す?

メジャー級のプレイと音楽

イタリア・オペラからイタリア・サッカーを理解する

玉木正之の『続々オペラ超入門講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』第1期「オペラのツボ」

『カルメン』は怖ろしい

ロマン派を金聖響さんの指揮で聴ける喜び

ベートーヴェンと『神』と『人々』は、どんな三角形を形づくるのか?

天才バーンスタインが残した『キャンディード』もう一つの大傑作

映画とは「オペラ」である。

紫色の音にして 追悼・浅川マキ、唄い続けた生涯

『山下洋輔プロデュース IMPROVISING ブーニン! 吉例異種鍵盤技名人戦/先手・鍵聖無有人古典派八段 VS 後手・盤鬼ヨウスケ邪頭派八段/初春 夢幻の対決』

オペラ『忠臣蔵外伝』第1幕第2場、第3場 作曲/三枝成彰 脚本・演出/島田雅彦 美術監督/日比野克彦 再構成/玉木正之

オペラ『忠臣蔵外伝』 作曲/三枝成彰 脚本/島田雅彦 再構成/玉木正之

マリオ・デル・モナコは長嶋茂雄である

ドラマチックに、そして、優しく……――大岩千穂さんの歌心

ダフ屋の矜恃

スポーツは音楽とともに

玉木正之の『クラシック音楽道場入門』 第1期「クラシックはオモシロイ〜その楽しみ方」

BRAVO! 神奈フィル新常任指揮者・金聖響さんの「魔法」に期待する!

『ウェスト・サイド・ストーリー』は最高のオペラ?

日本人なら『椿姫』で泣ける

「オペラ=音楽プラス世界文学」 それは、人生を楽しむ最高のツール!

オペラのテーマは男と女。しかも90パーセントが不倫!

アメリカ音楽が超大国アメリカを支える!?

21世紀のベートーヴェン――その国際性と多様性

ベートーヴェンの『天の時、地の利、人の和』

純文学書き下ろし序曲『のだめのためのだめな虚無舞踏序曲(ダンシング・ヴァニティ・オヴァチュア)』

『指輪物語』よりも面白い『ニーベルンクの指環』

日本人ならオペラ・ファンになる!〜「日独伊オペラ歌舞伎同盟」

オペラといえば『トゥーランドット』!?

真のオペラの誕生と成長

「身体の音楽」――太鼓打ち・林英哲さんに関する断想

トリエステ・オペラの魅力〜イタリア・オペラの神髄

玉木正之の『オペラはやっぱりオモロイでぇ』 第15期「オペラで世界文学全集!」

玉木正之のオペラへの招待 大人の恋の物語『メリーウィドウ』

『ジャンニ・スキッキ』の舞台は京都?

クラシック音楽ファン、オペラ・ファンは、なぜDVDに狂喜しているのか?

「不〜倫火山」大爆発!善男善女の皆さんも、煩悩まみれの皆さんも、みんな一緒に御唱和ください!「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」

クラシック・コンサートは「真に新しい音楽」に触れる場所

オペラとは男と女の化かし合いを楽しむもの

50歳からのホンモノ道楽

『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第14期「オペラ掘り出しモノ!」

山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート ヨースケ&サド緊急“生”記者会見!『いま明かされる!反則肘打ち事件の真相』

「ベートーヴェンの交響曲」その名声と誤解

ベートーヴェンの「圧倒的感動」

ファジル・サイの魅力

スポーツは音楽とともに――フィギュアスケートはオペラとともに

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第3弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第2弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第1弾!

天才少年ヴィトゥスとテオと音楽と……

『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第13期「オペラは、ゼッタイ演出に注目!」

<演歌 de おぺら(エンカ・デ・オペラ)>上演企画書

『指揮者列伝』ミニミニ・ダイジェスト「カラヤン・ゲルギエフ・セラフィン・バーンスタイン」

あけましてフリー漫才

男の子がヴァイオリンを弾くのは恥ずかしいことだった・・・?

