コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2020-02-26
この文章は、2月28日に春陽堂書店から上梓された拙著『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』に書いた「まえがき」の冒頭部分の一部です。“蔵出しコラム・スポーツ編”や“音楽編”にも書いたことですが、これまで小生は、35歳になった頃から翻訳書も含め、平均して年に1冊くらいのペースで拙著を出版してきました。自分で書いた本ができあがって書店に並ぶというのは、子供の姿を見るように愛しいものです。しかも、そろそろ「末っ子」になるかもしれないという本書です。ひとりでも多くの読者の方々に読んでいただけることを祈念して、ほんの少しだけ“蔵出し”させていただきます。皆さん、よろしくお願いします。

まえがき――今こそ「スポーツとは何か?」を考え直してみよう!

 今から約20年前の1999年8月、拙著『スポーツとは何か』(講談社現代新書)を上梓したとき、わたしは、「スポーツの過去・未来――まえがきにかえて」と題した文章を、次のような書き出しで始めた。

《いま、スポーツが、暴走している。
 テレビのスイッチをひねると、いつでも、どこかのチャンネルで、必ずスポーツ番組が放送されている。世界のニュースのトップ項目が、スポーツの話題であるというのも、けっして珍しいことではなくなった。ビッグ・スポーツ・イベントが、国内大会、国際大会ともに、目白押し開催され、新聞にも雑誌にも、スポーツの情報がつねに満載されている。 これほどスポーツが繁栄した時代は、過去にない。
 おそらく将来も、スポーツは「暴走」といえるほどに繁栄しつづけることだろう……》

 幸いなことに、この本はそれから16刷も増刷され、多くの人々に読まれ、今も書店に並んでいる。そして、別にわたしが書いた「予想」の正しさを自慢するわけではないが、今も《スポーツは「暴走」といえるほどに繁栄し続けている》。それどころか、昨年のワールドカップ・ラグビー日本大会や、今年の東京オリンピック・パラリンピック大会、来年のワールド・マスターズゲーム、そしてサッカー・ワールドカップ・カタール大会などのビッグイベントを例にあげるまでもなく、スポーツは、日本でも、世界でも、ますます《「暴走」といえるほどの繁栄》を恣(ほしいまま)にしている。

 しかし、まったく残念なことに、この本でわたしが主張したかったこと――すなわち「スポーツとは何か?」という疑問を抱き、それなりの答えを認識するようになるということ――が、多くの人々のあいだに広まったかどうか、ということを考えると、まだまだ覚束ない状況にあると言わざるを得ない。

 つまり「スポーツ」とは「体育(フィジカル・エデュケーション=身体教育)」とはまったく異なる「文化(カルチャー)」であること、「カルチャー」とは誰もがみんなで創りあげるモノであること、だから「スポーツ」は政府や企業やメディアや特定の団体によって独占利用されてはならないものであり、「スポーツ」とはスポーツを行う人が先人から教わることはあっても、上意下達のように命令されるものではない(体罰など毛頭あり得ない!)……といった認識が、多くの人々の常識としてはまだまだ広まっていないと言うほかない。

 もちろん、わたしの著した一冊のペーパーバックが、社会に対して大きな影響を与えることができる、などと思いあがった妄想を抱いてるわけではない。が、「スポーツとは体育とは異なる文化」というのは、わたし個人の私的な考えなどではなく、それは事実であり、「スポーツと体育は同じ意味」「体育はスポーツの翻訳語」という考えは間違っているのだ。

 スポーツとは、体育だけでなく知育も徳育もふくむ文化……ということは、旧作以上に本書に詳しく書いているが、それに加えて本書では、スポーツと文学、スポーツと絵画、スポーツと音楽など、スポーツときわめて密接な関係にある芸術を取りあげた(オリンピックにも、かつては絵画や彫刻、作曲や詩の創作などが、芸術競技として正式に行われ、今も文化週間の実施が義務づけられているくらい、スポーツとアートは密接な関係にありますからね)。

 それに、eスポーツの問題、遺伝子ドーピングなど新たなドーピング問題、両性具有の女子選手の問題など、旧作を著した時点では存在しなかったスポーツにおける新たなトレンドと、その問題点なども取りあげた。

 そんな時代の変化のなかで、わたし自身にも大きな変化があった。
 それはノルベルト・エリアス(1897〜1993)というユダヤ系ドイツ人の社会学者の唱えたスポーツ論――スポーツという文化は民主制の社会からしか生まれない――を、多木浩二氏(1928〜2011)の著作(『スポーツを考える――身体・資本・ナショナリズム』ちくま新書)などを通じて学んだことだった。スポーツという文化が「反暴力」の「傷つけるな! 殺すな!」という思想をふくんでいることには気づいていて、そのことは旧作にも書いたが、それが民主主義や民主制社会と深い関係にあるということは知らなかったし、気づかなかった。

