イタリア・オペラ最高の巨匠ジュゼッペ・ヴェルディは生涯30本近いオペラ作品を残しましたが、そのなかで唯一“市井の女性”を主人公にしたのが『椿姫』。 他はすべて男性(もしくは王女)が主人公で、政治に苦悩する男中心のドラマを描きました。しかし『椿姫』の主人公は「高級娼婦」。テーマは女性の愛のカタチ。 原作は、ドゥマ・フィス(小ドゥマ)の『椿姫』で、彼の愛した女性(アルフォンシーヌ・プレシ=マリ・デゥプレシ)がモデルとされていますが、ヴェルディのオペラ『ラ・トラヴィアータ=道に迷った女)の主人公(ヴィオレッタ・ヴァレリー)のモデルは、一人目の妻を亡くしたあと、ヴェルディを支えた歌手のジュゼッピーナと言われています。 異色オペラでヴェルディが描いた女性像を、名舞台を観ながら解説します。
3幕のメロ・ドラマ オペラ『椿姫』(原題:La Traviata 道を踏みはずした女』 ◎音楽:ジュゼッペ・フォルロゥニオ・フランチェスコ・ヴェルディ (1810・10・10レ・ロンコーレ=ブッセート郊外〜1901・1・27ミラノ) ◎台本:フランチェスコ・マーリオ・ピアーヴェ (1810・5/18ムラーノ〜1876・3・5ミラノ)
ヴェルディの理解者として『エルナーニ』『二人のフォスカリ』『マクベス』『海賊』『リゴレット』『椿姫』『シモン・ボッカネグラ』『運命の力』の台本を手がける。 ヴェネツィアのフェニーチェ座の舞台監督も務めた。 ◎原作:アレクサンドル・デュマ・フィス(小デュマ) (1824・7・28パリ〜1895・11・27パリ) 『三銃士』『モンテ・クリスト伯』等の作者であるデュマ・ペール(1802ー1870)の息子。 『ラ・トラヴィアータ』の原作『椿姫 La Dame aux Camelias』を書く。 (小説:1848年発表/戯曲:1852年初演) ◎オペラ初演:1853年3月6日ヴェネツィア・フェニーチェ座
<ヴェルディのオペラ『椿姫』を理解するためのキイワード> 1)「女性」(ヴィオレッタ・ヴァレリー)を主人公に据えたドラマ。 (女性が主人公のヴェルディのオペラは、他に『アイーダ』しかない) 2)「主人公は、半社交界(ドゥミモンド)に生きる高級娼婦(クルティザンヌ)」で「一般 的な女性心理」を中心に据えたドラマ(アイーダはエチオピア王女) 3)ヴェルディの大テーマ〜「政治」という枠組みは存在する。 (ジョルジョ・ジェルモン=常識的社会人が政治的に動き、ヴィオレッタを苦しめる)
<オペラ『椿姫』に関する推薦図書> 永竹由幸『椿姫とは誰か オペラでたどる高級娼婦の文化史』丸善ブックス
★ジュゼッペ・フォルトゥニーノ・フランチェスコ・ヴェルディ (1813年10月10日パルマ公国ロンコレ村〜1901年1月27日ミラノ) 「椿姫」関連年表 歌劇作品一覧・初演年・初演場所(カッコ内の年は作曲期間) <前期> (1835 ドニゼッティ『ランメルモールのルチア』初演) (1835 ベッリーニ『清教徒』初演後、34歳で死去) (1836 マルゲリータと結婚) 『ロチェステル』 (1836作曲?・散逸) (1837 長女ヴィルジニア生まれる) (1838 長男イチリオが生まれる。長女ヴィルジニア病死)) (1939 長男イチリオ病死) 『サン・ボニファーチョの伯爵オベルト』1839ミラノ・スカラ座 『1日だけの王様(偽のスタニスラオ)』 1840ミラノ・スカラ座 (1840 妻のマルゲリータ病死) <初期> (妻の死後、ソプラノ歌手ジョゼッピーナ・ストレッポーニに励まされ、愛が芽生える) 『ノブコドノゾル(ナブッコ)』 1842ミラノ・スカラ座 『十字軍のロンバルディア人』 1842ミラノ・スカラ座 『エルナーニ』 1844ヴェネツィア・フェニーチェ座 『二人のフォスカリ』 1844ローマ・アンジェンティナ劇場 『ジョアンナ・ダルコ』 1845ミラノ・スカラ座 『アルツィラ』 1845ナポリ・サンカルロ劇場 『アッティラ』 1846ヴェネツィア・フェニーチェ座 『マクベス』 1847フィレンツェ・ベンゴラ座 『群盗』 1847ロンドン・ロイヤルクイーン劇場 『イェルサレム(十字軍のロンバルディア人)』 1847パリ・オペラ座 『海賊』 1848トリエステ・グランデ劇場 (ドニゼッティ死去) 『レニャーノの戦い』 1849ローマ・ルジェンティナ劇場 『ルイザ・ミラー』 1849ナポリ・サンカルロ劇場 『スティッフェリオ』 1850トリエステ・グランデ劇場 (この頃ジョゼッピーナがヴェルディの故郷で白眼視される=椿姫の発想につながる?) <中期> 『リゴレット』 1851ヴェネツィア・フェニーチェ座 『トロヴァトーレ』 1853ローマ・アッポロ劇場 『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』 1853ヴェネツィア・フェニーチェ座 『シチリア島の夕べの祈り』 1855パリ・オペラ座 (ジュゼッピーナと田舎で農作業を楽しむ) 『シモン・ボッカネグラ』 1857ヴェネツィア・フェニーチェ座 『アロルド(スティッフェリオ改作)』 1857リミニ・ヌオーヴォ劇場 