コラム「音楽編」
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掲載日2007-06-13

この文章は、音楽評論家の平林直哉さんと一緒に(共著で)つい最近出版した『図説 指揮者列伝 世界の指揮者100人』(河出書房新社ふくろうの本)のなかから小生が書いた部分を、ほんの少しだけダイジェストしたものです。カラヤン、ゲルギエフ、セラフィン、バーンスタインの4人の指揮者に関する文章の冒頭だけを“蔵出し”させていただきます。
平林さんが書いたフルトヴェングラー、トスカニーニ、ワルター、ムラヴィンスキーなどに関する文章もはちゃめちゃに面白く、大御所の朝比奈隆や小澤征爾から、新鋭のパッパーノ、ハーディング、デュダメルまで、全員で100人の指揮者に対する辛口批評と紹介プラス小沢一雄さんの面白漫画や面白コラム付。是非とも書店でお買い求めください。

『指揮者列伝』ミニミニ・ダイジェスト「カラヤン・ゲルギエフ・セラフィン・バーンスタイン」

BOOK
玉木正之・平林直哉『図説指揮者列伝』(河出書房新社ふくろうの本)

玉木正之・平林直哉『図説指揮者列伝』(河出書房新社ふくろうの本)

<ヘルベルト・フォン・カラヤン>
 音楽家の間で語りつがれた小咄がある。
 あるホテルでブーレーズが朝食をとっていると、バーンスタインが現れてこう言った。「昨晩、夢に音楽の神様が現れて、カラヤンが亡くなったあとは君の天下だと言われた」するとブーレーズも、「私の夢にも神様が現れ、カラヤンとバーンスタインのあとは君の時代だと言われた」と話した。
 そこへカラヤンが現れたので、2人が自分たちの見た夢の話をすると、カラヤンはこう言った。「私はそんな話をした憶えがない」
 また、次のような実話もある。
 ベルリン・フィルに指揮者の物真似が巧みなメンバーがいて、練習が一休みしたとき、それを披露した。様々な指揮者の形態模写を、カラヤンも一緒に笑顔で楽しんでいたが、そのヴァイオリニストがカラヤンの物真似をはじめた途端、無言でその場を去った。そしてそのメンバーは二度と口をきいてもらえなくなった……。
 小咄にしろ実話にしろ、カラヤンの尊大さには、鼻持ちならないと思う人も多く、彼が数多く録音に残したベルリン・フィルとの演奏も、有名なポップス・オーケストラをもじって「カラベリと煌めくストリングス」などと揶揄する声もある。
 たしかに、一点の濁りもない美しすぎる響きは、精神性の欠如を思わせもする。が、50年代(40歳代)のカラヤンの若々しい演奏は、じつに見事な躍動感に満ちている。たとえばベルリンRIAS交響楽団を指揮し、マリア・カラスが主演したドニゼッティのオペラ『ルチア』のライヴ録音や……(以下は『図説 指揮者列伝 世界の指揮者100人』(河出書房新社ふくろうの本)をお読みください。)

<ヴァレリー・アビサロヴィッチ・ゲルギエフ>
 「彼は、まるで死に急いでるようだ」
 そんな言葉を耳にしたのは2004年6月、サンクトペテルブルクのマリンスキー劇場へ、ゲルギエフの指揮するワーグナーの楽劇『ニーベルンクの指環』を見に行ったときのことだった。初日の『ラインの黄金』の幕が降り、舞台裏へ足を運んだところが、芸術監督である彼の部屋の前に32人もの人々が行列をつくっていた(興味があったので数えてみたのだ)。彼らはゲルギエフの「友人」ではない(友人は優先的に部屋の中へと案内された)。すべて世界中から集まってきたオーケストラや歌劇場や音楽祭(イベント)の関係者だったのだ。
 どうかわれわれのオケを指揮してください、音楽祭に出演してください、というわけで、すべてはビジネスの話。それをゲルギエフは、秘書まかせにせず、すべて自分で処理していたのである。
 そのとき、私をゲルギエフの部屋に案内してくれた「友人」が、ふと呟いた言葉が「彼は、まるで……」だったのだ。(以下は『図説 指揮者列伝 世界の指揮者100人』(河出書房新社ふくろうの本)をお読みください。)

<トゥリオ・セラフィン>
 イタリアには「イタリア・オペラしか指揮しない指揮者」が大勢存在する。それは何も不思議なことではない。誤解をおそれずに書くなら、追分しか歌わない民謡歌手、演歌しか歌わない演歌歌手のようなものである。ジャズ歌手やクラシックのオペラ歌手が演歌を歌ってもつまらない。餅は餅屋で…というわけで、イタリア・オペラの泣かせるメロディをイタリア人指揮者が流麗華麗に歌わせる。その歴代最高の指揮者がトゥリオ・セラフィンである。
 一度ヴェルディのオペラ『椿姫』の前奏曲(第一幕・第三幕)を指揮した彼の演奏(録音)を聴いてみてほしい。他の指揮者による演奏がただの美しい音楽とするなら、セラフィンの棒による演奏はイタリアの風土、イタリア人の体臭が匂い立つ。「ヴァイオリンがすすり泣く」とはこのことかと、誰もがそのドラマ性あふれる演奏に驚嘆し、一瞬の「間」に息を呑む。そして「ただの美しさ」とは異なる、身もだえするような美しさの虜になるに違いない。(以下は『図説 指揮者列伝 世界の指揮者100人』(河出書房新社ふくろうの本)をお読みください。)

<レナード・バーンスタイン>
 極私的感想から書かせていただく。かつてカラヤンとバーンスタインという性格や音楽性のまったく相反する二大巨匠が目覚ましい活躍を見せ始めたとき、クラシック音楽なるものに心を動かされた餓鬼は、なぜかバーンスタインの熱烈なファンになった。
 おそらく、目を閉じて優雅に腕を振るカラヤンの静的格好良さよりも、指揮台で跳びはね、ピアノまで弾きこなす(それもジャズ・ピアニストのように)動的格好良さのほうが、餓鬼の性に合っていたのだろう。が、その選択は間違っていなかった、と今も確信している。
 バーンスタイン(のレコードの)「追っかけ」になった結果、ベートーヴェンやブラームスやチャイコフスキーだけでなく、ストラヴィンスキー、マーラー、ショスタコーヴィチ、ニールセン、ガーシュイン、そして彼自身が作曲した『ウェスト・サイド・ストーリー』やジャズに至るまで、音楽を聴く範囲が一気に広がったのだから。
 しかもバーンスタインは、本質的に「心」の指揮者である。アンサンブルの緻密さや揺るぎないテンポといった技術面よりも、感情をそのまま音にする。アメリカのメジャー・オーケストラ(ニューヨーク・フィル)の常任指揮者に初めて就任したアメリカ出身の指揮者……とはいえ、基本的な姿勢は19世紀的ロマンチシズム。カラヤンが20世紀的合理主義による「新しい美しさ」を打ち出したのとは逆に、アメリカ人でジャズもこなすバーンスタインのほうが、フルトヴェングラーの最後の末裔ともいえる。(以下は『図説 指揮者列伝 世界の指揮者100人』(河出書房新社ふくろうの本)をお読みください。)

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