コラム「音楽編」
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掲載日2004-08-09

この原稿(でなく企画書)は、生前の野村万之丞が「何か演歌とオペラで面白いことやろうよ。企画を考えてよ」といいだしたので、一昨年の秋に書いたものです。その後、どの筋のどのあたりに彼が売り込んだのかわかりませんが、日の目を見ることなくボツりました(笑)。どなたか、プロデュースする気のある方は、どうぞ、お申し出ください(爆・でも、ちょっと本気です)

<演歌 de オペラ>上演企画書

なぜ、演歌歌手がオペラを歌うのか?

▼オペラと演歌は歴史的に見て親戚関係にある
「イタリアのオペラ」と「日本の演歌」は親戚の関係にある――この事実に気づいている人は少ない。
  ルネサンス末期の1597年、フィレンツェに住む貴族ジョヴァンニ・ディ・バルディ伯爵の邸宅(カメラータ)で、ギリシア悲劇の『ダフネ』を「音楽付きの歌芝居」(drama in musica)として上演された。それが「オペラの誕生」とされている。
  その試みが大ヒットし、『オルフェオ』『メディア』『オイディプス』などのギリシア悲劇が次々と「音楽化」され、やがて豪華な衣裳に絢爛な舞台装置、それに踊り(バレエ)も加え、「オペラ」(opera in musica=音楽による作品)と称され、大発展した。

 さらにオペラは、「シンフォニア」と呼ばれるようになった「序曲」から「シンフォニー」(交響曲)を生みだし、聴かせどころの歌(アリア)が独立した歌として大ヒットし、中世の時代から流行していた数々の「民謡」と影響を及ぼし合って、今日「ナポリ民謡」とか「カンツォーネ」と呼ばれるイタリアの名曲の数々を生みだした。
  かつて(ロック・ミュージックが世界的人気を得るようになる前まで)サンレモ音楽祭が世界のポップ・ミュージック界の頂点に君臨していたことからもわかるように、オペラの伝統に根ざしたイタリアの歌(カンツォーネ)は、「世界の歌」として愛されたのである。

 一方、日本の演歌は、イタリアでオペラが誕生した年ときわめて近い1603年、京の四条河原で出雲の阿国が上演した「阿国歌舞伎」にそのルーツを求めることができる。「ややこ踊り」や「念仏踊り」など、当時巷で流行していた歌や踊りを自己流に改編し、舞台作品に仕立てあげ、大人気を博した「阿国歌舞伎」は、やがて「女歌舞伎」「若衆歌舞伎」「野郎歌舞伎」に引き継がれ、今日の「歌舞伎」に発展した。
  そして、イタリアのオペラと同様の「歌芝居」(歌劇、楽劇)である「歌舞伎」は、長唄、浄瑠璃、義太夫等々の「日本の歌」を生みだした。さらに、オペラからカンツォーネやナポリ民謡が生まれたのと同様、歌舞伎音楽は、小唄、端唄、新内、さらに浪花節(浪曲)といった日本の歌を生みだしたのち、文明開化によって西洋音楽(イタリアを中心に発展した音楽)と出逢い、両者を合体させて、演歌、艶歌、怨歌、などと称される日本の歌(流行歌)に発展したのである。
  すなわち、オペラと歌舞伎は、洋の東西で同時期に誕生した兄弟同士の関係にあり、演歌にとってのオペラは、「甥―叔父」「姪―叔母」の関係にある、といえるのである。

▼イタリアの歌(イタリア・オペラ)と日本の演歌の酷似した関係
  フォルテ、ピアノ、ダ・カーポ、フェルマータ・・・等々、音楽用語のほとんどにイタリア語が用いられていることからもわかるように、イタリアは、今日の西洋音楽の発祥地であり、音楽を最も発展させた地域といえる。
  一方、日本も、万葉の時代から「歌なくては夜も明けぬ国」であり、歌の種類の多さ、歌の作品の多さ、さらに、今日のアジアン・ポップとしての発展を見てもわかるように、「西のイタリア」と並ぶ「歌の国」ということができる。

