コラム「音楽編」
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掲載日2005-12-12

JCBのPR誌『ゴールド』に2年間(1999〜2000年)にわたって連載したコラム『オタマジャクシはバッハの子』からの“蔵出し”第21回目。今回は「日本歌謡大全集」・・・いや、「小全集」です。

世界は演歌に満ちている

CD
『都はるみ大文字送り火コンサート こよひ逢ふ人みなうつくしき晶子』
『都はるみ大文字送り火コンサート こよひ逢ふ人みなうつくしき晶子』

――演歌の人気が落ちているそうですね。演歌のCDは売れないし、演歌部門をリストラしたレコード会社もあって・・・。
 何年か前、都はるみさんにインタビューしたとき、こんな不躾な質問を口にしてしまった。まあ、インタビューというのは、相手の嫌がりそうな質問をするのが基本だから(「相手を怒らすのが最高のインタビュー」といってるジャーナリストもいるくらいだから)、けっして悪い質問ではなかったとは思う。が、「そういう日本人の演歌離れについて、どう思われますか?」とぶつけた私の質問に対して、都はるみさんは笑顔で見事な答えを返してくれた。

 「わたし、自分が演歌をうたってるとは思ってませんから。その質問には答えられません。わたしには関係ないことです」

――だったら、はるみさんは、どんな歌をうたってらっしゃるのですか?
 「どんな歌って・・・。特にジャンルはないです。歌です。あえていうなら、歌謡曲です。じっさい、あたしがデビューしたころは、特に演歌なんて言い方はしなかったですよ。歌謡曲としかいいませんでしたから」

 たしかに、そうなのだ。
 歌のジャンルというのは、レコード会社やディスクショップが書類やCDを整理するのに便利なように決めただけのこと。歌には、「素晴らしい歌」と「それほどでもない歌」があるだけで、シャンソンだのカンツォーネだのドイツリートだのオペラ・アリアだのフォークだのロックだのJポップだの演歌だの・・・といった分類は、べつに意味のあることではないのだ。

 とはいえ、私は、演歌というジャンルに、こだわっている。日本人のうたう歌は、やっぱり、すべて演歌じゃないか、と思っている。
 たとえば桑田佳祐とサザン・オールスターズの名曲『いとしのエリー』は、見事な演歌である。森進一のレパートリーになってもおかしくない曲である。じっさい1980年代のクール・ファイヴのライヴを収めたLPには、この歌(やアリスの『冬の稲妻』)が入っていて、前川清が『そして神戸』をうたうときと同じようなコブシのきかせ方で見事に『演歌版・いとしのエリー』を(そして『演歌版・冬の稲妻』を)うたいあげていた。

 そういえば、サザンのデビュー曲である『勝手にシンドバッド』など、よく聴けば、『シンドバッド音頭』とでも呼ぶべき民謡で、江州音頭の名人・櫻川唯丸師匠がうたえばピタリとハマリそうな曲ともいえる。
 また、サザンの最新ヒットの『ホテル・パシフィック』は、まるで筒美京平の作曲かと思えるような歌謡曲である。

CD
欧陽菲菲『欧陽菲菲 ベスト10』
欧陽菲菲『欧陽菲菲 ベスト10』
太田裕美『DREAM PRICE 1000 太田裕美 木綿のハンカチーフ』
太田裕美『DREAM PRICE 1000 太田裕美 木綿のハンカチーフ』
渚ゆう子『京都の恋』
渚ゆう子『京都の恋』

 筒美京平のつくった名曲の数々は、欧陽菲菲の『雨のエアポート』や『恋の十字路』、それに五木ひろしの『かもめ町みなと町』や渚ゆう子の『雨の日のブルース』などはもちろんのこと、いしだあゆみの『ブルー・ライト・ヨコハマ』も、ヴィレッジ・シンガースの『バラ色の雲』も、西田佐知子の『くれないホテル』も、堺正章の『さらば恋人』も、南沙織の『17才』も、太田裕美の『木綿のハンカチーフ』も、郷ひろみ『男の子 女の子』も、麻丘めぐみの『私の彼は左きき』も、中原理恵の『東京ららばい』も、庄野真代の『飛んでイスタンブール』も、ジュディ・オングの『魅せられて』も、すべて、どこか演歌的であり、日本民謡的であり、どんなにアフタービートや英語の歌詞が挿入されていても、紛れもなく「日本の歌」といえる香り――すなわち「演歌的」な匂いが漂っている。

 もんたよしのり(もんた&ブラザース)の『ダンシング・オールナイト』、世良公則&ツイストの『あんたのバラード』、上田正樹の『悲しい色やね』、それに岡林信康のフォークソングも同じ。いくらブルースだのバラードだのロックだのフォークだのといっても所詮は演歌じゃないか、といいたくなる。
 ここで「演歌」と呼んでいるものに、正確な定義はない。明治時代のオッペケペ節以来の「演説歌」や「浪花節」の伝統が・・・とか、「ぴょんこ節」のリズムが・・・などということを問題にしているのではない。
 演歌歌手と呼ばれている人々が、コブシをきかせてうたったり、民謡調に声を張りあげてうたうのにふさわしい、という程度の判断基準でしかない。

