★リヒャルト・シュトラウス
　　1864･6･11ミュンヘン〜1949･9･8ガルミッシュ=パルテンキルヒェン

　全オペラ作品（＆主要な交響詩作品・カッコ内の人名は原作者または台本作者）
『グントラム』　　　（1894／作曲者自身）
（1895年　交響詩『「ティル・オレンシュピーゲルの愉快な悪戯』）
（1896年　交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』）
（1897年　交響詩『ドン・キホーテ』）
（1898年　交響詩『英雄の生涯』）
『火の欠乏』　　　　（1901／ヴォルツォーゲン）
（1903年　交響曲『家庭交響曲』）
『サロメ』　　　　　（1905／オスカー・ワイルド）
『エレクトラ』　　　（1909／ホーフマンスタール）
『ばらの騎士』　　　（1911／ホーフマンスタール）
（1911年　グスタフ・マーラー51歳で死去＝1860年生まれ）
『ナクソス等のアリアドネ』（1912／ホーフマンスタール）
『影のない女』　　　（1919／ホーフマンスタール）
『インテルメッツォ』（1924／作曲者自身）
（1915年　交響詩『アルプス交響曲』）
『エジプトのヘレナ』（1928／ホーフマンスタール）
『アラベッラ』　　　（1933／ホーフマンスタール）
『無口な女』　　　　（1935／ツヴァイク）
『平和の日』　　　　（1938／グレゴール）
『ダフネ』　　　　　（1938／グレゴール）
『ダナエの愛』　　　（1952／グレゴール）
『カプリッチョ』　　（1942／クレメンス・クラウス）
（1948年　歌曲集『四つの最後の歌』）
　1949年　リヒャルト・シュトラウス死去：85歳

　楽劇（ムジークドラマ）『ばらの騎士』
　　フーゴー・フォン・ホフマンシュタールによる音楽のための3幕の喜劇（コメディ）
　作曲：リヒャルト・シュトラウス／1909〜1910＠ガルミッシュ=パルテンキルヒェン
　台本：フーゴー・フォン・ホフマンシュタール（1874ウィーン〜1929ロダウン）
　初演：1911年1月26日＠ドレスデン宮廷歌劇場
　日本初演：1956年

●『ばらの騎士』の主要登場人物
・侯爵夫人　Die　Feldmarschallin　Furstin　Werdenberg
　オーストリア帝国陸軍元帥ヴェルデンベルク侯爵夫人。名前はマリー・テレーズ。
年齢は32歳前後。若くしてヴェルテンベルク侯爵と結婚するが、間もなく、あまりにも年齢の離れた夫との結婚生活に失望。夫の元帥が、公務と遊び（狩猟）に精を出し、夫人を省みななくなったため、夫人は、オクタヴィアンとの情事にふけるようになる。オペラの物語でも、元帥はクロアチアへ狩猟に行ったきりで、舞台に登場しない。しかし、夫人は、いずれオクタヴィアンが、若い女性と恋に落ち、自分が取り残されるようになることを想像し、憂いにふける日々を過ごす。

・オクタヴィアン　Octavian
　フルネームは、伯爵オクタヴィアン・マリア・エーレンライヒ・ボナヴェントゥーラ・フェルナン・イヤサン・ロフラーノ。Graf　Octavian　Maria　Ehrenreich　Bonaventut　Fernand　Hynacint　Rofrano　通称カンカン　Quinquin
年齢は17歳〜19歳。早熟で、情熱的な美青年。ただし、性的な経験は深くなく、侯爵夫人を満足させることはできない（これが、物語の進行上、結構大きな意味を持つ、と指摘する人もいる）。侯爵夫人との情事のあと、突然訪れてきたオックス男爵の目をごまかすために、女装してマリアンデルという名前の女性に変身するが、その美貌の結果、かえってオックス男爵の目を引き、強引な誘いまで受けてしまう。侯爵夫人によって、オックス男爵が貴族としての結納の印として納める銀のバラを届ける「ばらの騎士」に選ばれ、その席でオックスの婚約者であるゾフィーに一目惚れする。しかも、オックスのゾフィーに対するあまりに失礼で破廉恥な態度に腹を立て、剣を抜いてオックスを傷つける。
そして、オックス男爵を懲らしめる計画を立て、再びマリアンデルに変身してオックス男爵を誘いだし、彼を懲らしめたあと、侯爵夫人の祝福（それは、侯爵夫人にとっては寂しくつらい決断でもあるのだが）を受けるなかで、ゾフィーと結ばれる。