 その理由は、両国の人々が用いている言語に求めることができそうだ。イタリア語、日本語とも、母音はa,e,i,o,uという単純な音のみであり、子音同士の重なり合いもなく、大きな声での発声(歌うこと)に適した言語といえる。
  じっさい、現代の「三大テナー」と称されたパヴァロッティ、ドミンゴ、カレーラスは、口を揃えて、「最も歌いやすい言語はイタリア語(とスペイン語)と日本語」と語っている(ちなみに、最も歌いにくい言語が「英語」であることでも3人の意見は一致している。 イギリスはシェークスピアの演劇や詩は発達させたが、英語の歌はなかなか発達せず、英語がアメリカに渡ってアフリカのリズムと出逢い、ブルースやジャズ、さらにロックンロールが生まれて初めて「英語の歌」が誕生したと考えられる――が、それはさておき)。
  そのように、発声の類似したイタリア語と日本語によって誕生した「イタリアの歌」(オペラ)と「日本の歌」(演歌)は、その歌唱法も類似している。その最も際立った例は「コブシ」である。

 ドイツ・リート(シューベルトなどによって完成されたドイツ語の歌曲)のように、歌の「聴かせ所」でただ素直に音を伸ばすのではなく、また、ロック音楽のように一定のリズムに乗ってシャウトする(叫ぶ)のでもなく、イタリア・オペラや演歌では、テンポをいったん落とし、装飾音(色)をつけて声を張りあげる。それが「コブシ」である。さらに、呼吸法(息を吸うとき)までも表現に利用する(いわゆる「泣きを入れる」歌い方)。
  その歌い方は、楽譜どおりではなく、イタリア人ならでは、日本人ならでは、の歌い方といえる。『江差追分』(演歌の源流の一つ)や『涙の連絡船』や『北酒場』が、たとえ楽譜に書かれているとおりに歌っても魅力的に響かないのと同じように、『女心の歌』(ヴェルディ作曲『リゴレット』のアリア)や『ある晴れた日に』(プッチーニ作曲『蝶々夫人』のアリア)といったイタリア・オペラのアリアも、楽譜に書かれている以上の「コブシ」や「色」や「泣き」が求められるのである。

 ならば、音楽大学で楽譜を基本にした発声法と歌唱法を身につけた「オペラ歌手」よりも、「コブシ」や「色」や「泣き」を身につけている日本の演歌歌手がオペラを歌うほうが、「オペラの真の心」に迫ることができる、といえるのではないだろうか。

▼オペラも演歌も庶民の芸術
  明治時代の文明開化によって、日本は一気に流れ込んできた多くの西洋文明を受容した。そのとき、その受け入れ口となったのは、帝国大学を中心とする大学だった。そして、大学で受け入れられた「文明」は、師範学校を通じて全国に配布された。政治学も、法学も、経済学も、そして、スポーツや音楽といった庶民の文化も、明治のエリートたちの学問として発展した。その結果、自由に楽しむはずのスポーツは「体育」となり、音楽も、文部省の「西洋音楽取調所」を中心に、「邦楽を排除して学ぶべき新しい教養」として全国民に伝えられた。

 その結果、本質的に誰もが(庶民が)楽しむものであり、そのようにして発展してきたはずの西洋音楽(クラシック音楽やオペラ)が、日本では、難解な学問として、あるいは、堅苦しい「音学」ととらえられるようになってしまった。そうして現在でも、オペラは堅苦しいもの、難しいもの、教養人の高等趣味ととらえている人が少なくない状態が続いている。
  しかし、オペラとは(とりわけイタリア・オペラは)、基本的に庶民に大人気の流行歌(流行芝居)として発展したものであり、誰もが巷で口ずさんだものであり、舞台に立つ歌手も、子供のころから音楽学校で勉強を重ねた、という人物ではなく、トラックの運転手やデパートの売り子をしていたところが、声がいいと他人にいわれて・・・(その後、勉強をはじめた)という人物が少なくない。それは、洋の東西を問わず、あらゆる「歌の世界」に共通することといえる。音楽は学問としての研究の対象になるほど奥行きが深く、素晴らしいものではあるが、舞台に立って聴衆を感動させ、魅了するのは、けっして音楽学を究めた人物ではないのだ。

 日本でも一時期、西洋のオペラが庶民の爆発的な人気を集めたことがあった。いわゆる「浅草オペラ」の全盛期である。浅草オペラは、オペラを娯楽として楽しもうとする観衆や聴衆に対して、楽しいオペラ、心を動かされるオペラを提供し、興行的にも成り立たせることを目的とし、その意味では、ヨーロッパ各地にあるオペラ座と同様の活動を展開したともいえる。が、西洋音楽を学問として追求した日本の音楽界からは「正統な音楽」として認知されず、スター歌手を育成することができず、やがてファンに飽きられ、衰退した。
  浅草オペラの失敗は、西洋音楽を庶民レベルで受容したものの、受容しようとするばかりで日本文化からのアプローチというアイデアに気づかなかった点を指摘することができる。すなわち、西洋音楽は西洋的に(学問的に楽譜を通して)「マスター」する以外に方法がない、という先入観から脱することができず、オペラを真に日本人の文化として昇華しきれなかったことに起因すると考えられる。