 が、そうして考えると、BBキングやエリック・クラプトンのうたうブルースも、コッテリ、タップリの歌い方は演歌といえるのではないか、と思えてくる。
 イタリアのカンツォーネやイタリア・オペラのアリアはあきらかに演歌であり、日本の演歌歌手にふさわしい歌が山ほどある。
 最近来日したミラノ・スカラ座の東京公演(ヴェルディの『リゴレット』と『運命の力』)を見た(聴いた)ときも、強烈なイタリアの香りを嗅ぎながらも、その大仰な歌いあげ方は、あきらかに演歌の世界である、と改めて実感した。

 このコラムでも過去に紹介したポップス歌手フィリッパ・ジョルダーノのうたったイタリア・オペラ・アリアを、「イタリアにも演歌があったとは! それも上にドのつく“オペラ・ド演歌”!」という表現で「酷評」したクラシック音楽評論家がいた。が、そもそもイタリア・オペラの「アモーレ(恋)」と「モルタ(死)」の世界が演歌なら、何も不思議なことはない。

 シャンソンは、コブシとは無縁の小粋な歌だから・・・と思ったが、森進一のうたうアダモの『雪が降る』は絶品である。
 いくらなんでもドイツ・リートだけは演歌とは無縁・・・と思っていたが、松本隆の日本語訳によるシューベルトの『冬の旅』(テノール五郎部俊郎/ピアノ岡田知子)のCDを聴いてみると、これなら、ぴんから兄弟にもうたえるのじゃないか、吉幾三がうたえばおもしろいのじゃないか、と思えてきた。

 要するに、日本語で歌をうたえば演歌的になるのか? いや、世界中のあらゆるエスニックな歌(文化)は「演歌的」といえるかもしれない。
 作曲家の高木東六さんのように、《日本の音楽はまだ本当の文化になっていない、あんな演歌だとか、長唄だとか、清元、常磐津、浪曲、民謡といったものがある以上、本当の文化はありえない。真の文化国家にはなれない(略)真の文化は欧米にしかない》(『新潮45』1998年10月号)などと、首を傾げたくなる意見を開陳されている御老体もおられる。が、演歌(日本の歌)は、そんなに悪いものではあるまい。

CD
前川清『バラードセレクション 明日に』
前川清『バラードセレクション 明日に』

 妙に西洋文化ばかりを崇拝し、かぶれてしまうと、シドニー五輪開会式での日本選手団の 「虹色マント」のように、わけのわからないものになり、「日本」が、世界中から理解されなくなってしまうに違いない。
 「最近のテレビなんかで流れている若い連中の歌は、よくわからなくて・・・」
 という中年同輩の溜息混じりの声を時々耳にするが、なんのことはない、じつは、どれも演歌である。ウソだと思うなら、前川清の『Ballade SELECTION 明日に』というアルバムを聴いてみてほしい。GLAYの『HOWEVER』、サザンの『真夏の果実』、長渕剛の『乾杯』、徳永英明の『恋人』、中西保志の『最後の雨』などのヒット曲を、見事に前川清節でうたいあげている。日本の歌は、ロックもソウルもポップスも、どれも演歌であり、歌謡曲なのだ。いや、世界中の歌が、じつは演歌なのだ。

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・ バーンスタイン『キャンディード』の単純明快な世界

・ いつの世も変わらない「親子」と「男女」

・ <演歌 de オペラ>上演企画書

・ カルロス・クライバー〜〜実体験なき体験/〜夢のような体験

・ 歌うピアニスト ―― G&G(グルダとグールド)

・ グレン・グールド<ガラス=音楽=グールド>

・ 『ブルース・ブラザース』讃

・ 翔べ! 21世紀へ!「エレクトリック・クラシック」の翼に乗って!

・ サロメ――官能と陶酔の神話の魅力

・ 神野宗吉(ジャンニ・スキッキ)の娘・涼子(ラウレッタ)のアリア『好きやねん、お父ちゃん』(『私のお父さん』)

・ 「子供(jr)」という大発見

・ NHK-FM『クラシックだい好き』 1〜6回プログラム

・ 島田雅彦のオペラと小説――『バラバラの騎士』と『どんな? あんな?こんな? そんな!』

・ 「オペラ忠臣蔵」のテロリズム

・ フリンオペラ年表400年史『オペラの歴史はフリンの歴史』

・ 極私的ワーグナー体験の告白『私は如何にしてワーグナーの洗脳を解かれたか?』

・ ベートーヴェンの「朝ごはん」

・ サッカーと音楽の合体――それがスポーツ!それがワールドカップ!

・ オペラ「アイーダ」の本当の魅力

・ ヨースケのことなら何でもワカル!『ヤマシタ・ヨースケ・ジャズ用語大辞典』遠日発売未定 内容見本

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