・オックス男爵　Der　Baron　auf　Lerchenau
　正式な名前は、レルヒナウ男爵レオポルト・アントン・オックス。侯爵夫人のいとこにあたる粗野で下品な地方貴族。貴族の称号としてのｖｏｎが名前につくと、一定の土地を所有する貴族を意味するが、ａｕｆの場合は、その土地のごく一部を所有している場合が多い。そこで、オックス男爵は、成金商人（ファニナル）の娘であるゾフィーと結婚し、持参金を手に入れようとたくらむ。そして、結納である銀のバラを運ぶ騎士を選んでくれるよう、侯爵夫人に頼む。が、オクタヴィアンの計略にはまり、元帥夫人にも見放され、ゾフィーとも結婚できず、田舎へ逃げ帰る。

・ゾフィー
　プチブルの成金商人ファニナルの令嬢。推定年齢16〜18歳。幼い頃に母親を失い、乳母のマリアンネに育てられる。素直でしっかり者の娘。金はあるが血筋が貧弱なことに不満を抱いていた父親のために、オックス男爵と結婚させられる羽目に陥る。が、結納の銀のバラを運んできたオクタヴィアンに一目惚れ。おまけにオックス男爵の野卑な態度にうんざりして、オックスとの結婚を拒否する。最後には、オクタヴィアンに自分の運命をゆだね、元帥夫人とオクタヴィアンとの関係に、疑念とためらいを感じながらも、オクタヴィアンと結ばれる。

●『ばらの騎士』を楽しむための3つのキイワード
　1．ハプスブルク家　　2．ウィンナ・ワルツ　　3．主人公は？

＜簡単な解説＞
　1．ハプスブルク家：Haus Habsburg　現在のスイス領内に発祥したドイツ系の貴族の家系。古代ラテン人の有力貴族であるユリウス一門（カエサル家）の末裔を自称し、中世の血縁制度を利用した政略結婚により広大な領土を獲得、南ドイツを代表する大貴族に成長した。中世から20世紀初頭まで中部ヨーロッパで強大な勢力を誇り、オーストリア大公国（オーストリア公国）、スペイン王国、ナポリ王国、トスカーナ大公国、ボヘミア王国、ハンガリー王国、オーストリア帝国（後のオーストリア＝ハンガリー帝国）などの大公・国王・皇帝の家系となる。後半は形骸化していたとはいえ、ほぼドイツ全域を統べる神聖ローマ帝国（ドイツ帝国）の皇帝位を中世以来保持し、その解体後もオーストリアがドイツ連邦議長を独占したため、ビスマルクによる統一ドイツ帝国から排除されるまで、形式的には全ドイツ人の君主であった。ヨーロッパ随一の名門王家と言われている。

　2．ウィンナ・ワルツ：19世紀のウィーンで流行し、ウィーン会議（1814〜5:ナポレオン戦争後の領土確定会議。会議は進展せず「会議は踊る」と言われた）を通してヨーロッパ中に広まっていった3拍子のワルツ。ダンス音楽団の団長であったヨーゼフ・ランナー（1801〜43）と「ワルツの父」と呼ばれるヨハン・シュトラウス1世（1804〜49）の2人がウィンナ・ワルツの創始者と言われている。ヨハン・シュトラウス2世（1825〜99）は、父の後を継ぎウィンナ・ワルツの様式を完成させ、黄金時代を築き「ワルツ王」と称される。弟の次男ヨーゼフ・シュトラウス（1827〜70）、三男エドゥアルト・シュトラウス（1835〜1916）も活躍。彼らは、ワルツの他に、2拍子のポルカ、行進曲などの小品や、ウィーン風オペレッタの基礎も手がけた。ウィンナ・ワルツにおける3拍子は3拍が均等な長さを持たず、2拍目をやや早めにずらすように演奏され、独特の流動感を生んでいる。尚、ヨーゼフ・シュトラウス作曲ワルツ『ディナミーデン』は、Ｒ・シュトラウスが『ばらの騎士』のなかで「オックス男爵のワルツ」（のアイデア）として使われている。日本にも毎年衛星生中継されているウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤーコンサートでは、シュトラウス一家たちの作曲した多くのウィンナ・ワルツが演奏されることで有名。

