オペラは面白い、オペラは楽しい、オペラほど素敵なものはない…と言い続けてきて、もちろん今もその意見を変えるつもりはないが、近頃ちょっと、オペラはやっぱりムズカシイものだなぁ…と思うようになった。
たとえば、一人の未亡人がいる。しかも美人で財産家。社交界のトップレディ。当然、多くの男たちの求愛を受ける。舞台はパリ。連夜のパーティでは、一国の公使や伯爵や男爵、そして各々の御夫人方が集まり、ワインとシャンパンと舞踏、そして男と女の恋の鞘当てが繰り広げられる。
もちろん美しい未亡人を除く男女のすべてが既婚者。つまり彼と彼女らの恋愛は、すべてが不倫。嘘か誠か、カネが目当てか愛が目当てか。そんななかで、毎晩マキシム・ド・パリで若い女たちと遊びまくる外交官で色男の男爵が、美しき金持ちの未亡人と結ばれる。
じつに他愛ない話…と言ってしまえばそれまでだが、この物語、はたして何歳くらいからきちんと理解できるようになるだろうか?
色男の男爵と美しき未亡人の「愛」は本物?御婦人方とパリの伊達男たちの恋愛は…?
それだけではない。連日連夜遊びまくる男爵は、酒に酔ってこんな歌までうたう。「昼間は祖国の仕事で疲れる。書類の山。紙の無駄遣い。だから夜はマキシムで遊ぶ。女の子たちは祖国を忘れさせてくれる!」
一言で言ってしまえば、大人の話、ということになるのだが、大人の話はムズカシイ。男と女のホレタハレタだけでは済まない。仕事もある、信用もある、立場もある、それに、過去もある。しかし、心は動く。最近は、カネで何でもできると思っている人が少なくないらしいが、これはカネで済む話ではない。
嗚呼、オペラはムズカシイ…。
何しろオペラは、ストーリーのほとんどすべてが男と女の恋だの愛だの不倫だの三角関係のもつれだの…の物語なのだ。そんなムズカシイ話はガキには到底理解できはずがない。オペラとは、すべて18禁の世界なのだ。
いや、いっぱしの大人でも男女の心の機微に疎い人物や、ジコチューで思いやりに欠ける人物や、失恋経験のない人物などは、この複雑怪奇な男女の心の綾を読むのは困難に違いない。
しかし、そこがオペラの面白さ、なのだ。
美しいメロディと楽しいリズム、ちょっと怪しい響きや爆発するサウンド…で、男と女の心の動きを表してくれる。言葉にはできない、言葉にはならない、男と女のナマの心が音楽で表現され、音楽で伝えてくれるのだ。
さぁ、オペラに足を運びましょう!
先に紹介した未亡人の恋の物語は、レハール作曲の『メリーウィドウ(陽気な未亡人)』。6月には兵庫県立文化芸術劇場で、佐藤しのぶ、ジョン健ヌッツォ、それになんと落語の桂ざこば師匠まで出演する豪華キャストで上演される。
出向くのはチョイト…と思う人は素晴らしいDVDも売り出されている。大人だけがワカル男と女の恋の鞘当てを楽しみましょう! |