コラム「音楽編」
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掲載日2008-12-24
この原稿は『おとなのOFF』2008年11月号の『平成旦那塾vol.7オペラ』短期連載(全3回)の第1回目として書いたものです。もうすぐ最終回(3回目)の掲載された雑誌(2009年2月号)が発売されますので、この“蔵出し”とともに合わせてお読みください。

日本人ならオペラ・ファンになる!〜「日独伊オペラ歌舞伎同盟」

「オペラ」が「ブーム」といわれるようになって久しい。
最初のきっかけはバブル。企業やメディアが次々と海外のオペラ座を招聘し、数万円もするチケットが飛ぶように売れた。さらに「三大テナー」(パヴァロッティ、ドミンゴ、カレーラス)が数万人単位の聴衆を集める巨大な野外コンサートを実現。オペラからポップスまでを歌って話題を振りまいた。

 そして現在。バブルはとっくに泡と消えたが、「オペラ・ブーム」は消えず、全国各地でオペラの来日公演・自主上演が続いている。
何故か? 答えは簡単。オペラが面白いからである。多くの日本のファンを獲得したからである。

 かつてオペラは、難しいもの、高級なもの、と思われていた。クラシック音楽ファンが学者もどきの理屈をこねたり、ドレスやタキシードに身を包んだセレブがステータス・シンボルとして嗜むもの、と思われていた。

 が、いちど見れば何のことはない。男と女が不倫に走り、愛し愛され、憎み憎まれ、その劣情ともいうべき感情を、音楽にのせて歌いあげるだけのこと。

 その絢爛豪華な舞台は見る者を驚嘆させ、大オーケストラのサウンドを伴って輝く声は、聴く者の魂を揺すぶり、身体をふるわせる。そのエクスタシーを少しでも経験した多くの人が次々とオペラにハマッた。そしてブームは消えずに続いた。それだけのことである。

 このブームに乗れなかった人は不幸である。オペラの「毒」にまだ中(あた)ってない人は、人類の文化史上最大の悦楽を味わわずに人生を過ごす淋しい人というほかない。

 ましてや日本にはオペラの伝統がある。日本人にはオペラを楽しむ血が流れている――と書くと、「?」と首を傾げる人がいるかもしれない。が、ギリシア悲劇を音楽とともに楽しもうと意図してオペラが誕生したのは16世紀末のイタリア。そのちょうど同じ時期、日本では出雲の阿国が、オペラと同じ歌と踊りと芝居のエンターテインメントを演じて大ウケした。

 地球のまったく反対側で、何故かまったく同じ時期に、同じ芸能芸術が誕生したのだ。
その後、日本の歌舞伎は人形浄瑠璃の大作家近松門左衛門の登場や、市川団十郎・坂田籐十郎といった大スターの登場によって、日本人の心情を表現する一大娯楽に発展する。

 一方オペラは、大天才モーツァルトの登場で一般大衆の大人気を博すと同時に、イタリア語だけでなく、ドイツ語オペラも誕生。そして19世紀になってイタリアのヴェルディ、ドイツのワーグナーという二人の大オペラ作家が次々と傑作を発表。さらに二大巨匠に続いてイタリアにプッチーニ、ドイツにリヒャルト・シュトラウスいう大音楽家も現れ、人気オペラを量産した。

 いま名前をあげたモーツァルト、ヴェルディ、ワーグナー、プッチーニ、R・シュトラウスの5人の作品だけで、現在世界中のオペラ・ハウスの上演演目の8割近くを占めるほど。いわば「歌舞伎十八番」。

 歌舞伎ファンもオペラ・ファンも、同じ演し物を繰り返し見て、繰り返し笑い、繰り返し泣き、素晴らしい役者(歌手)に「大統領!」(ブラヴォー!)と声をかけ、拍手を贈り、舞台を楽しんでいるのだ。

 いまでこそ音楽劇は世界に広がる地球規模の文化といえるが、フランスやロシアは舞踏劇(バレエ)が中心。英語圏はアメリカでミュージカルが生まれ発達するまでは朗読劇(シェイクスピア)が中心で、音楽劇を中心として多くの名作を生み出したのは日本とドイツとイタリア、すなわち「日独伊」だったのだ。

 その3か国の国民が、なぜか心情的に親しさを感じるのは、過去の政治の影響ではなく、互いに「音楽劇」を愛する民族だから、といえそうだ。だから日本人なら誰でも、いますぐにでもオペラ・ファンになれるのです。

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