　3．主人公は誰？
　侯爵夫人？＝1幕冒頭から出場し、1幕後半の長いモノローグが聴かせどころ。3幕では、すべての騒動を収める。が、2幕にはまったく登場せず、3幕前半にも登場せず、物語のきっかけと解決には参加しても、物語の進展には全く関与しない。
　オクタヴィアン伯爵？＝1幕冒頭から侯爵夫人の恋人として登場。2幕でもゾフィーにばらを届け、彼女をオックス男爵から奪い、3幕でオックスを罠にかけ、ゾフィーと結ばれる。タイトルの『ばらの騎士』とは彼のことに他ならない。が、侯爵夫人の手のひらで泳がされるキャラでもあり、主人公と呼ぶには弱い？
　オックス男爵？＝1，2，3幕のすべに登場し、物語の進展に関与する。が、役柄としては脇役（進行役）的な騙され役であり、主人公と呼ぶには、下品すぎるか？

●あらすじ
　第一幕
・時代はマリーア・テレジア（1717〜1780）治下の18世紀ウィーン。
・場所は、侯爵夫人マリー・テレーズ（マルシャリン=ヴェルデンベルク元帥の夫人）の自宅の寝室と居室。
　侯爵夫人は、夫がクロアチアへ狩りに出かけた留守中、若い騎士オクタヴィアン・ロフラーノ伯爵との情事に耽っている（前奏曲は、その常時の様子を描写している）。
　夜が明けたその日の朝、多くの謁見客のなかに、好色なオックス男爵が現れ、近く婚約する商家ファニナル家の娘ゾフィーに結納の薔薇の花を届ける若者の手配を、侯爵夫人に依頼する。侯爵夫人は、その役目をオクタヴィアンに託する。
　オクタヴィアンは、オックス男爵の手前、いったん隠れ、女装してマリアンデルと名乗って現れ、侯爵夫人の寝室にいたことを誤魔化す。男爵は、マリアンデルにも色目を使いながら、侯爵夫人が示したオクタヴィアンの絵姿を見る。その姿が、マリアンデルによく似ていることを不思議に思うが、さほど気にしないまま、薔薇の花の使者を頼んで退席。
　他の訪問客も退席したあと、侯爵夫人は、容色の衰えを嘆き、女装を解いたオクタヴィアンに向かって、いずれ近い将来あなたにも若い恋人が現れる、と告げる。
　オクタヴィアンは、その言葉を否定し、元帥夫人への変わらぬ愛（不倫の愛）を誓うが、侯爵夫人の言葉に心に少々傷を負いながら、退室する。
　オックス男爵から預かった結納の薔薇の花を、オクタヴィアンに渡し忘れた元帥夫人は、召使いの少年モハメッドを呼び、薔薇の花をオクタヴィアンに届けさせる。一人になった侯爵夫人は、椅子に腰掛け、寂しさに襲われる……第一幕の幕が降りる。

　第二幕
・場所は、富裕な商人･新興貴族ファニナルの館
　富裕な商人ファニナルの娘ゾフィーは、オックス男爵の使者として、婚約の印（結納の品）となる「銀の薔薇」を届けに来るオクタヴィアン伯爵の到来を、侍女のマリアンネとともに今か今かと待っている。花嫁となる娘の父ファニナルも落ち着きのない様子。
　そこへオクタヴィアン伯爵が到着し、ゾフィーに「銀の薔薇」を渡す（薔薇の贈呈の二重唱）が、その瞬間、二人は互いに一目惚れしてしまう。
　そこへゾフィーの婚約者であるオックス男爵が、親族や部下の男達（レオポルドなど）を沢山率いて登場。貴族の親戚になることを望み、政略的な結婚に同意したファニナルは、彼らを快く（仕方なく？）迎える。が、ゾフィーとオクタヴィアンは彼らの尊大で下品な振る舞いに辟易とし、ゾフィーは男爵のセクハラもどきの行動から、逃げ出そうとする。
　オックス男爵を好きになれないゾフィーと、ゾフィーに一目惚れしたオクタヴィアンは、オックス男爵を嫌うようになり、男爵がファニナルに呼ばれて立ち去ったところで、ますます心を結び合わせるようになり、二人で抱き合う。
　そこへ「陰謀家」（ジャーナリスト）のヴァルツァッキとその妻アンニーナが現れ、オクタヴィアンとゾフィーが抱き合っているところが見つかってしまう。
　騒動の声を聞いて現れたオックス男爵は、オクタヴィアンと決闘に挑み剣を抜く。が、からきし弱く、逆にオクタヴィアンに斬りつけられ、傷つく。
　腕を怪我をした男爵は、大袈裟に痛みを訴え椅子に横たわる。ファニナルは、この顛末に狼狽し、オクタヴィアンを追い出し、ゾフィーを叱りつけ、オックス男爵の機嫌取りに必死になる。
　やがて一人になったオックス男爵は、怪我の痛みも忘れて、若い花嫁との甘い結婚生活に思いを馳せたりもする（オックス男爵のワルツ）。
　そこへアンニーナが、マリアンデル（第一幕で、侯爵夫人と情事を楽しんでいたオクタヴィアンが、突然現れたオックス男爵の目をごまかすために変装して名乗ったメイドの名前）からの手紙を持って、オックス男爵の前に現れる。
　それがヴァルツァッキを買収したオクタヴィアンの仕掛けた罠であることに気づかず、美人のメイドからのお誘いの手紙に、オックス男爵は若い女との逢瀬を夢想する。