『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第12期「オペラは、祭りだ! お祭りだ!」MUSIC FESTIVALS IN THE WORLD

革命的斬新さを失わない音楽――それがクラシック

いつの世も変わらない「親子」と「男女」

日本ポップス史講座アンケート

待ち焦がれた“パリジャン”の本領

「浪漫派ベートーヴェン」を存分に楽しませてくれた演奏に心から拍手

音楽家はいかにして演奏に心をこめるのか?

JAZZとテツガク

ソロ(孤高)を求めてバンド(連帯)を怖れず!

我が「師匠」福島明也の魅力

城之内ミサ『華Uroad to OASIS』「ジャンル」を超えた素晴らしい音楽

懐かしい空間の響き

佐渡&玉木のぶっちゃけトーク

五嶋龍―「神童」の生まれ出る一瞬

ヤッタリーナ!ガンバリーナ!イタリーア!

アメリカのスポーツとアメリカの音楽

フィリッパ・ジョルダーノの魅力〜フィリッパの歌はイタリアの味

「私の好きな音楽」身体で感じる世界

玉木正之の『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第10期「オペレッタを楽しもう!」

リヒャルト・シュトラウスのオペラは宝塚にふさわしい

日本人は「万葉集」以来「歌とともに生きている」

東方の奇蹟の二重唱

永遠の歌声

「原点回帰」の「山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート2006」に贈る新春お笑い寄席 新作古典落語『人生振出双六』

20世紀最高の「歌役者」

クルマとラジオ

世界は演歌に満ちている

バーブラは諸行無常の響きあり

最高の「日本オペラ」

タイムマシンと冷戦時代

ニッポンは明るい!

春の祭典

シャンソンは高級?

イタリアはイタリア

ジャズはサッカー?

世界はひとつ?

大事なのは、質より量?内面より外見?

ビートルズはわかる?

無人島で聴く最後の歌

歌は世に連れない

クレオ・レーンの学歴

ひばりの川流れ

NASAと蓄音機

日本人の遊び心

「革命的音楽」は時代とともに消えてゆく?

究極のノスタルジー

『プロの仕事』

佐渡&玉木のぶっちゃけトーク(最終回)

「映画を所有したい!」と思うのは何故?

討ち入りや ゑひもせすまで ジャズに酔ひ――『ジャズマン忠臣蔵』講釈・前口上

ゲルギエフの引き出す無限の可能性/偉大な芸術とは、オモロイもんである。

冬の夜長にオペラ――その極上の面白さをDVDで味わう

都はるみさんの「世界」との新たな出逢い

天国の大トークバトル『クラシック あとは野となれ ジャズとなれ!』

超虚構音楽史―山下洋輔作曲「ピアノ・コンチェルト」の世紀の一戦

男と女の愛の形――悪いのはどっち?

「世の中に新しきものナシ」あらゆる創作はパクリである?

モーツァルトのオペラのおもしろさ

人を愛し、未来を信じ、時代を超越するパワー

バーンスタイン『キャンディード』の単純明快な世界

いつの世も変わらない「親子」と「男女」

<演歌 de オペラ>上演企画書

カルロス・クライバー〜〜実体験なき体験/〜夢のような体験

歌うピアニスト ―― G&G(グルダとグールド)

グレン・グールド<ガラス=音楽=グールド>

『ブルース・ブラザース』讃

翔べ! 21世紀へ!「エレクトリック・クラシック」の翼に乗って!

サロメ――官能と陶酔の神話の魅力

神野宗吉(ジャンニ・スキッキ)の娘・涼子(ラウレッタ)のアリア『好きやねん、お父ちゃん』(『私のお父さん』)

「子供(jr)」という大発見

NHK-FM『クラシックだい好き』 1〜6回プログラム

島田雅彦のオペラと小説――『バラバラの騎士』と『どんな? あんな?こんな? そんな!』

「オペラ忠臣蔵」のテロリズム

フリンオペラ年表400年史『オペラの歴史はフリンの歴史』

極私的ワーグナー体験の告白『私は如何にしてワーグナーの洗脳を解かれたか?』

ベートーヴェンの「朝ごはん」

サッカーと音楽の合体――それがスポーツ!それがワールドカップ!

オペラ「アイーダ」の本当の魅力

ヨースケのことなら何でもワカル!『ヤマシタ・ヨースケ・ジャズ用語大辞典』遠日発売未定 内容見本

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