 この確かに納得できるエリアスの正論との出逢いは、私にとって、中村敏雄氏(1929〜2011)と出逢い、スポーツという人間の創った文化の奥深さを教わり、スポーツと体育の違いを明確に自覚できて以来の素晴らしくも衝撃的な出逢いということができた(中村敏雄氏については『中村敏雄著作集 別巻』創文企画 に「ジャーナリズムとアカデミズムの狭間で」という拙文を書いていますので、興味のある方は是非ともお読みください)。そんななかで、本書のなかには、「スポーツ民主制社会誕生説」というべきエリアスの正論が何度か繰り返し登場するが、それは、小生がとりわけ重要で、多くの人々に伝えたい事実だと諒解して読んでいただければありがたい。
       *
 このまえがきの冒頭で、旧著の「いま、スポーツが、暴走している」という一文を引用した。それを書いたときは、特に強く意識したわけではなかったが、あらためて考え直して見ると昨今のスポーツの繁栄ぶりは、「快走」でもなければ「疾走」でも「激走」でもなく、「暴走」と呼ぶにふさわしい気がする。

 スポーツの持つ意味、その価値、その意義、その文化的重要性を十分理解したうえで、スポーツが広く愛され、語られ、つくりあげられるのではなく、多くのスポーツ情報が飛び交うなかで、見物され、楽しまれ、消費される(そして忘れられる)だけでは、まさに「暴走」というほかない情況と言えるだろう。

 平和運動や文化活動の側面は忘れられてメダル獲得数だけが騒がれるオリンピックや、特定の地域の大学しか出場できないのに全国的に騒がれる箱根駅伝、それに半世紀前と同じ数の12球団だけでペナントレースが繰り返され、優秀な選手が次々と球団数を倍増したアメリカ・メジャーリーグに奪われ続けるプロ野球や、1学期の学期末試験中に予選が行われ、猛暑酷暑のなか行われる高校野球……などなど、はたしてそれらが「スポーツ文化」と呼べるものかどうか、大いに首を傾げたくなる状態であるにもかかわらず、マスメディアは大騒ぎし、多くの人々がそれに踊らされているような情況は、やはり「文化」としての蓄積に欠け、単なる娯楽として「消費」されるだけに終わっているというほかなく、根本的に糺されるべき事態というべきだろう。

 それには、まず「スポーツとは何か?」という疑問が投げかけられ、それに対する答えをみんなで考え直さなければならないだろう。
 スポーツは、やはり「暴走」させてはならない。スポーツは、やはり「文化」として着実に根付くような確かな歩みのなかで広がっていかねばならない。…………
(以下は、拙著をご購入のうえで、お読みいただければ幸いです。ちなみに「目次」は、“蔵出しコラム・スポーツ編”に“蔵出し”していますので、参考にしてください。よろしく!

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・ 「文化」の持つ本当の力

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・ <二人袴>

・ 女人狂言『茶壺 de Hermes』

・ 私の行きつけの店・好きな店

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・ 個人的パラダイム・シフトに導かれた三冊

・ ゴシック・万博・ストリップ・吉本…を読む

・ 現代と未来の世界を考えるうえでの「真の世界史情報」(井野瀬久美恵・著『興亡の世界史16 大英帝国という経験』)

・ 300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第3弾!

・ 300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第2弾!

・ 300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第1弾!

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・ 現代日本人必読の一冊

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・ 「ある女の一生」

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・ わたしは猫になりたい。

・ 読書日記〜稲垣足穂から梅原猛まで

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・ 戦争と軍隊の歴史

・ スポーツと音楽を通して出逢ったトリュフ

・ スポーツ・ジャーナリストにはスポーツよりも大事なものがある?

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・ 日本人は元気だ――24人の元気な日本人

・ 美しい最後の素晴らしさ

・ 「若い国」アメリカ

・ 京都人の溜息

・ 経済には倫理が必要である

・ オススメ脳味噌のマッサージ

・ 吉本興業は匈奴である『わらわしたい――竹中版正調よしもと林正之助伝』竹中功・著/河出書房新社

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・ 胡散臭さ礼賛――竹内久美子『賭博と国家と男と女』(日本経済新聞社)

・ 衝撃的な笑劇――レイ・クーニー『笑劇集』劇書房

・ 翻訳って何?――『翻訳史のプロムナード』(辻由美・著/みすず書房・刊)

・ 脳細胞の組み替え――『世界史の誕生』岡田英弘・著/筑摩書房(現・ちくま文庫)

・ 長老の話――堀田善衛・著『めぐりあいし人びと』を読んで

・ 古典の楽しさ

・ ドリトル先生 不思議な本

・ 京都が消える

・ 嬉しいこと――喜びは常に過去のもの

・ 野村万之丞 ラジカルな伝統継承者(2)

・ 野村万之丞 ラジカルな伝統継承者(1)

・ 事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第5回=最終回)

・ 事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第4回)

・ 事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第3回)

・ 事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第2回)

・ 事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第1回)

・ 先達はあらまほしきか?

・ 旅の衣は篠懸(すずかけ)の

・ パチンコと飢餓海峡

・ 最近の映画はつまらない?いや、やっぱり、映画はおもしろい?

・ 神道、天皇、韓国・・・を読む。

・ はかなく、素晴らしい、味わい

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