――幕――

　第三幕
・場所は、ウィーン郊外にある少々いかがわしい料理店（売春宿？）
　第3幕への前奏曲が流れる間に、舞台上はパントマイム。オクタヴィアン（と侯爵夫人）の味方についたヴァルツァッキなどが、オックス男爵を罠にはめるため、料理店にいろんな仕掛け（幽霊･怪物･子供たちなど）を備え付ける。
　何も知らないオックス男爵は、マリアンデル（実は女装したオクタヴィアン）との食事やワインを楽しみ、マリアンデルに抱きつき、別室のベッドの部屋へ連れ込もうとする。そこへ、仕掛けた罠（幽霊やオックス男爵の前妻や子供を名乗る連中）が暴れ出し、大騒動になり、料理店の通報で、警察も出動してくる大騒動になる。
　警部に訊問されたオックス男爵は、女は婚約者のゾフィーであると弁解するが、そこへゾフィーと父親のファニナルが現れて嘘がばれる。
　大騒動のところへ侯爵夫人が現れる。警部は緊張してヴェルデンベルク侯爵には大変世話になってると挨拶する。その間に、オクタヴィアンは女装を解いて男性として現れる。
　オックス男爵は、マリアンデルがいつの間にかオクタヴィアンに変わっていることから、侯爵夫人の寝室にいた女中のマリアンデルがオクタヴィアン（侯爵夫人の情事の相手）であることを察知する。
　しかし侯爵夫人は動じることなく、「すべては終わった。早く退散するよう」命じる。オックス男爵は下僕のレオポルトを伴い、大騒動のなか、そそくさと退散する。
　多くの人物が消えていなくなり、侯爵夫人とオクタヴィアンとゾフィーだけが取り残されたところで、侯爵夫人はオクタヴィアンに向かってゾフィーに愛を打ち明けるよう促す。
　オクタヴィアンは侯爵夫人の態度に戸惑う。ゾフィーは、侯爵夫人とオクタヴィアンのただならぬ関係を察知して、戸惑う。
　しかし最後は、オクタヴィアンとゾフィーが結ばれ、侯爵夫人は、寂しさと諦めで涙を堪えながら（？）、身を引くことを決意し、その場を、いったん立ち去る（クライマックスの三重唱）。
　オクタヴィアンとゾフィーは抱き合う（愛の二重唱）そこへ侯爵夫人はファニナルをと一緒に現れ、若いカップルの成立を喜ぶ。オクタヴィアンは、立ち去る侯爵夫人の手にキッスの挨拶をする。それを少々複雑な心境で見送るゾフィー。しかし、若い二人は再び抱き合い愛の二重唱の続きを歌う。
　そして、オクタヴィアンとゾフィーも、その場（いかがわしい料理店）を去るが、そのとき、ゾフィーがハンカチーフを落として忘れる。
　誰もいなくなった場所に、侯爵夫人の小間使いであるモハメッドが現れ、ゾフィーの忘れたハンカチーフを探し、見つけ、拾いあげ、それを振り回しながら退場する。

●ここでクイズです。
　オクタヴィアンとゾフィーが立ち去ったあと、どうして、すぐに、モハメッドが現れ、ゾフィーの忘れたハンカチーフを、取りに来たのでしょうか……？