 今回の企画『演歌deオペラ』は、まさに、西洋音楽文化の粋ともいえるオペラを、日本の演歌歌手によって、日本的に消化し、新たな音楽に昇華させようとする試みといえるのである。それが可能であることは、先に述べた理由の通りであり、この企画の実現によって、「音楽に国境のないこと」「音楽は民族文化に根ざすこと」という一見アンビバレントなテーゼが両立することが証明されると同時に、「クラシック音楽」(オペラ)がけっして堅苦しいものではないこと、日本の演歌の素晴らしさ(世界に誇る歌唱法を有していること)も明らかにされるはずである。

演歌deオペラ 企画内容

▼日時 未定
▼場所 未定(浅草公会堂?)
▼公演内容
  第一部 『演歌オペラ カルメン』
  講談師・神田紅の語りによって、傑作歌劇『カルメン』が約1時間の物語に凝縮されて、演じられる。『恋は野の鳥(ハバネラ)』(カルメン)、『闘牛士の歌』(エスカミーリョ)、『おまえがくれたこの花は(花の歌)』(ドン・ホセ)、『何も怖がることはない』(ミカエラ)といった名アリアが次々と歌われるなかで、浅草オペラで人気を博した『恋はやさし』『麗しの人よ、聴きたまえ(ベアトリ姉ちゃんの歌)』(スッペ作曲『ボッカチョ』より)、『ヴィリアの歌』(レハール作曲『メリーウィドウ』より)なども歌われ、女(カルメン)と男(ドン・ホセ)の「行方も知れぬ恋の道」の物語は、クライマックスの二重唱と、それに続く殺人事件で幕を閉じる。

 第二部 『演歌deオペラ 大ガラ・コンサート』
  ヨハン・シュトラウスの傑作オペレッタ『こうもり』の第2幕への前奏曲で幕が開き、オルロフスキー侯爵の邸宅に集まった招待客たちが、次々と喉を披露し、最後は、ヴェルディの『椿姫』の名曲『乾杯の歌』で幕となる

▼配役と楽曲
  第一部
カルメン=坂本冬美
ドン・ホセ=中条きよし
エスカミーリョ=堀内孝雄
ミカエラ=川中美幸
スニガ(隊長・ホセの上司)=鳥羽一郎
  挿入歌
『恋生やさし』=キム・ヨンジャ/大川栄策
『ベアトリ姉ちゃんの歌』=宮路オサム
『ヴィリアの歌』=田川寿美

 第二部
オルロフスキー侯爵(進行役)=錦織健
ゲストの面々(順不同)
藤あや子  プッチーニ 『トゥーランドット』より「お聞きください王子様」
前川清   ヴェルディ 『トロヴァトーレ』より「君がほほえみ」
原田悠里 *プッチーニ 『蝶々夫人』より「ある晴れた日に」
細川たかし プッチーニ 『ラ・ボエーム』より「冷たい手」
石川さゆり プッチーニ 『ラ・ボエーム』より「わたしはミミ」
氷川きよし ロッシーニ 『セビリアの理髪師』より「空はほほえみ」
天童よしみ プッチーニ 『トスカ』より「歌に生き愛に生き」
美川憲一  プッチーニ 『ラ・ボエーム』より「ムゼッタのワルツ」
八代亜紀  ヴェルディ 『椿姫』より「さようなら、過ぎ去った日よ」
吉田兄弟  ロッシーニ 『セビリアの理髪師』より「おいらは町の何でも屋」
                 (津軽三味線とオーケストラの演奏による)
森進一   シューベルト 『菩提樹』
都はるみ  プッチーニ 『ジャンニ・スキッキ』より「わたしのお父さん」
五木ひろし*ドニゼッティ『愛の妙薬』より「人知れぬ涙」
島倉千代子 モーツァルト『フィガロの結婚』より「恋とはどんなものかしら」
北島三郎  ヴェルディ 『リゴレット』より「女心の歌」
  特別ゲスト 
江本孟紀 *ナポリ民謡 『カタリカタリ』
      *またはワーグナー『タンホイザー』より「夕星の歌」
(註)*印のある楽曲は、同じ歌手によって既に歌われたことがあるものです。

指揮=未定
オーケストラ=未定

尚、歌われる歌詞は、歌手と歌唱法に合わせて、歌いやすいように、また、意味が平易に理解されるように、すべて新しい訳詞が用いられる。

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