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『週刊新潮』(11月13日号)に掲載された片山杜秀氏の連載コラム『夏裘冬扇』の「"親米国家日本"の完成」と題された一文は、スポーツ記事としても注目すべき内容だった。
高市早苗首相がトランプ大統領に伴われて《横須賀の米軍基地を訪問し、喜色満面の笑みを浮かべる。その4日後、米国の大リーグのワールド・シリーズで、沖縄出身者を母に持つ監督に率いられ、日本人選手を投打の主力とするチームが優勝。わが国の多くの人々を心底喜ばせた。これが日米黄金時代というものか》
しかし《どちらも日米対等というのとは違う気がする。ワールド・シリーズは日米野球のような国際試合ではない。日本人選手はあくまで助っ人だろう》
コラムはその後、日米安保の不平等な関係や三島由紀夫の苛立ち等に触れ、《日本とは米国の助っ人になるくらいが関の山なのか》と続く。
それはさて措き、日本人ハーフのロジャース監督(日本名:池原礼)や、大谷翔平、山本由伸、佐々木朗希の3選手の活躍も、「助っ人」に過ぎないのか、と首を傾げた。
彼らの活躍を「助っ人」と言うなら、彼らは「何」を助け、あるいは「誰」を助けたというのか?
もちろんロサンゼルス・ドジャースの優勝を助けたのであり、ロサンゼルス市民の多くを喜ばせたのだから、「ロサンゼルス市民を助けた」と言えよう。
ならば、ドジャースのアジア系の選手に限らず、中南米のラテン系の選手たちも、さらにヨーロッパ系の選手たちも、すべての選手が「助っ人」と言えるだろう。
それがアメリカのプロスポーツの姿であり、MLB(メジャーリーグ・ベースボール)も、NBA(バスケットボール)も、NFL(アメリカンフットボール)も、NHL(アイスホッケー)も、すべて本拠地都市の市民の支持と支援と熱狂的応援で成立しているから、アメリカのあらゆるプロスポーツマンは、本拠地都市の市民を助ける「助っ人」だ、という言い方ができそうだ。
一方、日本のプロスポーツは、どうか?
プロサッカーのJリーグは、発足当時から本拠地都市(ホームタウン)の地元市民と地元企業と地方公共団体が「三位一体」となって運営することが提唱され、アメリカのプロスポーツの構造と同じ形態と言える。プロバスケットボールのBリーグも、Jリーグと同じ形態を狙って設立された。
が、プロラグビーのラグビー・リーグワンは、本拠地都市が重複していたり、チームが一つの企業に所有されるなど、本拠地都市の市民との密着度がイマイチ不完全なチームが多い。また、バレーボールのSVリーグは、将来の完全プロ化を目指し、現在は企業チームの参加も許している移行段階と言える。
そしてプロ野球だが、日本人の誰もが「プロ野球」と呼び、その組織である一般社団法人日本野球機構(英語名:NPB=ニッポン・プロフェッショナル・ベースボール・オーガニゼーション)と名乗り、誰もが「プロスポーツ組織」と信じて疑わない。
が、各球団の経営形態は一企業による所有がほとんどで、企業名の付く球団が多く、本拠地(フランチャイズ)の都道府県は定められているが、地方自治体の支援は少なく、その金額も、球場の新築工事費や改装工事費の半額近くが税金で賄われるMLBと較べると極めて少ない。
要するに日本のプロ野球はアメリカのメジャーや日本のJリーグ・Bリーグなどとは異なり、プロスポーツと呼ぶには程遠い「企業野球」の組織と言えるのだ。
その実態がよくわかる一冊の本が最近出版された。それはジャーナリストの木村元彦氏が書いた『労組日本プロ野球選手会をつくった男たち』(集英社インターナショナル)だ。
本書は1985年、当時読売ジャイアンツの選手会長だった中畑清選手が委員長となり、ほとんど親睦組織だったプロ野球選手会を、東京都労働委員会公認の労働組合へ"格上げ"した経緯や、04年の2球団合併から"1リーグ10球団制"への移行を画策したプロ野球機構側と真正面から対決し、それを阻止するストライキを牽引した古田敦也選手の奮闘など、歴代労組委員長8人と彼らを支えた弁護士、それを陰から支援した球団側の人々の動きなどを描いたドキュメンタリーだ。
本の帯に《この組織なくして大谷選手の活躍もなかった》とあるが、これはけっして大袈裟な宣伝文句ではない。彼らがFA制度の獲得等に動いた結果、勝ち取った権利なのだ。
この本を読んで改めてわかったのは、プロ野球を運営している人々のアタマの固さというか、反動的体質だ。
選手組合のスト当時、読売ジャイアンツの渡邊恒雄会長が、団体交渉を求める古田委員長に「たかが選手が……」と吐き捨てて顰蹙を買ったのは有名だが、著者も、こう書いている。
《各球団の親会社は日本を代表する大企業であり、社内コンプライアンスには力を入れている。特に読売や中日は言論機関であり、社会正義について健筆を振るった記者たちが、大勢フロントに入っている》
にもかかわらず年俸交渉に弁護士の同席を拒否したり、それを認めたあとも弁護士の複数選手の担当を認めなかったり……。それら数々の不当な待遇を、"労組選手会"が覆していったわけで、他にも数々の権利闘争を繰り返し、将来のプロ野球労組の課題まで展望している本書は、プロ野球ファンの必読本と言える。
私は、労組委員長当時の古田敦也選手が「プロ野球もJリーグのような組織になるべきです」と言ったのを憶えている。それを著者の木村元彦氏にぶつけると、「上部組織が世界的組織のFIFAと違い、アメリカ中心のMLBでは難しいかな……」と首を捻った。
ならば日本のプロ野球は、片山杜秀氏が書いたように、《米国の助っ人になるくらいが関の山なのか。戦後80年。日本人の親米か忠米の精神は遂に完成の域に達してきたようにも感じられる》
アメリカ生まれのベースボールとはいえ、プロ野球が日本の「親米忠米外交」と歩調を合わせないよう注意してほしいものだ。
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