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今年の4月から専修大学文学部で、「スポーツジャーナリズム論」の授業を担当することになった。
過去にも京都龍谷大学や日本福祉大学、筑波大学、静岡文化芸術大学、一橋大学、立教大学、国士舘大学や、それらの大学院で教壇に立ったことはある。が、コロナ禍で中断して以来、久し振りに再び教鞭を執ることになった。
今回は小生個人への依頼ではなく、本誌の発行人であり、YouTube番組「TAMAKIのスポーツジャーナリズム」にもチャンネルパートナーとしてスポンサードしていただいている(株)フォーラムエイトを代表する形で教壇に立つことになったので、これまで以上に身の引き締まる思いがしている。
授業内容は、「スポーツの学び方」「スポーツの見方(何を見るべきか?)」「インタヴューの仕方」「原稿の書き方」といった方法論から、「スポーツとは何か?」「ジャーナリズムとは何か?」「日本のスポーツジャーナリズムの歴史」など、本質論まで15回にわたって多岐に及ぶ。
が、そのなかでスポーツとは一見無関係に思われる「サブ能力(趣味)の活用」という授業を1回だけ設けている。
それはスポーツ以外の自分の好きなことを大いに生かすべし、という授業である。将棋でも囲碁でも麻雀でもゲームでも、映画なら恋愛映画でもSF映画でも、小説なら恋愛小説でもミステリーでも歴史小説でも、音楽ならロックでもレゲエでもジャズでも、とにかく自分の趣味をスポーツジャーナリズムに生かそうという内容だ。
その一例として紹介したいのが、音楽とオペラである。
小生は小学生の頃から、音楽大学のピアノ科を卒業した叔父にクラシック音楽を何度も聴かされ、生まれ育った京都・祇園町が南座のすぐ近くだったこともあって、幼稚園の頃から歌舞伎にも親しんだ。そのため、いつの間にかクラシック音楽だけでなく、"音楽+芝居"であるオペラも大好きになってしまった。
そのため今年のミラノ・コルチナ冬季オリンピックの開会式で、イタリア・オペラの大作曲家ロッシーニ、ヴェルディ、プッチーニが頭デッカチの着ぐるみ人形となって登場したときには大喜びした。
日本ではオペラというと、高級で高尚な敷居の高い芸術と思われがちだが、その内容は男と女の恋愛物語が9割以上。不倫や三角関係、密会や略奪愛、嫉妬など、禁断の恋を描いた作品がほとんどである。
つまり極めて人間臭い物語ばかりであり、その作曲家たちは学校の音楽室に飾られる厳めしい肖像画よりも、頭デッカチの着ぐるみ人形のほうがよほど似合う。さすがはオペラの本場イタリア人のセンスだと感心した。
閉会式でも、ロッシーニの『セビリャの理髪師』のフィガロ、ヴェルディの『リゴレット』の主人公、さらにプッチーニの『蝶々夫人』『トゥーランドット』が登場し、大いに楽しませてもらった。
そういえば『トゥーランドット』は、2006年トリノ冬季五輪で荒川靜香さんが金メダルを獲得した際の使用曲としても有名だ。氷のように冷たい心を持つトゥーランドット姫が、異国の王子カラフの愛によって心を開き、結ばれるという物語を、荒川さんは見事に演じ切った。
同じ音楽を、編曲こそ異なるものの、今年のミラノでは鍵山優真さんも使用して銀メダルを獲得した。しかし、この曲はやはり王子によって心を動かされる女性の心理を描いた音楽だけに、男性選手が滑るには少々無理があったようにも思えた。
その点、音楽とスケーティングが100%一致していたのは、女子シングル・ショートプログラムでフェデリコ・フェリーニ監督の映画『道(ラ・ストラーダ)』の音楽を用いて最高得点を記録した中井亜美さんだった。
アンソニー・クイン演じる粗暴な大道芸人に黙って付き従う純真な少女ジェルソミーナを、ジュリエッタ・マシーナが演じた名作映画。その美しい音楽(ニーノ・ロータ作曲)に乗せて、中井さんは純粋無垢な少女像を見事に表現した。なお、ニーノ・ロータは映画『太陽がいっぱい』や『ゴッドファーザー』の音楽でも知られる作曲家である。
中井さんはフリーでも『この素晴らしき世界(What a Wonderful World)』で素晴らしい演技を披露し、銅メダルを獲得した。ただ、歌声は女性歌手ではなく、ルイ・アームストロングのあの魅力的な濁声を使ってほしかった、とも思った。
そんななかで、最も見事な音楽とのコラボレーションを見せてくれたのは、坂本花織さんのフリー演技とシャンソン『愛の賛歌』だった。
実はテレビ中継では『愛の賛歌』とだけ紹介されたが、演技では3曲のシャンソンが使われ、最後に流れたのは『水に流して』だった。この邦題は岩谷時子さんによる名訳だが、原題の「Je ne regrette rien」を直訳すれば「私は絶対に後悔しない」となる。
この曲は、『愛の賛歌』と同じエディット・ピアフが晩年に大ヒットさせた代表作である。娼婦の家に生まれ、貧困生活を送りながら歌手として成功し、その後も失恋や結婚生活の破綻、薬物や酒に苦しんだ彼女が、人生の最後に大劇場で復活した際、「私は後悔しない」と歌い上げた名曲なのだ。
そんな歌を、オリンピック前に引退を表明していた坂本花織さんが最後に選んだ。残念ながら坂本さんは小さなミスで金メダルを逃し銀メダルに終わったが、最後の『水に流して(私は後悔しない)』に込められた意味に解説で触れたのは、元フィギュアスケーターの町田樹さん一人だけだったのは少々残念だった。
スポーツジャーナリズムにおける「サブ能力(趣味)の活用」という話題が、今回はフィギュアスケートと音楽だけの話になってしまった。しかし、フィギュアスケート以外のスポーツにも、そして音楽以外のジャンルにも、スポーツをより豊かに楽しむためのツールは、まだまだ数多く存在するはずである。
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