『仮面舞踏会』 1859ローマ・アッポロ劇場 (『もうオペラは書かない』とサンタアガタの農場に篭もりジュゼッピーナと結婚) <後期> (1861イタリア統一なり、ヴェルディ、下院議会の国会議員に推薦され就任) 『運命の力』 1862ペテルブルク帝室劇場 『マクベス(フランス語版)』 1865パリ・オペラ座 『ドン・カルロス(フランス語版)』 1867パリ・オペラ座 (1868ロッシーニ死去) 『アイーダ』 1871カイロ <晩期> (『レクイエム』 1874 ミラノ・サンマルコ教会) (納税額の多さから上院議会の国会議員となるが、議会には一度も出ず) 『シモン・ボッカネグラ(改訂版)』 1881ミラノ・スカラ座 (1883 ワーグナー死去) 『ドン・カルロ(改訂イタリア語版)』 1884ミラノ・スカラ座 (指揮者マリアーニの愛人ソプラノ歌手のテレサ・シュトルツと不倫?) 『オテッロ』 1887ミラノ・スカラ座 『ファルスタッフ』 1893ミラノ・スカラ座 (1894 スカラ座の舞台を踏んだ音楽家の養老院・カーザ・ディ・リポーゾ・ペル・ムジチスティ(音楽家のための憩いの家)建設) 1984 ジュゼッピーナ死去 1901 ヴェルディ死去(シュトルツに見守られて) (葬儀で『ナブッコ』の合唱「行け我が思いよ、金色の翼に乗って」をトスカニーニが指揮)
<小生の推薦する『椿姫』のDVD> ◎主役のナタリー・デセイを中心にしたエクサン・プロヴァンス音楽祭の見事な音楽と舞台 指揮=ルイ・ラングレ 合唱指揮=ミック・ウレオハ ロンドン交響楽団 エストニア・フィルハーモニック室内合唱団 演出=ジャン-フランソワ・シヴァディエ 装置=アレクサンダー・デュ・ダルデル 衣裳=ヴィルジニー・ジェルヴェイス 照明=フィリップ・ベルトーメ ヴィオレッタ・ヴァレリー(ソプラノ)=ナタリー・デセイ アルフレード・ジェルモン(テノール)=チャールズ・カストロノーヴァ ジョルジョ・ジェルモン(バリトン) =ルドヴィック・テズィエ フローラ・ベルヴォア(メゾソプラノ)=シルヴィア・デ・ラ・ムエラ ドゥフォール男爵(バリトン) =コスタス・スモリギナス ガストーネ子爵(テノール) =マニュエル・ヌネス・カメリーノ ドビニー侯爵(バス) =アンドレア・マストローニ アンニーナ(ヴィオレッタの小間使い・ソプラノ)=アドリーナ・スカベッリ 医師グレンヴィル(バス) =マウリツィオ・ロ・ピッコロ ヴィオレッタの下男ジュゼッペ(テノール)=マティ・トゥーリ 使いの男(バス) =ユーク・ヨッター フローラの召使い(バス) =ライネル・ヴィトゥ 2011年7月エクサン・プロヴァンス音楽祭公演
◎ヴェルディ没後100年記念、生まれ故郷ブッセートの小歌劇場での記念すべき名舞台 指揮=プラシド・ドミンゴ アルトゥーロ・トスカニーニ財団管弦楽団&合唱団 ヴィオレッタ(ソプラノ) =ステファニア・ボンファデッリ アルフレード・ジェルモン(テノール) =スコット・パイパー ジョルジョ・ジェルモン(バリトン) =レナート・ブルゾン フローラ・ベルヴォワ(メゾソプラノ)=アネリー・ペーボ アンニーナ(ソプラノ) =パオラ・レヴェローニ ガストーネ子爵(テノール) =クリスティアン・リッチ ドゥフォール男爵(バリトン) =エツィオ・マーリア・ティーズィ ドビニー侯爵(バス) =アンドレア・ステルスキ 医師グランヴィル(バス) =ガストーネ・サルティ ほか 演出・装置・衣裳・照明=フランコ・ゼッフィレッリ 2002年2月24〜27日 ジュゼッペ・ヴェルディ劇場(ブッセート)ライヴ録画
◎名演出家ロバート・カーセンの現代演出。ヴィオレッタはファッションモデル。闘牛士は カウガール。火事で炎上した椿姫初演劇場(フェニーチェ座=不死鳥)での復活公演。 指揮=ロリン・マゼール 合唱指揮=ピエロ・モンティ フェニーチェ(不死鳥)歌劇場管弦楽団 & 合唱団 演出=ロバート・カーセン 装置・衣裳=パトリック・キンマンス 脚色=イアン・バートン 振付=フィリップ・ジロドー 照明=ロバート・カーセン、ペーター・バンプリート ヴィオレッタ・ヴァレリー(ソプラノ)=パトリツィア・チョーフィ アルフレード・ジェルモン(テノール)=ロベルト・サッカ ジョルジョ・ジェルモン(バリトン) =ディミトリ・フヴォロストフスキー フローラ・ベルヴォア(メゾソプラノ)=エウフェミア・トゥファーノ ドゥフォール男爵(バリトン) =アンドレア・ポルタ ガストーネ子爵(テノール) =サルヴァトーレ・コルデッラ ドビニー侯爵(バス) =ヴィート・プリアンテ アンニーナ(ヴィオレッタの小間使い・ソプラノ)=エリザベータ・マルトラーナ 医師グレンヴィル(バス) =フェデリーコ・サッキ ヴィオレッタの下男ジュゼッペ(テノール)=ルカ・ファブロン 使いの男(バス) =アントニオ・カサグランデ フローラの召使い(バス) =サルヴァトーレ・ジャカローネ 2004年11月18日フェニーチェ歌劇場公演
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