「ロマン派の音楽……というと、いったい、それは、どんなものなんだ? って誰だってちょっと構えてしまうけれど、英語で言えばロマンチック・ミュージックですよ。ロマン派というのと、ロマンチックとでは、印象が全然違いますよね。だから基本的に言葉なんて無視して、素直に音楽に耳を傾ければいいんです。さて、どんな響きが耳に聞こえてくるか…」
小生と金聖響さんの共著『ロマン派の交響曲』は、そんな聖響さんの言葉から生まれた。
いつも、こういう感じなのだ。聖響さんは、こと音楽に関して、世の中に常識として流布している「知識」や「表現」を、全然信じていない。
「指揮するときも、これはロマン派の音楽だなんて意識しないのだから、聴く人も、そんなこと意識しなくていいんです。指揮者の前には楽譜がある。聴く人の耳に音楽が届く。それで充分ですよ」
だから聖響さんと一緒につくった本は、音楽の解説書というよりも、聴衆がより素直に音楽と接することができるようになるための案内書のようなものになった。
もちろん、シューベルトやメンデルスゾーンの人物像や生涯にも触れ、彼らがつくった音楽の素晴らしさを(聖響さんに)語ってもらったりもしたが、それ以上に、聴く人が、もっともっとシューベルトやメンデルスゾーンの音楽を好きになってくれるよう……という思いで本作りをした。
『ロマン派の交響曲』をまだお読みでない方は(『ベートーヴェンの交響曲』とともに)是非ともご一読をお勧めしたい。
ハイドンやモーツァルトやベートーヴェンのあと、シューマンやブラームスやチャイコフスキーの前に出現した音楽が、はたして、ホントウハ、ドンナニオモシロイモノデアッタカ……ということを、われわれ聴衆に、楽しく教えてくれる指揮者として、金聖響さんが神奈フィルとともに神奈川県立音楽堂の舞台に立ってくれることを、わたしは、心の底から嬉しく思っている。
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